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タイのワイン事情、ホアヒンのワイナリーで考えたこと

休暇を利用してバンコクから南西方面に約200km、バスで3時間半の場所にあるタイ湾に面したホアヒン(Hua Hin)にやってきた。ホアヒンはタイ王室の保養地として古くから発展した優雅な気品漂うリゾート地とされており、タイに住む富裕層や外国人が好んで訪れる場所と聞く。

そのホアヒンから西に約45kmの海抜150-200メートルのところに、Monsoon Valley VIneyardと言うワイナリーがあるので訪れた。ここは、2001年に華僑系タイ人のChalerm Yoovidhyaが創業して、この方はSiam wineryというタイにおけるワイン・ワイン系飲料のリーディングカンパニーの社長でもあり、Forbes誌が公表するタイの富豪ベスト2にノミネートする超大金持ち。タイにワイン文化を根付かせるという明確なビジョンを持っている。また、彼は有名なエナジードリンクのRed Bullの共同創業者でもあり、ここでも莫大な利益を得ていると思われる。

莫大な資金と強いビジョンを元に、商業的な目的で設立されたMonsoon Valleyであるが、普段の生活でコンビニやワインショップ等でそのワインを見かけることは少ない。
タイでは多くの人はビールを飲む一方、コンビニではSPYというワイン、フルーツ、ソーダ等をミックスしたワイン系飲料を見かけるが、これはSiam Wineryの主力商品のようで、タイ女性の中で最も有名なアルコール飲料との事。おそらくまだ他国のワインに比してクオリティが高くないタイワイン(全てではない)をワイン系飲料として活用しているかもしれない。

Monsoon Valley VIneyardの緯度は凡そ北緯12度くらいで、ブドウの最適な栽培緯度である、北緯30度~50度のワインベルトからはかなり外れた位置にある。ブドウが育つ要素は主に気温、土壌、日照量であり、バンコクの平均気温は29℃で、湿度も70%前後の熱帯性気候。それでも栽培できる理由は、品種改良は当然あると思われるが、標高分の気温低下、夜になると冷たい海風が吹き込み昼夜の温暖さが生じる、海に近いためミネラル分が豊富な土壌、日照量は多いという事で、ブドウ栽培が実現している。

このワイナリーでは、白品種ではシュナンブラン(Chein Blanc)、コロンバール(Colombard)、赤ではサンジョベーゼ(Sangiovese)、シラーズ(Shiraz)が栽培されている。

赤の2つは暖かい地域で栽培される印象で違和感はなく、サンジョベーゼと言えば、トスカーナのキャンティが思い起こされ、ジューシーなビステッカと一緒に頂く肉の塊にも負けないどっしりした濃くボディしっかりした印象があるワイン。その印象に比例してアルコール度数も高い。
シラーズはシラーと同一品種だが地域によって呼び名が異なるシノニムであり、オーストラリアで使われている。と言ってもシラーとシラーズの印象は異なり、シラーと言えばフランス南部のローヌ地方(リヨンよりも南部エリア、リヨンより北部はブルゴーニュ)のE.Guigalが生産するコート・ロティ(Cote Rotie。Coteは丘で、Rotieは焼くという意味で、明らかに暑いエリア)を思いだされるが、しっかり重く飲みごたえがあるという印象。
ボトルを持って、ワインが透けて手が見えることがないくらい濃い色。これも肉に合いますね。

一方、シラーズはシラーよりもフルーティな印象で、オーストラリアワインで多く見られる。同一品種であっても気温、土壌、日照量など様々な条件から違いを生み出す。

そう言った条件を一言で表す言葉はテロワールで、ワインを栽培する条件を包括的に意味する。日本語では風土とかいうニュアンスでしょうか。ワインの楽しみは、テロワールによる違いを知ると言っても良いと思う。

なぜ、Monsoon Valleyではシラーではなく、シラーズなのかという点については、マーケティングの観点で、オーストラリアワインでの品種がタイには流通しており、シラーズの方がタイの顧客に受け入れられやすいからだと思う。

輸入関税に関して、タイと各国の二国間協定等が影響しているのだと思われるが、オーストラリア、ニュージーランド、チリがワイン売り場では主要生産国となっている。
その中でも比較的オーストラリアワインはバリエーションも多く、日本への供給量が少ないオーストラリア西側のマーガレットリバーとかのワインが割とあるので、見つけるモチベーションに繋がる。
イタリア、スペイン、USのワインも割とあるけど、フランスワインは少なくて値段が高い印象。

そもそも日本と比べてタイでワインを買う場合1.5倍くらい高く、その理由としては関税に加えて贅沢税なる税金が加えられていると聞く。なので、ワインがより一般の人が飲むお酒に定着するまでには時間がかかりそう。

折角なのでワインを買って帰ろうと思ったものの、Covidの規制で飲食店でアルコール飲料の提供が出来ないので、テイスティングもできず、全然味の確証が掴めないままであったが、白を1本購入した。
Monsoon valley/Signature wine/2019(値段1,000バーツ、約3,500円)、品種は裏面に書いており、シュナンブラン。

シュナンブランというとフランス・ロワールで多く栽培される品種のイメージで石灰分やミネラル分が多くて、なんか石っぽい味でそこまでパッとする印象がないけど、店の人はシャルドネっぽいよと言っていたけど、まぁ選択肢的にこれかなと思い購入。
よくわからない品種のコロンバールを買ったとしても、比較イメージがないので、自分の中で評価できず後々の知識ストックに残らないかなと思い断念。ボトルの形やデザインも選択の1要素なのでその辺も考慮して。

タイにおいて、ワインは現時点ではお金持ちが飲むお酒と位置付けられているが、ワイン飲料のようなもので徐々にワインというものが国民に浸透してきている。
税金、国内生産量の増加や他国比較での品質向上でさらに一般の人がリーチし易いお酒になってくると思うし、ワインマーケットは拡大していくものと思われる。

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