見出し画像

<第29話>外務省をぶっ壊す!~私、美賀市議会議員選挙に出ます!~

月曜日~金曜日更新
 この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

<第29話>
夜行バスで東京から帰ってきた。
東京都庁へ行くのは、当時、都知事だった舛添要一の都知事辞職を求める陳情書を提出しに行って以来である。
今回はなんと人生で初めての記者会見だ。
まだ一政治団体でしかない外国党にとっては、初めての国政選挙であり、その第25回参議院議員選挙においては比例区とほぼ全国の選挙区に合計で40名の立候補者を立てる事になっていた。
当然にマスコミからも注目され、私は親からも激励を受け、特別会議室内にはカメラマンや各新聞社の記者、フリーライターやらで、ごった返していた。
そして何より、自分にとって初めての全国ニュースデビュー!という事もあり、心臓バクバク、いつもより1.3倍の厚塗りファンデーションで臨んだのであるが、注目されていたのは各マスコミが独自に前もってリサーチしていた美男美女だけであった。


候補者がテーブルに着く園町代表の後ろにずらーっと並び、自分は全国の立候補者の名前が紹介される時に一度だけ「はい」と言って一歩前に出てお辞儀をした。そしてその数秒で出番も役目も終了という事にあいなった。
すっかり蚊帳の外に置かれ、トホホな気分のまま、スタッフさんたちが連日連夜の激務をこなして作ってくれた書類が入った大きな紙袋を大事にガラガラカートにガムテープでグルグル巻きに固定して、一人帰りの夜行バスに乗ったのである。
もちろん、バスのトランクルームには預けないで、帰途に着くまでしっかり座席で抱きかかえた。
それにしてもこんな奇抜な選挙戦略を立てられる園町代表には恐れ入るしかなく、天才だ!と思っていたが、これは25才も年上の彼女のアイデアだと言う。


この日もインタビューを早々に切り上げ「みんな面白い政見放送やれよ」とだけ言い残してその彼女とどこかへ消えてしまった。
代表の熟女好きは噂には聞いていたが、まさか自分の親ほどの年齢の女性だとは思ってなかったので腰を抜かした。
しかも獣医らしい。
どうりでダチョウの例話しは悉く筋が通っており説得力がある筈である。
自分も「世の中の巨悪に対する抗体と化した園町代表」の一助となるべく襟を正すのであった。

7月初めの早朝5時半、名倉駅にはバスから降りた私だけしかおらず、肌寒かった。
ぼやけた視界の中で動いてるものはスズメしかいない。
誰も迎えに来てくれないので、こんな時間でも唯一開いているマックの方向に一人テクテク歩く。
これから自宅まで、更に電車、バスを乗り継いで帰らねばならない。
翌日には三重県庁へ事前審査に行かねばならない。
広報に載せる顔写真も撮りに行かねばならない。
何より政見放送をカッチリと仕上げなきゃいけない。
告示日には広報のクーポン券というものを忘れずに外国党本部に誰にも取られないように速達で送らねばならない。
ちゃんと政見放送の申し込みをして放送決定票を貰わねばならない。
もう自動的に立候補と同時に放送出来る様に県庁とNHKと三重放送とラジオ局が連携しておけば良いものを、いちいち手続きさせる旧態依然としたシステムには憤りを覚えざるを得ない。
いったい何年選挙やってんだ!クソが!


カートが早朝のオフィス街にガラガラ響く。
「しかし、立候補するまでにこんなに手間暇屈辱、何よりお金が掛かるなんてパニックですわ。」
というか、選挙制度自体がアホや貧乏人を排除しているではないか!?
「高学歴の与党の候補者は上げ膳据え膳、かつ神輿に乗っかるだけでええよなぁ~」
思わず大きな独り言を言ってしまった。

遠い昔、たしか高2の17才の時、同級生が唐突に毅然と言ったセリフが忘れられない。
「東大出てもアホはおる!」
そのセリフが更に今の自分を惨めにさせた。

つづく。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?