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オリシャーの母、水の神様イエマンジャーIemanjá

日本は冬ですが、ブラジルは本格的な夏を迎えています。1月からはたくさんのお祭りからカーニバルへと向かうブラジルの象徴的な期間で、その中でもバイーア州の人々にとって、1月のボンフィン教会のお祭り(人間を創った神さまオシャラーの日)と、2月のイエマンジャーのお祭りは特別です。

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ドリヴァル・カイミの「ドイス ヂ フェヴェレイロ(2月2日)」の曲でも歌われていますが、2月2日はサルヴァドールのヒオ・ヴェルメーリョ海岸にたくさんの人々が集い、豊漁を願い、海の底に住んでいる女神イエマンジャーにお花や香水などのお供えものをします。

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イラスト©︎クルプシ

イエマンジャーは大河、海の母なる女神です。オリシャーの母、人間たちの母として、とても敬われています。イエマンジャーを守護神に持つ人は非常に強い加護を持っており、良い父であり良い母といわれています。鏡と銀の魚がアイテムで、「オドイアー」と挨拶し、雌ヒツジ、雌アヒル、魚、米とカンジッカ(トウモロコシ粥)を食べます。白と空色がシンボルカラーで、土曜日、9番の担当です。

※イエマンジャーのお祭りの様子が見られます。カルリーニョス・ブラウンとマリエーニ・ヂ・カストロの共演

実はイエマンジャーの欠点はお喋りがすぎることで、秘密を守っていられません。イラストで口元を隠しているのはそのためですが、あまりに偉大なイエマンジャーのイメージと少し違うかもしれません。今回はそんな、意外なイエマンジャーの一面もご紹介しようと思います。

ヘジナウド プランヂさんの本「MITOLOGIA DOS ORIXÁS(オリシャーの神話)」からイエマンジャーの章を拙訳しました。

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天空の主オバタラと、大地のオドゥドゥアとの間に、大陸のアガンジューと、水のイエマンジャーは生まれました。イエマンジャーはきょうだいのアガンジューとの間にオルンガーという子どもを生み、つぎに息子のオルンガーとの間に15のオリシャーが生まれました。野菜の女神・ダダー、雷の神さま・シャンゴー、湖の女神・オロッサー、農業のオリシャー・オコー、太陽・オルン、月の神様オシューたちです。

イエマンジャーはオケレーを逃れて海へ行った

イエマンジャーはオロフィンーオドゥドゥアーとの結婚で10人のこどもがいました。イフェーでの暮らしに疲れたイエマンジャーは西へと旅立ち、やがてアベオクターに到着しました。そこで、シャシの王、オケレーと知り合います。
オケーレーと、オケーとも。
オケーはイエマンジャーの美しさに見惚れてしまい、求婚しました。
イエマンジャーはプロポーズを受けましたが、
イエマンジャーはたくさんのこどもを授乳してきたので、その大きく豊満で、ボリューミーになった胸のことを決して言わないならばと言いました。
その代わりにオケレーの欠点についても決して言わないことにしました。
そのはちきれそうな金玉のことも、飲みすぎる癖についても言わず、彼の部屋にすら入らないようにしていました。
これはイエマンジャーとオケレーのタブーなのです。
ある日、オケレーは酔っ払って家に戻り、
寝ていたイエマンジャーにつまづいてしまい、部屋の床に吐いてしまいました。
イエマンジャーはオケレーににじり寄り、この役たたずの酔っぱらいとなじり、怒りました。その迫力にオケレーは言葉を失いました。ですがオケレーも怒り狂い、イエマンジャーを攻めて、彼女の大きな胸について悪口をたたきました。
イエマンジャーは彼の大きなイチモツのこと、酔っ払いという彼の欠点を思いました。そして部屋に入って、その部屋の混乱ぶりをみとめました。
もう和解など、ありえません。
全てのタブーが破られてしまいました。
オケレーはイエマンジャーに殴りかかろうとしましたが
イエマンジャーは逃げ出しました。

イエマンジャーは母オロクンの元へと逃げ出しました。
イエマンジャーには、母からもらったある贈り物、瓶に入った魔法の水がありました。逃げながら、イエマンジャーは瓶を落としてしまいました、
すると魔法の水から川が生まれ、イエマンジャーを海へ、母オロクンのもとへ運びはじめました。イエマンジャーは海の方へ逃げていきます。
しかしオケレーはイエマンジャーの後を追いかけてきます。
オケレーはものすごい高い山に姿を変え、イエマンジャーの向かう海への道を塞ぎました。
オケレーは海へとつながる川を邪魔するべくオケー(山)になったのです。
イエマンジャーは力ある息子、シャンゴーに助けを求めました。
シャンゴーはお供えものを求め、翌日、雨を起こしました。
嵐になり、シャンゴーは雷を放ち、雷鳴とともに、雷はオケーの山を真っ二つにし、その割れてできた谷から川ができ、母の元へと続く河の道ができました。
自由の身となったイエマンジャーは母のいる家、海へと流れ着きました。
こうして、イエマンジャー・アタラマンバーは、母オロクンのひざもとへと、身を寄せることができたのでした。

人間の怠慢から海を守ったイエマンジャー

 イエマンジャーはオロクンから海を受け継ぎました。その頃の海の全ては本当に美しく素晴らしいものでした。海は穏やかで澄み切っていて、海の底はきれいで生き物がたくさんいました。
人間たちが大地に暮らし、次に海も支配したいと思い始めた時に、人間たちは海を、大地を扱うように軽んじて、気を遣わず、愛情をかけませんでした。
全てのものは彼らからしたらゴミで、海に投げ捨てました。
海の主イエマンジャーは汚れてしまい、ひどいみなりになりました。
魚は減り、藻は光りかがやかなくなりました。
海岸を埋め尽くしていた貝殻たちも、星の砂たちも見られなくなってしまいました。クジラも、イルカも、タコも、タツノオトシゴも、アザラシも、巻貝も、イカも、蟹も、ロブスターも、牡蠣も、ムラサキガイも、海に暮らしていた渡り鳥たちも、全てのイエマンジャーの海に暮らすものたちは、人間の怠慢のおかげで住みかが害されてしまいました。

 オロクンは、イエマンジャーを哀れに思って、新しい力を与えてあげました。そしてイエマンジャーは波と潮を手にしました。時には荒ぶれて、人間が捨てたゴミや糞尿を海から返します。凶暴な波。大波、寄せては引く波がぶつかり、イエマンジャーはこうして自分の領地を、自分自身を無責任な人間から守ったのです。その力は強大で、幾度も人間にきつく罪を与えました。軽率な漁師を溺れさせ、海の中で身動きできないようにしました。魚たちを守り、貝たち、海の藻たち、海面の下にいる全てのものを守りました。
 イファー・預言者(アジヴィーニョ)によると、それからというもの、漁師たちは加護を求めてイエマンジャーにお願いをするようになりました。イエマンジャーのご意志次第だとわかってるから、たくさんの贈り物をイエマンジャーに贈ります。イエマンジャーのためのお祭りを海岸で催します。お花、香水、鏡、櫛など、喜んでもらえそうな美しいものを捧げます。

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みなイエマンジャーのことを母と呼び慕います。イエマンジャーが大好きです。イエマンジャーとはアフリカ・ヨルバの言葉で「魚たちの母」という意味です。またはオドイアー、河の母。賞賛を込めて、「海の女王」と呼ぶのです。

Odoyá!!

  長くなりましたがイエマンジャーのお話でした。そもそも、イエマンジャーは本の中ではとても大きく豊満な体格をしています。ですが、私たちが一般的に見るイエマンジャーは、混合宗教ではマリアに重ねられ、とてもスリムです。私たちはこうやって人間の思いたい形に神聖化されたイエマンジャーの姿を見ることになるです。イエマンジャーはきょうだいとの近親相姦、そして実の息子に犯されてしまい、オリシャーたちを産み落とします。多産のすえ息子から逃げ、夫からも逃げるという、なんとも恐ろしい宿命の「母」でもあるのです。ちなみにこのお話をブラジル人の知人と一緒に読んだ時、その人は爆笑して「いやあ夫婦どっちも持ってるものが“豊か”なんだねえ」と笑っていました。豊かさの象徴するものも、結婚の意味するものも、家族のあり方も、神様の姿も、歴史文化によって異なり、また変化するものだなと思ったのでした。


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