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<第38話>外務省をぶっ壊す!~私、美賀市議会議員選挙に出ます!~

月曜日~金曜日更新
 この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

<第38話>
未来荘前の駐車場で縄跳びをする。
気分転換のために掛ける金はない。
たかゑのせいで静寂な青堅寺湖のダム湖に行けなくなってしまった。
早く政見放送の内容を煮詰めなければならない。
それにしても警官にパンツを売るなんて、たかゑの奴め、頭がいいのか悪いのか?
かつて私に高級パンツを薦める際に「お尻の丸みを潰さない!」「お尻!お尻!」とやたら言ってきたが、男の警官には何と言うのであろうか?
まさか「キンタマの丸みを潰さない!」「キンタマ!キンタマ!」とでも言うのであろうか?
止まってたパトカーに営業を掛けたと言っていたから、路上で「キンタマ!キンタマ!」と叫んでたら、それ自体がワイセツな犯罪である気がする。

夕暮れ、ジャンプしながら政見放送で英霊に捧げる原稿の続きを考える。
たかゑから買ったブラジャーは高級なだけあって飛んでも跳ねても両乳がしっかりカップで支えられていた。
ジメジメした土の匂いが、子供の頃に工事現場でどろんこになった記憶を呼び覚ます。
「キンタマキンタマ」ってどしたんや?
大家さんが部屋から出て来てしまった。
ハッと我に返る。
また私は大きな独り言を言ってたようだ。
「ああ、失礼しました。考え事をしていたもので・・・」


髪を整え、国政選挙への出馬を控えた者として気取って答えたが、発してた単語は「キンタマ」である。
大家さんは、うっかり転倒してそのまま寝たきりになってもおかしくないお歳だが、いたってお元気だ。
折り畳みのパイプ椅子をパタンと広げて、夕涼みのスタンバイをしてる。
「いや~、あの、パンツを売ってる知り合いがいて・・・」と事の経緯を話そうとしたが、椅子に座った大家さんの視線は、まっすぐある方向の一点を見つめている。
向かいに建つ石田ハイツのドアごと青く塗りつぶされたあの部屋だ。
釣られて自分もそちらを向く。
「そういえば、あの部屋のドアは何で青く塗りつぶされているんですか?」
「ああ、あれな。事故物件だわさ」とあっさりと答えた。
背筋がゾクッとして着地する時、足が捻挫しそうになった。
「へ~。誰かお亡くなりになったのですかぁ?」
2カ月もの間ずっと気になってた事だ。
「いや、はっきりした事は解らんのやけんど、住んでた人がおらんようなったちゅーて」
「へー。」
「そんで、ダム湖に身投げしたちゅーていう人があったり、殺されたちゅー人があったりで、わからんまんまやて」
ふーんと聞きながら、それで警察は青堅寺湖のダム湖のまわりをよくパトロールしてるのだと合点がいった。
「じゃあ、夜逃げとかなんかの事情で戻ってきてないだけって事もあるかもしれないですね」と振ってみた。


「いや!出るんやに」大家さんは目をシバシバさせて断言した。
両手は「恨めしや~」のポーズだ。
「げっげげー。ホントですか?」と肩をビクビクさせた。
夕焼けが空を覆い始め、バイクでバタバタっとやってきた郵便配達員が石田ハイツの一軒一軒のドアに郵便物を投函している。
「しゃーから、隣の部屋まで借り手がのうなって、今、クリーニング屋の倉庫になってるわしてぇ・・・。」


そう言って大家さんはポケットから出したケータイを弄り始め、目で株式市況を追い出した。
え、クリーニング屋の倉庫?
私は泥がついた縄を4っつに折りながら、あの部屋の前のひんやりした感じを思い出していた。

つづく。



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