不便だ、とわがままを言った

阪神淡路大震災から二十五年。神戸生まれ・神戸育ちとして忘れられない。
あのとき中学生で、住んでいるマンションは無事だった。
水、ガスがすぐ止まった。電気も。なにが起きたのかテレビで見た記憶が無いからたぶん電気もすぐに止まった。当日の午後に近所の大学の体育館に避難して、そこでやっとなにが起きたのかをテレビで見たような記憶がある。

マシュマロで、阪神淡路大震災について質問をいただいた。

一番不便だったことは、ダントツでトイレ問題。ほかは我慢できても生理現象は止められない。
二十五年前のことだからか、揺れたときのこと、逃げるときの風景は焼きついているのに、トイレ、避難所、こまごました生活のことが思い出せない。

両親が地域の仕事をしていたので、二人に職場に行ってくれといっぱしに頼んだ記憶はある。そういう人間なのだ、わたしは。思い返すと、こまっしゃくれていて素直じゃなくて自分のことを恥ずかしく思う。後悔している。直下型地震の圧倒的な破壊力に「行くべきやろか…」とすこしの間戸惑っていた親の顔は今でも浮かぶ。わたしがうながさなくとも二人は職場に行っただろうけど、救援活動や焼けてしまった地域の仕事を長期間することで二人は精神的におおきなダメージをうけ、その後の家族関係にも影響を及ぼす一因になった。

わたしの家は壊れなかったし揺れかたと食器棚の位置関係によって食器もほとんど割れなかった。祖父母の家が半壊で引越しを余儀なくされたものの、阪神間に住む親族はほとんど無事。だから語る資格が無い、と思う時期もあった。

その後、たくさんの災害発生を外がわから見ることで、語ることに資格や条件はいらないことにわたしは気づいた。家が壊れなかった人の日々も、語りたければ語ればいい。たぶんわたしは吐き出すことで自分の背中を撫でている。

震災発生直後はトイレ問題が一番不便だった。
その後は食事。当日か次の日の昼間は母の職場に居たが、そのときにどなたかがおにぎりをさしいれてくれた。ほとんど食べていなかったので、塩むすびがおいしくて、お米から味が湧きでるようだった。

受験を控えたわたしは兵庫県北部の親戚のもとに二ヶ月ほど疎開し、卒業式が近づいたため神戸に帰ってきたのだが、実家は山の上にあったので工事が遅れ三月でもまだガスが通っていなかった。
震災当日からしばらくは気丈なふりをしていたわたしだったが、卒業式の前日もお風呂に入れないことに泣いた。つくづく、うわっつらだけ大人ぶった子どもだった。周りは家を焼かれているのに、すべてが無事だった家でお風呂に入りたいと言い、ガスが通っていないことを、不便だと思っていた。

今日、実家に帰って両親にあの月のお給料は引き出せたの？と聞いてみた。二人ともたぶん…次月にまとまってたのかな…覚えてないね、と言う。そうだよね覚えてないよね、と地震の話はやめた。みんなでおでんを食べた。