デンマーク政府 農業のグリーンシフトへ 気候協定締結
大規模で広範な、歴史的政治協定
去る10月4日、デンマークで長く議論されてきた、農業に関する気候協定が締結されました。
デンマークでは昨年6月に気候法を可決し、2030年までに、二酸化炭素の排出量を1990年比で70%削減することを決めています。これに伴い、エネルギー分野だけでなく、農業分野でどれくらいの取り組みが必要なのか、春から長らく議論されてきましたが、60回を越える交渉を経て、今回ようやく、デンマーク議会で幅広い賛成のもと、具体的な気候協定が決まりました。
その内容は、農業分野での温室効果ガスの排出量を、2030年までに55〜65%削減するというもの。二酸化炭素は730万トンの削減となります。さらに、2027年までに窒素の排出量も10,800トン削減することが盛り込まれました。
交渉に時間がかかったのはいくつかの争点で異なる見解があったからですが、そのうちの一つが、二酸化炭素の具体的な排出量についてでした。政権を握る社会民主党とその協力政党は、800万トンの削減を目指したいとしていましたが、野党である中道右派政党は740万トンの削減を主張していました。決定したのは730万トンの削減ですが、できる限り2030年までに800万トンの削減を目指すべく、2023年時点での状況を見て、今後の具体的な取り組みについて決めていくことにしています。
農家や産業界の反応は
今回の農業に関する気候協定について、デンマーク商工会議所は政府の決定を歓迎。気候・エネルギー・環境部門のマーケットディレクターのウルリッヒ・バンさんは「今回の決定で、野心的な温室効果ガス排出削減を確かなものにし、さらにバイオ・ソルーションの分野でグリーンソルーション開発のための全く新たな基準を設けることになり、それが輸出や雇用創出につながるので一石二鳥」とコメントしています。さらに、世界でタンパク質の需要が高まっているため、成長産業であるグリーンプロテイン生産でデンマークが世界をリードするという野心的な考えを政府から感じ取ることができるのはよいこと、とも述べています。
一方、農家の人の反応はそれぞれですが、概ね歓迎の様子。デンマーク公共放送DRのニュースによれば、ユトランド半島の酪農家ニルス・ラウルセンさんは、二酸化炭素を多く排出する低地土壌の利用をやめて補償をもらい、しかしながら、乳牛の糞尿を利用できるだけの農地の確保は必要なため、近隣での農地の分配や、バイオ・ソルーションでの温室効果ガスの排出削減を期待したい、また、将来的にグリーンプロテインがお金になるようなら、そちらへの転換の選択肢も考えると話しています。
シェラン島北部の養豚農家ラース・ヨンソンさんは、持っている土地のうち5ヘクタールほどを木や植物を植えたりして生物多様性を促すことを考えているほか、新しい技術によって豚の糞尿から出る温室効果ガスの削減を図れないか考えると話しています。さらに、2030年には、彼の農業の様子はかなり変わっているだろう、養豚をやめて、これから急速に需要が高まるグリーンプロテインの作り手になっているのではないか、とも話しています。
基幹産業の段階的転換も辞さず
デンマークといえば、豚肉生産は主要産業のひとつ。年間約1700万頭の豚が生産されています。そして、世界中に輸出される豚肉の量は、年間200万トン近くにのぼります。日本も、デンマークから年間約8万5千トンあまりの豚肉を輸入しています。それを、気候変動適応のため、今後2030年を目処に転換し、徐々にグリーンプロテイン、植物性タンパク質の生産で世界をリードする方向性にシフトしてこうという大胆で野心的なデンマークの政策には驚かされます。
でも、これまでに固執せず、それくらい思い切った転換をしなければ、気候変動の速度を緩めることはできない。それぞれの立場の人たちが、こうした状況をよく理解し共有しているからこその決断なのでしょう。
これからのデンマークの食と農業、産業や暮らしのますますの転換に注目していきたいと思います。
https://www.dr.dk/nyheder/politik/klimaaftale-landbruget-er-faldet-paa-plads
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