#46 ディズニーランド編(2)
「この間に帰っちゃうか?」と剛が知多に聞いた。
「それは、さすがにまずいんじゃないの?」
「お店に誘ったのは、夢幻さんなんだから良いだろ。ほら、いくぞ」
剛は知多の腕を掴んで駅へ向かおうとする。その前に夢幻が立ちはだかった。
「それはないんじゃない?」
夢幻は剛が掴んでいる知多の腕と反対の腕を掴んだ。
「知多ちゃん、いこ」
剛は知多の腕を離した。
「夢幻さん、俺も一緒に行っていいですよね?」
「…仕方ねぇなぁ。お前は後ろに乗れよ」
「え?車で来てるんですか?」
「そりゃあ、そうだろ」
夢幻は駐車場に向かって歩き出し、二人は夢幻の後をついていった。夢幻は車の鍵を取り出してボタンを押すとシルバーの車のヘッドライトが光った。
「かっこいいですね」
「アウディですか…」と剛は言った。
「女性を乗せるには、良い車でしょ?」
夢幻は、助手席のドアを開けた。
「知多ちゃん。どうぞ」
知多は夢幻に勧められて助手席に座った。夢幻は知多が助手席に座ったことを確認しドアを閉めた。剛は後部座席のドアを開けて乗り込んだ。夢幻は、運転席に座ってエンジンをかけた。
「俺は、安全運転だから安心してね」と夢幻は知多の方を向いて言った。
「ちゃんと前を見て運転してくださいよ」と剛は言った。
「大丈夫だよ。俺の運転テクニックは女性からも定評があるから。じゃあ、行こうか」
夢幻は井の頭通りを明大前方面に向かって走り出した。夢幻の言う通り、車が停止する時やスタートする時は緩やかで、ほとんど車の揺れを感じなかった。また、道を曲がる時も遠心力を感じることはなく、一定の速度で進んでいく。しばらくすると、幡ヶ谷の料金所の入り口を示す案内板が現れ、夢幻は車線変更をして料金所を通過し首都高に乗った。
「…確かに悔しいですけど、運転うまいですね」と剛が言う。
剛の言葉を聞き、夢幻は笑みを浮かべて、知多の方を見た。
「そうだろ?どう?知多ちゃん、惚れた?」
「惚れないです」と知多が回答した。
「これからもっと楽しいところに連れて行ってあげるから楽しみにしてて」
「チュロス食べようぜ!」と剛が後ろから声をかけた。
「ポップコーンもいろんな味があるよ」
夢幻は、ドアの引き出しからディズニーランドのパンフレットを取り出し、知多に差し出した。
「あ、ありがとうございます」
知多は夢幻からパンフレットを受け取り、パンフレットを広げた。
「広いんですね。たくさんあって、迷いますね」
「ビッグサンダーマウンテンに乗ろうぜ」
「知多ちゃんは、ジェットコースターは乗ったことある?」
「いえ、無いです」
「そうか…少しスピードが出る乗り物だけど、面白いよ。あ、そうだ。入り口を入ってすぐのところにショップがあるから、そこでキャラクターのカチューシャとか買おうよ」
「夢幻さんがつけているのは、全然想像つかないんですけど」
「そう?俺は形から入るタイプなんだよ。あんまり時間ないから行きたいところは先に決めといてね」
知多は、パンフレットに目を落とした。
「剛は行ったことがあるの?」
「子供の頃にな」
「何か、オススメある?」
「そうだな。ホーンテッドマンションとか?」
「俺は、アリスのティーパーティだな」
「へぇ~意外ですね。スプラッシュマウンテンって答えるかと思いました」
「あれは、好きだけど、知多ちゃんはダメかもしれないからね」
「そういえば、もうすぐディズニーシーが出来るんでしたよね」
「9月だったかな?オープンしたら行こうよ」
「受験があるので、勉強しないと」
知多の言葉に夢幻は軽く笑った。
「つれないな、一日くらい勉強しなくても大丈夫だよ」
「…皆が勉強しているから、やらない分だけ、先を越されてしまう」
「知多ちゃん、全国テストの偏差値は、全員の結果だから、あんまりアテにならないと思うよ」
「夢幻さんは、受けたことがあるんですか?」
「ないよ。ただ、俺が言いたかったのは、努力する前の計画の方が大事ってこと。努力の方向性が違ったらムダになってしまうからね」
「おっ、夢幻さん、良いこと言うじゃないですか」
「だろ?どう?知多ちゃん、一緒に行かない?」
「私とじゃなくて他の女性と行けばいいんじゃないですか?」
夢幻は、くすくすと笑った。
「…俺がホストだから、信用ならない感じかな?大丈夫。君みたいな子には、変な駆け引きとかしないから」
「君みたいな子って、どういう意味ですか?」
夢幻は、知多の方を向いて話しかけた。
「気を悪くさせてしまったなら、ごめん。俺は仕事上、好意がなくても気を持たせるようなことを言うことが多いんだ。でも、君には、そんなことは言わないってことを伝えたかった」
「…すみません。ただ、夢幻さんとほとんど会話したことがないから、よく分からなくて」
「ごめん。君を困らせるつもりはなかった」
夢幻は車の表示板にある時計を見た。
「あと30分くらいで着くと思うから、剛とどこに行くか話しなよ」
「はい…」
知多と剛は、ディズニーランドのパンフレットを見ながら話し始めた。
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