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暴拳者たち

 その島には鉄が無い。刃が無い。銃が無い。
 ただ徒手の暴力が有る。

 観客は視る。透明な殺意を。始原の欲望を。
 そして極限まで磨かれた技芸を。

 広場を照らす街灯の下、二人のヒトが向かい合う。
「祝傀、やっとブチのめせるなァ!」片方が叫ぶ。
「お前では無理だ、蛾乱」巨漢が応じる。
「アンタは明日この島を出ていく。担架に乗ってなァ」
「自信の源は毒か?」
「……何?」蛾乱は動揺する。
「語るに落ちたな。その手袋、昨日までは無かった」
 蛾乱は一瞬、真白い手袋をつけた自分の右手を見た。
「……ど、毒手は規約に抵触しねェ」
「それは自身が免疫を持つ毒に限られるな」
「あ、ある!」
「そうか。なら遠慮はいらんな」
 祝傀はわずかに微笑んだ。
「その毒手袋、お前の喉に詰めよう」
「ッ!その前に、お前を!」
 蛾乱が動こうとした、まさにその瞬間。
 照明の先の夜空から爆発音が響いた。
「よけて!さもなくば死んで!!」
「ああ……?」
 砲弾のように、人間が落ちて。
 否。飛んできた。

「きゅう」蛾乱はリタイアした。
「ああ、潰れちゃった?」
「生きてはいるようだが……それで、お前は何だ?」
「…あなた、祝傀?」闖入者が問う。
「いかにも」
「ナイス。狩らせてもらう」
 闖入者……少女は素足であった。
 空から降ってきたにも関わらず、怪我一つ無い。
 埃による汚れすらない、美しい踝と爪先。
「改めて問う、何者だ、小娘」
「何者でもないよ。これから成るの」
「なるほど。だが名前はあろう」
「知ってどうするの?」
「医者に伝える」
「必要ないよ」
 そうか、と祝傀は頷き、構えた。
「ならば、無名のまま去れ」
 強者の眼光が、少女を射すくめる。
「……この島には、達した者しか残れない」
「そ。あなたは何に達したの?」
「……この拳だ。お前は何をもって闘う?」
 暴拳者が問う。
 少女は応える。
「全てで」
「良かろう。地に伏したお前を言祝ごう」
 
 暴拳者たちは、同時に笑った。
 


【続く】



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