「あたしもお疲れさまと言われたい!」妻にそう言われた日のこと
それは、確か子どもの寝かしつけが終わった頃だったと思う。
子どもたちを寝かしつけ、寝室からフラフラになりながら出てきた妻は、何かを強く我慢するような顔をしたあと、ぼくにこう言った。
「あたしもお疲れさまと言われたい!」
その時の妻の顔は今でも忘れられない。
ぼくに対する怒り、まだ小さい(確かその頃は2歳くらいだった)子どもたちの面倒による慢性的な疲労、そして、自分の不満を言ってはいけないという感情を打ち破るための勇気
そんなすべての感情が妻から溢れ出て、その時になってやっとぼくは気がついた。
ああ、ぼくは、妻を気遣っていなかったんだなと。
◇
当時、ぼくはできるだけ定時で帰ろうとしていて、家に帰ってから子どもたちをお風呂に入れたり、寝かしつけを妻と一緒にしたりと、それなりに「いいパパ」をしていると思っていたんですね。
周りからも「よくやっているね」と言われて、(ああ、俺はいいパパなのか)とも思っていました。
でも、いいパパであることと、いい夫であることは別物なんですよね。
これって、結構多くの男性が陥りやすいトラップだと思うんです。
子どもが生まれて「よし!育児をがんばるぞ!」と思う男性は増えていると思うけど、「より!妻のケアをがんばるぞ!」と思う男性って少ないと思うんですね。
もし、あなたの夫が「妻のケアをがんばるぞ!」タイプだったら、それってめちゃめちゃレアで、ものすごく幸せなことだと思います。
ぼくは「育児をがんばるぞ!」タイプだったんですね。
「育児を頑張るぞ!」タイプの夫の問題点は、家事や育児に関して自分はできていると思っているから、ちょっとでも妻ができていないと思ったり、やり方がおかしいと思った時に、妻を責めてしまうことだと思うんです。
◇
ある日、仕事を終えて家に帰ると、子どもたちがテレビのまん前に座ってボーッとテレビを見ていて、妻もその後ろにへたりこんでボーッとしていたんですね。
「こんな近くでテレビを見せるなよ!」
と、ぼくは妻に怒り、子どもたちをテレビから離れさせたことがありました。
当時のぼくはなにもわかっていなくて、家で妻がどういう生活をしているかなんて、ほとんど理解してなかったんですね。理解しようともしてなかったと思います。
ぼくも毎日睡眠不足で仕事に行っていたので、自分のことで手一杯だったというのもあります。
毎日19時になると、夫が帰ってくる。それまではがんばろう。もうすぐ19時だな。もうすぐ楽になれるんだな。
あとで本人から聞きましたが、妻はそんなふうに思いながら、辛い毎日を乗り切っていたんです。
もうすぐぼくが帰ってくる。ぼくが帰ってくれば一息つける。
でも、家に帰ってきたぼくがやったことは、妻を叱ることでした。
ぼくは自分の大切な人のことをなにもわかっていなかったんです。
いや、その当時は妻より自分のことを大切にしていたのかもしれません。
ぼくらは、当時、夜の授乳を交代制にしていて、ぼくは朝の4時から6時頃までを担当していてそのあとに仕事に行っていました。
ぼくも睡眠不足でまともな思考ができず、自分の生存に集中していたんだと思うんです。
でも、妻に「あたしもお疲れさまと言われたい!」と言われた日に気が付いたんです。
このままじゃダメだってことに。
ぼくは妻の方を向いていない。自分自身と子どもたちの方しか向いていないってことに。
◇
本気で妻のケアをするようになったのは、下の記事で書いたように三男が生まれてからでしたが、妻から「あたしもお疲れさまと言われたい」と言われた日から、ぼくは妻に少なくとも「ねぎらいの言葉」だけは必ずかけるようにしたんです。
当時、まだ子どもたちを保育園に預けていなかったので、妻は子どもたちを家で一人でみていたんですね。
だから、ぼくが仕事から帰ってくると、妻が家にいるわけです。
「ただいまー」とぼくが言い、妻が「おかえりなさい、お疲れさま」と言う。
このことになんの疑問も抱いていなかったんですが、妻も家事と育児で「お疲れ」になっているんですよね。
「お疲れさま」って、毎日あたりまえのように発していると、単なる形式的なあいさつになってしまうけど、そこにはちゃんと意味があって、「今日一日大変だったね。がんばったね。今日はもうゆっくり休んでいいからね」といった「ねぎらい」の意味合いが含まれているんですよね。
妻はそれを言って欲しかった。
それを言われないと、ねぎらわれないと、毎日を乗り切れないほどの身体的かつ精神的なダメージを受け続けていたんです。
一方的にぼくに「お疲れさま」と言い続け、ある日気が付いんたんだと思うんです。
わたしの方も「お疲れ」なんだぞということに。
妻がそれを言ってくれたことに今となってはすごく感謝してます。言われないと、きっと妻のストレスはぼくの気づかないところでどんどん溜まっていったと思うんです。
当時2歳だった子どもたちは、今では7歳になり、彼らの心のケアも必要な年齢になってきました。
お世話というケアから、ストレスなどの心のケアというステージに入ってきたんです。そうなると、今までとは違った苦労も増えてくるんですよね。
だからこそ、今日もぼくらはお互いに声を掛け合います。
「お疲れさま」と。
◇◇◇
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