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【展示会レビュー】古典×現代 2020: 時空を超える日本のアート

画像:刀剣×鴻池朋子 《皮緞帳》
【展示会名】古典×現代 2020:時空を超える日本のアート
TIMELESS CONVERSATIONS 2020:Voices from Japanese Art of the Past and Present

【場所】国立新美術館 〒106-8558 東京都港区六本木7丁目22−2

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アートに美が宿るためには、いくつかの条件がある。その条件のひとつは、鑑賞者が存在することである。


作者が作品を生み出す際に意図した美がその通り表現され、鑑賞者に寸分の狂いもなく計画通りの美が伝わるとしたら、どれほどアートはつまらないものだろうと思う。

確かに時代ごとに流行りの美しさやブームというものはあれど、鑑賞者の個々に目を向ければ、美しさの基準は人によって異なる。例えばオラファー・エリアソンのエコロジカルな作品を見て関心する人もいれば、現代アートそのものが役に立たないゴミではないかと皮肉を言う人もいる。一見対立するように論理的に思える命題だが、これの意見はどちらも正しくもないし、間違ってもいない。要は、美の観点が異なるだけの話なのだ。もちろん、その観点、いわば審美眼のさらに根っこの部分は、鑑賞者の知識や教養といったバックボーンに支えられ、その時々の鑑賞時の心の状態にも影響される。つまり、心という流動的なものに美の基準が左右されてしまう以上、美はとても不安定なものと言える。

さて、鑑賞者だけの美が不安定かというと、いうまでもなく作者もまたしかりである。

作品を作る構想の時と いざ完成したときの美の基準は全く違うこともあるそうだ。だからこそ、この作品はこんな意図で作ったんですよという前書きがないと一気に美の基準がブレる。きちんと鑑賞者に伝わるように、作者自身が自ら生み出したアートに対して解説を行うこともあれば、専門的な学芸知識を持った第3者が「この作品はなぜ美しいか」について芸術論に則った根拠とともに述べることもある。後者の場合は、解説ではなく、批評という。優秀な批評を通すと、作者も気付かなかった新しい美的価値が見いだされることがある。

鑑賞者が存在し、鑑賞者とアートの2項関係のなかで美が成立する以上、人の数だけ生まれてくる無数の不安定な解釈のなかのどこに美が宿るか、鑑賞者にしろ、作者にしろ、批評家にしろ誰も予想ができない。故に、だからこそ面白い。

誰に、どのように、だけではなく、美が何時宿るかという点。時間のテーマに実験的に切り込んでいた企画展が、8月24日まで東京都の国立新美術館で開催されていた「古典×現代2020 時空を超える日本のアート」であった。

この企画展では8つの展示室で、150年以上前に日本で作られた絵画や仏像、陶芸、刀剣などを、現代を生きる8人の作家の作品と対になるように組み合わせて展示する。
「なんでこれがアートなのか?」と思われがちなコンテンポラリーアートの取っつきにくさに対して、過去に日本で美しいと評価されてきたものを対比させ、一見全く異なるように見える二つの作品のなかに共通する美をあぶり出す。来場者は8つの空間に提示された現代と過去の作品の関係性に触れることではじめはアーティストたちの見出した美が時空を超えたと感じるだろう。しかしながら、実はアーティスト側の共通項ではなく、作品に美を宿す立役者である私たちのなかにあるものが共通していることに気が付かされる。人間が追い求めてきた美への飽くなき探求は実は時空を超えても変わらない。美は不安定なもので、いつ、どのように、誰に宿るか予想ができない。しかも個人ごとに美は異なる。しかしながら、原始的に我々が感じる美といものは現代も過去も共通していて変わらないというある種の普遍性も同時に持つということに気が付かされた。

美術館ガイドブック アートのとびら では 「わからない、むずかしいと思わずに、アートのとびらを開いてみてください。新しい発見があなたを待っているはずです。」と書かれている。

日本の首都東京、常に一寸先の近未来を穿つような見た目の六本木の美術館。国立新美術館で鑑賞することができたのは、過去を振り返らないように佇む建築の見た目とは裏腹に、故きをたずね新しきを知る。意外にもそんな素朴な企画展だった。

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〇●instagram


■8つの展示■

【花鳥画×川内倫子】花や虫、鳥などを描いた昔の絵師たちと、ひっそりと起こる小さな生き物たちの生死を写真で切り取る川内氏との対展示。
【刀剣×鴻池朋子】切る道具と切られる動物。鴻池氏は動物の皮を縫い合わせて作った巨大な帳に神話的イメージを施す。精神性の高い日本刀と、卑近な素材といえる皮との対峙に垣間見える、切り裂くという根源的な力を暗示。
【北斎×しりあがり寿】冨嶽三十六景パロディ作品をとおして、古今に共通する遊びや諧謔の精神を表現する。
【仙厓×菅木志雄】空の概念。この世のものすべてを否定した先に生まれる、絶対的な関係性の「空」についてをインスタレーションで表現。
【円空×棚田康司】木へのアニミズム。円空の立ち木の仏と棚田氏の少女像。ともに一木造りで作ることの理由。木の命、揺らぎ、または振動について。
【仏像×田根剛】滋賀の古刹・西明寺に伝わる日光菩薩、月光菩薩。田根剛が、鎌倉時代に由来するこの二躯の菩薩像にふさわしい光のインスタレーションを試みる。
【乾山×皆川明】…陶芸と服飾。幾何学のデザインやテキスタイルなど。
【蕭白×横尾忠則】デモーニッシュ(悪魔的)絵画の魅力。



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