首吊りの森でイワンは今日も人を吊る。 朴訥にして敬虔な彼は生者も死者も冒涜しない。 騒がしい者は静かにして吊るす。 静かな者はそのまま吊るす。 今日の罪人は後者だった。 銀髪の小柄な少女は棺に入ってやってきた。 珍しいことではない。 この国の死刑囚は全てこの森に吊られるのだ。 全ての木が使用中の間だけ、死刑は停止される。 イワンが知るかぎり幸いそのような事態はなかった。 ……幸い? 外傷も腐敗も無い、綺麗な死体。 綺麗すぎて死因すら不明だが、イ
その島には鉄が無い。刃が無い。銃が無い。 ただ徒手の暴力が有る。 観客は視る。透明な殺意を。始原の欲望を。 そして極限まで磨かれた技芸を。 広場を照らす街灯の下、二人のヒトが向かい合う。 「祝傀、やっとブチのめせるなァ!」片方が叫ぶ。 「お前では無理だ、蛾乱」巨漢が応じる。 「アンタは明日この島を出ていく。担架に乗ってなァ」 「自信の源は毒か?」 「……何?」蛾乱は動揺する。 「語るに落ちたな。その手袋、昨日までは無かった」 蛾乱は一瞬、真白い手袋をつけた自分