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アトツギへの支援と可能性

――福岡県庁からこの社団法人へ転職し、実際にアトツギ支援をやってみてどうですか?

マーティ 県庁時代はスタートアップ支援が主でしたが、2年間ほどアトツギ支援にも取り組んでいました。2022年4月に社団へ転職して、今で1年5か月ほどが経ちましたが、やはり県庁での県内支援者という立場と、社団として事業を全国的に推し進める立場では全く違うなと感じています。
この社団のミッションである『アトツギベンチャーを日本のカルチャーにする』というところには、多少関われている手応えはありますが、まだまだと感じることも多くあります。

ゴードン 例えばどんなところに違いや課題を感じていますか?

マーティ 企画から一気通貫して担っていかなければならないところ、また少人数でプロジェクトを進めていかなければならないところは、県庁との違いです。マルチタスクに進めていくことの難しさや、発想力や企画力不足を感じるときもあります。
また個人的には働き方や時間の使い方も変わりました。毎日勤務先に出勤し、所定の席で仕事をするというスタイルから一転し、今はリモートワークが基本です。

ゴードン リモートだと、空気感や相手がどのようなタスクを抱えているかというところが見えにくかったり、仕事のやり取りもしづらかったりしますよね。

マーティ そうですね。オンラインで働く経験がこれまでなかったので最初はきつかったですが、ようやくリズムがつかめてきました。

ゴードン 公務員から団体職員になることは大きなチャレンジだったと思いますが、少しずつ自分のペースを見つけてきているのですね。

マーティ はい。すごく楽しくやっています。

ゴードン どんな瞬間が楽しいと感じますか?

マーティ 応援しているアトツギの目の色が変わった瞬間ですね。また彼らから「こういういいことがあったよ!」と報告や情報共有をしてもらえたときに、少しでも背中を押せて貢献できたのかなと思えるとすごく楽しいです。

ゴードン いいですね。やりたいことに対して立場や手段が変わっただけで、根幹はずっと一緒なのですね。

マーティ そうですね。未だに転職という感覚があまりないのは、そのせいかもしれません。

――人生で一番『アトツギ』というキーワードを出し続けた密度の濃い一年半でした。

ゴードン この一年半、アトツギ支援一筋にやってきて、見えてきたものはありますか?
 
マーティ 『場づくり』といった価値を提供していくと、そこで芽が開けていくアトツギさんがいることを知りました。支援の場を提供する重要性がさらに見えてきたと感じます。

ゴードン 面白いですね。どうして芽が開けていくのでしょう?やはり場があることが一番大切なのでしょうか?

マーティ 多くのアトツギにとって「家業の話をする場所がない」という悩みは深刻で、アウトプットする場所を欲しています。支援プログラムなどの場づくりによって「アトツギ支援の場ってめちゃめちゃいいですよね!」と喜びの声があがっているのです。

ゴードン やはり孤軍奮闘するアトツギの立場が目に浮かびますね。普段は先代や古参の社員たちからお手並み拝見という感じで見られたり、同級生などにも後継ぎの人がいなかったりして、共感を持って熱く話せる場所が本当にないのでしょうね。

マーティ はい。社団としてアトツギ支援取り組みの解像度や認知度を上げて、カルチャーを築くためにはその数を増やす必要があり、私自身もより努力が必要だと感じています。

ゴードン なるほど。アトツギという課題に向き合い、問題を解決していく点には実感が湧いている反面で、『まだ見ぬ人』と出会うといった可能性には、まだまだこれからということですね。

マーティ そうですね。まだ見ぬ人と会うとやはり嬉しいですよね。

ゴードン 「まだまだ成長したいんだ」と目を輝かせて知識を吸収してくれるアトツギを見ると、すごくやりがいがありますね。


――『GUSH!』プログラムは成功の実感を得るところですが。

ゴードン これ実は、マーティが県庁時代に生み出したスタートアップと跡継ぎ向けの支援プログラム『ISSIN』が原型ですよね。この企画者としてどう思いますか?

マーティ これは、当時主流だった地域名を冠したプロジェクト名をやめて、全国を視野に入れた『ISSIN』という抽象的な名前をつけて行ったプログラムです。それがきっかけで、アトツギへの認知が広まり、支援に手を挙げるところが増えてきたのは嬉しいなと思います。

ゴードン アトツギというのを明確に打ち出して「伴走、支援します」といったものは、おそらくそれまでにはなかったと思うんですよね。

マーティ タイミングも味方をしてくれたと思います。当時は、何度目かのスタートアップブームが過ぎ、地方の支援者が行き詰まりを感じていたときでした。そこに『アトツギベンチャー』というキーワードが刺さったのでしょうね。

ゴードン なぜ地方ではスタートアップからアトツギ支援に目が向き始めたのでしょう?
 
マーティ スタートアップ事業を本気でやろうとするとシードマネーの供給が難しいなどの壁があり、各地域で育てていくところに限界がきてしまいます。しかし行政にとって産業振興は目玉事業です。そこで、『スタートアップと中小企業の中間セクターを狙っていく』アトツギベンチャーに可能性を感じたのではないでしょうか。

ゴードン そういう意味では政府の『スタートアップ育成5カ年計画』のように予算がついているものを、地方版としてアトツギの担い手の支援に充てられるともっと充実していくのかもしれないですね。

マーティ アトツギ支援向けのメニューをもっと揃えてくれると、もっともっとおもしろくなるのだろうなと思います。

ゴードン いいですね。今年は中小企業庁からも「GUSH!を参考に伴走支援プログラムをやりたい」と公言してもらいながら、進んできていますしね。

マーティ そうなれたのも、開始一年目でアトツギ甲子園にファイナリストを2人輩出するという実績を出せたことは大きかったでしょうが、ほかに成功の所以はなんだったのでしょう?

ゴードン その実績の下に、「必死に事業と向き合える適切な場と緊張感、そして仲間と熱意のある担当者がいれば、アトツギは伸びていく」というのを実証できたからではないでしょうか。

マーティ アトツギ同士がみんなで学び、喜び合いながら取り組む空気感はすごくよかったですよね。プログラムの仕組みのみならず、空気作りは重要なファクターだと思いましたね。


――アトツギ当事者と支援者に向けてどのようなメッセージを送りますか?

マーティ ゴードンや私をはじめ、アトツギのみなさんがどうすればポジティブに家業を承継して、楽しく人生を生きられるのか。毎日脳が千切れるぐらい考えているメンバーが、この社団法人にはたくさんいます。私たちを頼って欲しいのはもちろん、私たちはいつも全国どこでもみなさんを応援しに行こうと思っているので、そのような関係性を今後も一緒に作っていければと思っています。

ゴードン いいですね。支援者の方々に向けてもメッセージをぜひ。

マーティ みなさんの大切な地域には、未来を担うアトツギたちがいます。彼らを自分たちのできる範囲で応援するとこんなにも面白いことが起こるのだと、ぜひその喜びや楽しさを実感する方々が増えればと思います。

ゴードン いいですね。ありがとうございました。


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