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<第0~1話>外務省をぶっ壊す!~私、美賀市議会議員選挙に出ます!~


月曜日~金曜日更新
この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

<第0話>
令和元年6月のこと、三重県人権啓発センターの職員、井戸隆が消えた。(爆

<第1話>
3か月前:
「あのさぁ、世の中にはいっぱい殺人事件って起きるでしょ?」とさりげなく目の前のお巡りさんに聞いてみた。頼りなさげだが、階級は警部補だ。
私は犯罪者でも被疑者でもないが、この三重県警名倉署の取り調べ室に来るのがここ数年の月間行事になっている。


私よりちょっと年下、弟にしては離れすぎ、
恋愛対象とするならかなり男の方に勇気がないと無理かな?という感じの生活安全課の警官、名前は杉村に今日も会いに来た。
妻一人、子供が二人いるこの男は「んー」と度のきついメガネを通して、たった今私が書いた道路使用許可書を慎重にチェックしている。
文字を追って顔が左から右に振れる。
唇がかすかに「カドタマチルダ」と動いている。
たかだかアラフィフのオバハン一人が津駅前で喋るだけに、この国は大そうな書類をワンサカ書かせる。
もちろん、この場合のワンサカというのはメンタル的な意味で、実際は満期を迎えた生命保険の給付金申請書類の方がよっぽど多くて面倒だ。


「もしさぁ~、私が誰かを殺していたとして、どこかで誰かの死体が見つかったとして、警察は捜査する訳なんだけどお~、私がまだ犯人とは分らない訳だからぁ~」とかねてから聞きたかった質問を思いきって聞いてみる事にした。
私は紆余曲折あって、日本の間違った自虐史観を覆すが如く、立ち上がった自称、極右主婦だ。
「非理法権天、愛国無罪」という響きに陶酔して久しい。

特に、我が国が真珠湾攻撃において米国に卑怯者の汚名を着せられる原因を作った外務省には心底怒っている。
宣戦布告ともいえる対米覚書の送信を放ったらかし、送別会だのトランプだのに興じていたとは、万死に値するではないか!
北朝鮮の蛮行による日本人拉致被害者が帰ってこないのも外務省がドン臭いからだ。
世界中に建てられる捏造慰安婦像にしても、腕ずくで阻止しないのも外務省がボケーっとしてきたからだ。
とにかく我が国の汚名返上のため、日本人として真の歴史的事実を周知徹底するため、弛まぬ愛国活動によって「浄化させた外務省」を次世代の同胞へ受け渡すため、毎月街頭で訴えている。

そして昨今、話題になっている「外務省から国民を守る会」の代表から直々に公認をもらい、美賀市の市議会議員選挙に出馬する事になったのだ。
これは五十路にして初めて舞い込んだ運命だと思う。

杉村から仄かにせっけんの匂いがする。
いつも身なりがキチンとしており、Yシャツに糊も効いている。

「でもなんとなーく、私の事が怪しいなぁ~って警察が思ったとしてぇ~」と言いながら私は若干アゴを挙げる。
杉村を見下した格好になっているが、この真面目な警部補は気付かない。
とうとう「んー・・」とも言わなくなって、ますます目を凝らして必要事項の文字に食い入っている。しばらく返事はなさそうだ。
杉村にしてみれば、ちょっとでもミスがあると県警本部に受理してもらえない。
それ以前に公安委員会へ街宣の主旨を説明し許可に導くプレゼンを成功させなければ、オバハンごときに費やした時間、労力の全てが無駄になる。
要するに多少なりとも自分の評価が下がる事はしたくないのだ。


こうした退屈な時、時間しのぎに壁の落書きに目をやるが、ハートマークやら卑猥な文言やら、もう何度も申請に来て全部読破してしまっていた。
しょうがない。例え所轄でも、ここは真剣勝負、男の仕事なのだ!と理解し返事を待つ事にする。

「ブーン・ブーン」とケータイのバイブが鳴るも「はい。今、取り込み中!」と最小限の応答で切る。
また奴だ!
カルレの下着販売をしているかつての上司、若葉たかゑである。
月間ノルマに達しないと頼ってくるのが恒例になっていて迷惑していた。


ようやく顔を上げ、愁眉を開いた杉村が「次はハンコですね。」と言う。
書類の横にはちゃんと朱肉まで用意されている。
ここまでくればこの下らない儀式の9割が済んだ事になる。
「ココ押して下さい。次はココです。」という具合に丁寧に私が割り印を押す場所を慎重に手で押さえながら促してくれる。
日本の警察は親切だ。
学生時代も社会人になってからも男性にこんなに親切された経験は一度もない。
「でさぁ~」
質問を続ける。


杉村はすっかり雑談に応じるスタンバイが整い、キリッとビジネスライクな笑顔を向けた。
若干緊張して、たかゑに買わされたブラがキツくなってきた。
「私の周りで一体、何人消えた時に警察って動くの?」
「分りません」と杉村は至ってクールだ。
「じゃあ、人を殺しても最悪、死刑にだけはならない鉄板の言い訳教えて!」と前のめって聞いてみた。
愛想の良い杉村が一瞬、目を丸くしたのもつかの間、唇を引き結び、一呼吸置いて、“警官”の顔で言い放った。
「そんな事言える訳ないじゃないですか!ここ警察ですよ!」

つづく。

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