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#18 修学旅行 京都編(2)

「彩世さん、どういうことですか?」
剛は、隣に座る彩世に抗議をした。
「何?」
「いや、何って、皆と別行動って…」
「なんだ?俺と二人じゃ不満か?」
「そうじゃないですけど…」
「大丈夫。そのために夢幻を置いてきた」と彩世は微笑んで言った。
「彩世さんが他のホストを信頼しているのが意外です」
「そうか?」
タクシーは、南に向かって進んでいく。
「自由行動って何時までだっけ?」
「9時までです」
「そうか。じゃあ、ちょっと厳しいかもなぁ」
「え?」
「すみません、タクシーの貸し切りってお願いできますか?」と彩世は運転手に話しかけた。
「有料道路を使いますか?」
「あ、お願いします。時間は9時までで」
「そうですね…そしたら2万円になりますが」
「2万ね」
彩世は、ポケットから財布を取り出して、一万円札を2枚取り出し、トレイの上に置いた。
「今から宇治市植物公園に行って戻ってくるなら、20分くらいしか滞在できないと思いますよ」
「他に、この時期で蛍が見れる場所ってありますか?」
「そうですねぇ~今の時期なら…哲学の道の辺りでも見れますよ」
「そしたら、そっちに向かってもらえますか?」
「分かりました。どこかでUターンしますね」
「お願いします」
タクシーは京都駅方面に向かっていたが、途中で右折をして北上した。
「銀閣寺の辺りは6月上旬だと思っていたんですけど、今も見れるんですね」
「5月下旬から見れますよ。銀閣寺も見れると思いますが、大豊神社の辺りの方が見えるんじゃないかと思うので、そちらに案内させていただきますね」
「ありがとうございます」
辺りはすっかりと暗くなり、お店の明かりと街灯が京都の街を照らしている。祇園を抜けて哲学の道に入ると街灯もなく暗かった。タクシーが停車し、ドアが開いた。
「そこの道沿いを歩くと、川沿いに蛍が見れると思います、私は、ここに居りますので、ごゆっくりどうぞ」とタクシーの運転手は言った。彩世と剛は、タクシーから降りた。辺りは、真っ暗で何も見えない。しばらくすると、ぼんやりと暗がりの中で道路や木々が見えてきた。彩世は、剛と一緒に川の音が聞こえる方へ歩いた。二人が川を覗き込むと、黄色い光が不規則にふわふわと浮かんでは消えた。
「わぁ!すごいですね」と剛が声を上げた。よく見ると、ちらほらと蛍を鑑賞している人が見えた。
「少し、歩いてみるか」と彩世は、剛の手を握って歩き出した。
左側の川沿いを見ながら、二人で歩く。蛍が目の前で点滅を繰り返している。都会のイルミネーションと違い、自然の中で揺れる黄色い光は美しかった。二人は橋の真ん中まで向かい、川を眺めた。
「綺麗だな」
「そうですね…彩世さん、連れてきてくれて、ありがとうございます」
彩世は、剛を見て、ふっと笑った。
「素直だな」
彩世は、剛の頬に触れて、軽くキスをした。いつもであれば、剛から「止めてください」という声が飛んでくるのだが、今日は、大人しい。彩世は、剛の腰に腕を回して、抱き寄せた。黄色の光が剛の顔をぼんやりと照らす。彩世は、舌で剛の唇をつついた。僅かに剛の口が開き、彩世は、その間に舌を差し入れて、剛の舌をゆっくりとなぞった。剛の口から吐息が微かに漏れ聞こえた。剛の手が彩世のシャツを強く引いているのを感じる。彩世は、剛の舌に自分の舌を絡めた。剛の体が彩世にもたれかかってくる。剛は、全く抵抗する意志を持っていないようだった。彩世は、剛の耳を軽く噛んだ。
「あっ…」と言う剛の声が耳元で聞こえる。彩世が剛を見ると、目が潤んでいるように見える。
「…珍しいな。今日は、抵抗しないんだな」
「いつも…公共の場でしようとするじゃないですか?」
辺りが暗くて剛の表情は見えないが、顔を彩世から背けていることは分かった。そのしぐさは、彩世の心を高ぶらせた。彩世は、剛の頬に触れる。
「それは…二人きりなら、良いってことか?」
「…そういう訳では」と剛は言い、彩世から離れようとする。彩世は、剛の腕を掴んだ。
「俺のこと、好きか?」と彩世は剛に聞いた。
「それは、恋愛感情を持っているかを聞いてます?」
「ああ」
川のせせらぎの音が聞こえ、剛と彩世の間を蛍が飛び交っている。蛍の黄色の光が点滅し、剛の顔が朧げに見える。剛の表情は暗くて、見えなかった。沈黙が続き、彩世は剛に質問したことを後悔した。
「よく分かりません…」と剛は答えた。
「そうか…何で、拒まなかったんだ?」
「…彩世さんにキスされるのは、嫌じゃないんで…」
「でも、恋愛感情を持っているかは、分からないんだな」
剛は、彩世から逃れるように後ろを向いた。彩世は、後ろから剛に腕を回して、剛の首筋に自身の唇を押し付ける。剛は、小さな声を出した。彩世は腕を剛の胸からお腹を撫でて股間に移動させた。ズボンの上からでも固い感触が彩世の手に伝わってくる。
「体は感じているのにな…」
「っ…やめてください…」と剛は彩世の手から逃れて離れた。
「…悪かった。帰ろうか」
彩世は、剛に手を差し出した。しばらくして、剛の手が彩世に触れた。温かなぬくもりを感じる。二人は、タクシーを止めた場所に歩き出した。剛の手が彩世の手をひき、彩世は、振り返った。暗がりでよく見えなかったが、俯いているようだ。
「彩世さん…すみません」と剛は、ぽつりと言った。
「何を謝る必要がある?」
「…俺が中途半端な態度を取っているから彩世さんを困らせているなと思って…」
「……本当にそう思うなら、理由を教えて欲しいけど」
「それは…彩世さんのことが恋愛として好きなのか、友達として好きなのか…答えが出ていないからです」
彩世は、ポケットからタバコとライターを取り出して、火を付けてタバコを吸った。剛は、黙って見つめている。彩世は、タバコの煙を吐き出した。
「…お前は、他の男とキスしたことある?」
「いや…ないですけど」
「じゃあ、試してみたら?」
「え?彩世さん、何を言っているんですか?」
「そうしたら、分かるんじゃないのか?俺が好きか好きじゃないか」
彩世は、灰皿ケースと取り出して、タバコの火を消して、灰皿ケースにしまうと、タクシーの場所に向かって再び、歩き出した。剛は、黙ったまま、彩世の後ろを歩いている。彩世は、剛の態度や素振りから自分自身に対して、少なからず意識を持っているように感じていたため、剛の言葉に肩透かしと共に少し憤りを感じた。


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