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記者会見について考える

最近、新型コロナウイルスの感染の広がりやオリンピック・パラリンピックの開催延期など、記者会見を見る機会が増えています。日本とデンマーク、両国の記者会見を見て、感じること、考えることを書いてみます。

そもそも記者会見とは何か。

記者会見とは、そもそも何で、なぜ行われるのでしょうか?
ネットで調べると、以下のように説明があります。

官庁・企業・団体・著名人などがマスメディアの記者を集め、重要な発表を行うこと。〜出典:デジタル大辞林より〜
一定の場所に記者を集め、説明や質疑応答などにより情報を提供すること。〜出典:大辞林 第三版より〜

デジタル大辞林の解説だと、「マスメディアの記者を集め」となっていますが、昨今はマスメディアだけが影響ある報道機関ではなくなっているので、少し定義が古いような気もします。

新型コロナウイルスについての政府や自治体の見解や対策については、広く国民が状況を理解し、これから政府がや自治体が国民、市民に協力を要請する政策についてわかりやすく説明し、理解を得るという責任を果たすことが求められます。一方、メディアも国民の疑問を代弁しつつ、近い未来、その先に起こりうる事象を想定して質問し、回答を得る手腕も求められるのだと思います。

ここでいちばん大事なのは、国民が理解し、納得するにたりうる情報を提供し、かつ収集し共有することが記者会見の目的だということです。

デンマークの記者会見〜新型コロナウイルス対策〜

それでは、デンマークと日本の両国は、例えば今回のような新型コロナウイルス対策についての会見をどのように開いているのでしょうか?実際の事例をリンクでご覧いただこうと思います。

以下のリンクは、デンマークTV2のメッテ・フレデリクセン首相の3月23日に開かれた記者会見の映像です。会見の主な内容は、学校など教育機関、レストランや大型ショッピングセンターなどの閉鎖、また多くの職業人の在宅勤務、10人を超える公の場での集まりへの禁止の要請を4月13日のイースター明けまで延長するというものです。
会見には、記者の様々な質問に的確に答えるために、フレデリクセン首相だけでなく、KL(自治体の利益団体)、5つのリージョン(行政区)の利益団体、ホイニケ保健大臣、ブロストロム保健庁長官、デンマーク国家警察など8名が同席しました。

国民にも要請をしているように、記者会見の場でも、大臣をはじめ出席者もかなり距離をあけて参加していますし、ジャーナリストにも別室が用意され、そこからカメラを通して順番に質問をしていく形が取られていました。もちろん、別室でのジャーナリストも自分の順番が来たらカメラの前に立って質問し、他の記者との距離も十分に保っています。

全体の会見は1時間ちょっとで、冒頭の13分はフレデリクセン首相が新たな政策を国民のために説明しています。その後、KL(自治体の利益団体)、5つのリージョン(行政区)の利益団体、ホイニケ保健大臣の説明が続きます。ご覧頂くとわかるのですが、会見を仕切るのはフレデリクセン首相で、別に司会者は立てていません。どの大臣や担当者も、事前に用意した原稿を見ながらではありますが、しかし原稿に頼りすぎたり棒読みになったりすることなく、カメラの先の国民に向かってできる限り自分の言葉で語りかけ、訴えています。

最初の30分くらいでそれぞれの説明が終わったところで、記者の質問に残りの30分ほどかけて答えていきます。国営放送の記者から他のテレビ局、全国紙、専門誌、タブロイド紙など様々な記者の、様々な質問に答えています。フレデリクセン首相は、参加しているすべての記者の質問に答えることを前提に時間配分も考えています。ご覧頂くとわかるように、ほぼどの大臣や担当者も、事前の想定質問と回答についての資料は用意しているものの、ほとんどの回答に対して自分の言葉で答えています。内容をすべて訳すことはしませんが、質問された内容に関してはきちんと答えていますし、首相で答えられないことは同席している担当者が回答し、また、この時点でわからないことに関してはそのようにコメントし、これからどうしていくかについてを回答しています。また、日本と違って興味深いのは、回答する大臣や担当者が、記者に対し「質問ありがとうございます」と言ってから回答を続けることです。

国営放送DRは、今回の新型コロナウイルスのような全国民にとって重要な要件に関しては、記者会見全部を放送し、記者会見終了後に、会見についてを解説する番組を放送します。

また、記者は、記者会見終了後に、それぞれのメディア独自の質問を大臣や担当者にする時間も設けられています。


日本の記者会見〜新型コロナウイルス対策〜

日本は、3月14日に行われた安倍首相の記者会見を取り上げたいと思います。この日は、新型コロナウイルス感染症に対する特別措置法の改正案が前日成立したことを受けての会見でした。

安倍首相は冒頭21分間を使って説明を行いましたが、残念ながらこれといって特筆すべき内容のない会見だったように思います。この日の時点では政府としては緊急事態を宣言するほどの状況ではないとの認識であり、しかも、これから悪化が予想される経済対策についても、具体的な政策や提言は何もなく、記者会見を開いた理由があまり釈然としないというのが、会見を見た後に抱いた感想でした。

まず、前述したデンマークでの記者会見との大きな違いの一つは、日本は安倍総理が一人で会見に臨んでいるということです。ひとりですべてを説明しなければならないからなのか、手元の原稿と左右に配置されたプロンプターを読み上げている感じが最後まで拭えませんでした。

日本はデンマークに比べると国も大きく、メディアの数も多いですから、様々な質問が飛び交うことは予想できると思います。なぜ、その質問に適切に答えられる担当大臣(例えば財務大臣、厚生労働大臣、文部科学大臣、労働大臣など)も同席させて、具体的な回答をしないのか甚だ疑問です。

一方で、記者の皆さんの質問も、それほど突っ込んだ質問がなく、国民の疑問や不安に答える内容にはなっていなかったのではと感じています。特に、国民の生活に直結する経済対策などは、もっと具体的な質問をしても良かったのではと思いますし、また、政府も具体策を国民に公表できる状態で記者会見を開くのが本来のあり方ではないかと感じます。

みなさんは、この会見をご覧になって、不安がある程度解消され、疑問点もかなり薄れた感覚を得られたでしょうか?もしそうでないなら、こうした記者会見は目的を果たせていないことになります。もっと、国民が知りたい情報が共有されるような記者会見にするために、総理官邸や内閣府をはじめとした各省庁、そしてメディアに要望をしたほうがよいのかもしれません。国民が本当に知りたいことを、政府もメディアも真摯に考え、回答する、回答を得る責務があるのです。


番外編 五輪延期合意で森組織委会長会見

この会見は、五輪延期決定直後に開催されましたが、森組織委会長は多くの記者の質問に比較的真摯に答えていたと感じます。この会見については、記者の方々が、この日当日の延期決定なのに、その質問はないだろう…回答はまず望めないだろう…という質問もあって、その点が残念に思います。

また、こういう会見こそ、安倍首相と組織委で合同記者会見を開くべきではなかったのでしょうか。首相は、これまでにオリンピックの今夏開催の是非について、延期や中止の可能性について何度も予定通り開催と回答してきていたので、IOCのバッハ会長とのやりとりや、これまでの経緯、どのように中止ではなく1年程度の延期という決着となったのか、具体的に国民に説明する責務があったと思います。

それ以前に、この映像を見て驚いたのは、新型コロナウイルスの感染の拡大が危ぶまれ、3月9日には政府新型コロナウイルス感染症対策専門家会議でクラスター(集団)感染予防のために、すでに

○換気の悪い密閉空間

○多くの人が密集

○近距離での会話や発声(密接場面)

を避けるようにとの見解が発表されていたにもかかわらず、これだけ多くの人たちを集めた形での記者会見を行っているということです。これからしばらくは、こうした記者会見の場のセッティングも細心の注意を払う必要があるはずです。(昨日の小池東京都知事の記者会見の場も同様でした…)


国民が望む記者会見が開かれるために

主に国民の生活や国家運営、予算に関わるような一大事の記者会見に関しては、国民の知る権利に十分に配慮することが重要です。その権利を得られていないと感じるなら、先にも述べたように、政府や省庁、関係団体、メディアに国民ひとりひとりが要望をしていくことが必要です。民主主義社会において、日本では国民が情報収集を国や公共団体の権力に妨げられることなく自由に行え、国家に対して情報の公開を請求することができる「知る権利」が憲法21条の「表現の自由」として保障されています。

世界中で様々な形で開かれている記者会見。なぜ、どのような形で開催されるのか、自分ならどんな質問をしたいだろうか、自分が知りたい内容は網羅されているだろうか、などについて考えながら見たり、同様の話題を世界ではどのような違いを持って、もしくは共通点を持って会見で取り上げるのかを比較してみるのもなかなか興味深いと思います。

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