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株主価値の向上

今回は毛色を変えて、株主価値の向上について筆者の考えを書いてみたい。アクティビストのみならず、上場企業に対しては基本的に株主価値の向上を要求する投資家が殆どである。
ここでは私見ではあるがある程度整理して記載してみたいと思う。


株主価値とは

株主価値とはValue of shareholder's interestと訳されることが多く、株主が保有する持分の価値のことを指し、Equity valueと言うこともできる。

バリュエーションで言えば、株主価値と事業価値 (EV) のブリッジは以下のように示される。
  事業価値(EV)
+ 余剰現預金 (Excess cash)
+ 持分法投資 (Equity investment)
- Debt 
- 非支配株主持ち分 (Non-controlling interest: NCI)
- 優先株 (Preferred stock)
=株主価値 (Equity value)

通常のバリュエーションでは普通株主に帰属するEquity valueを計算することが多いと思われるのでデットライクアイテムとして上記の非支配株主持分(NCI)や優先株分を加味して計算が行われる。

上記ブリッジを考えると、株主価値最大化のためには事業価値、すなわちEVの最大化が重要であることが分かる。

株主価値を構成する要素

株主価値向上の仕組みをブレークダウンすると以下のようなイメージになる。英語で表現したほうがしっくりくるので下記のような図にしている。

Sample - Elements of equity value

Strategy - Operating

株主価値の向上策の一つ、Operating leverageは上記で示している様に①:単価上昇、②コスト削減、③販売数量増加にまとめることができる。実際のoperation レベルで掘り下げれば更に細かくできると思われるが、わかりやすく3つに絞っている。

上記のブリッジで言えば、事業価値を高めるためには計算基礎になるアンレバードFCFの増大を目指すのが定石であるが、その元になる要素は3C (core, continuous, controlled)を満たす事業から得られる利益の最大化である。従って上記の3つの整理はナチュラルに理解できると思う。

*会計的な考え方で言えば、報告主体の保有者に帰属する利益=当期純利益であり、当期純利益の最大化が株主価値の増加に寄与すると説明されるが、当期純利益は支払利息を控除した後の数値なので、通常のバリュエーションと平仄をとる場合にはEV、すなわちdebt free, cash freeベースのキャッシュフローをベースに考えることも一案である。

Strategy - M&A

M&A、すなわちの会社の買収、合併、売却は株主価値向上の策の一つとして重要である。
成長のために会社を買収する、もしくはシナジーを見越して合併する等が世間的には理解されやすいが、アクティビスト等は株主価値向上のために、不採算事業の売却、カーブアウトを提案することは往々にしてある。別記事で解説しようと思うがアクティビストがM&A関連のキャンペーンを行うときには以下の3類型にまとめられることが殆どである。

1: Agitate for sale / Industry consolidation (会社の売却)
2: Break-up / Divestiture (ノンコアの分離、スピンオフ等)
3: Scuttle/Sweeten deal (M&Aの主要条件やoffer priceの改善・変更提案)

2のノンコア事業の売却による株主価値向上を提案した例で言えば、ソニーの半導体部門売却提案 (Elliott)が有名である。3の例で言えばベインキャピタルによるニチイ学館の非公開化に対してリムアドバイザーズが価格に不服を申し立てた事例もある。

M&Aによる株主価値向上に資するためには投資銀行による案件組成、PEファンドが関わることで産業の再編を促す等のインパクトがある。
今まで一つの企業の1事業や部門であったが、全社的な方針で適切に設備投資がなされなかったり、潜在的には伸びる市場であるにも関わらず、企業内でノンコア扱いされておりくすぶっているアセットは多く存在する。

このようなアセット、事業を売却することは、当該企業が不要なアセットをキャッシュに変えて、新たな成長資金にするという側面があると同時に、売却されたノンコアされた事業を買収した事業会社やファンドのような新株主のもとで新たな成長を遂げることで、経済全体にプラスのインパクトがあることが言えよう。

欧米ではこのようなM&Aの提案(合併、統合からの事業売却、場合によってはスピンオフして上場等)が多くデュポンやContinental AG等で見られる。結局投資銀行やPEばかりが儲かっているという批判もあり、それもあながち間違いではないと筆者は思う。

Strategy - Financial

これはビジネスの側面というよりも、より金融的なアプローチで株主価値を向上させるものである。
具体的には、先ほど示している様に自己株式の取得、配当政策、特別配当等が該当する。
自己株式の取得や配当政策に関してはアクティビストが常日頃投資先の企業に改善やアクションを促している項目であると言えよう。

特にキャッシュリッチで、成長投資をあまり行っていないような企業はこのようなアングルでキャンペーンを受けることが多い。

まとめ

このように株主価値の向上に関して、アクティビストがどのようなアングルから考えているかを理解すると、彼らがつけ込む隙を与えないようにどのようなアクションをとるべきかということが自然と見えてくると思われる。

端的に言うと、通常のオペレーション改善により利益とキャッシュフローを安定的に生む事業構造にすること、ディスシナジーになるM&Aをせず、常に事業ポートフォリオのレビューを行うこと、余ったキャッシュは自社株買いないしは成長投資等に充てて有効活用する点に集約される、と筆者は考えている。