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ホラー映画嫌いが観た「関心領域」!予想外の恐怖と今観るべき理由とは?

私は普段ホラー映画を全く見ない。

お風呂で頭を洗った後、鏡を見ないようにギュッと目をつぶり続けるぐらいビビリだからだ。

でも、史上最も怖いホラー映画なら一周回って逆に怖く無いのでは無いかと思って「関心領域」を見ることにした。

初日に観にいく

ムビチケ前売り券は通常チケットより安いことをご存知だろうか。(私はこの時知った…)

そのほか割引券を併用して、600円ぐらいでムビチケを購入できた。

時間が経つと想像が膨らんで怖くなって観に行かなくなるかもしれないと思って公開日の初日に観にいくことにした。

(結局前日の夜は同居人に「明日が怖いよー」と泣き言を言っていたのだが…)


(*以下少しネタバレが入りますので、知りたくない人は飛ばしてください。)

絶対に許さないからなという強い怒りのメッセージ

この映画の内容は、第二次世界大戦下のナチス領ドイツ(元ポーランド)のアウシュビッツ収容所の隣にすむ一家の約1年を描いた物語である。

私の予想では、「関心領域」というタイトルから想像できるように、収容所の隣で暮らしているのに、そこに関心を持たない家族の様子と、残酷なことが行われているアウシュビッツ収容所を、同時に観客に見せ続けることで恐怖感を与える映画だと考えていた。

こうした戦争を題材に扱った作品は、根底に「同じような過ちを繰り返さないために同じような人間を産まない」というメッセージが多いと個人的に思っている。

しかしこの映画は違った。

ルドルフという上級軍人がこの家族の大黒柱なのだが、序盤のルドルフ夫妻の会話を聞いていると、非常に腹が立ってくる。特に妻の言動は戦時中とはいえ、ドン引きするものばかりである。
こんな会話をしている夫婦の隣で尊い命が奪われていたんだぞ、と突きつけられた。

ラストが現代のアウシュビッツ収容所(展示室として公開されている)の清掃のシーンに切り替わるのだが、そこには、80年が経つ今も負の遺産は残っている、絶対に許さないからなという強い怒りのメッセージがあった。(日本もこれぐらいはっきり怒った方がいいのではないかと考えさせられる。)

知らぬ間に仕込まれる

この映画のすごいところが、こうしたメッセージを終始突きつけながら、100分ぐらいかけてこの非人道的な過ちを犯した人間と同じような思考回路を、知らぬ間に観客に仕込んでいるということである。

ストーリーの終盤、ルドルフがダンスホールで踊る人々を2階から見下ろすシーンがある。
狭い空間に、戦争によって富を気づいた人々がひしめき合う様子はガス室のそれを彷彿とさせた。

「どうやったら効率的に「任務完了」できるかを考えていた」とルドルフが妻に電話口で告げる時、私も同じことを考えてしまっていたと気づき、背筋が凍る思いがした。

なぜそんなことを考えてしまったかという弁明をすると、長時間、のどかな景色の映像と小さく聞こえる叫び声や銃声のような音声にすごく疲れていた。
お願いだからこの状況をどうにか終わらせてくれないか、と観客はみんな心の中で祈っていたのではないだろうか。

映画だからこそ

もう一個この映画のすごいところをあげるならば、「映画というメディアを最大限活かしている」と言う点にある。

何か作品を作る時、伝える内容によって最適な媒体は異なるし、伝える側は、本当にこの媒体で表現する意味があるのかという問題に直面する。
(自分もこのテーマはダンスでやる必要があるのか?を考えることがある。)

その問題を、「いっぺんに大勢の目に触れるから、大量に似た思考を持つ人を作れる」というかつてナチスのプロパガンダに悪用された映画の特性を逆手に取っているという点で強い説得力があるし、頭一つ抜きん出ている。

また、この一家のように隣で起きている凄惨な事に関心をあえて持たないで非常時を生き抜くということは人間の本能、生存戦略であり、仕方がないことである。

映画は神の視点(客観視)で観客が見ることができる媒体であり、この視点を観客が体験することで、人間の本能、生存戦略で(しかたがないことを)避けられないという、絶対的な恐怖感を喚起することに成功している。

最後に

最後に、この映画を観に行こうか迷っている人に伝えておきたいことがある。

映像の中で直接的な殺戮のシーンは一個もない。ただ、鮮明な音や映像と、よく練られた構成によって観る人の頭の中でいろんな種類の怖さが共鳴して増幅していく

きっと配信もあるとは思うが、この体験は映画館でしか味わえないと思う。

一回公開終了になるとなかなか観られないので、ぜひ今すぐ予約してみてはいかがだろうか。

(ちなみに、夜はうなされることもなく、案外ぐっすり寝られました。)

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