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成人後に完治を遂げた義弟の一部始終

 ぼくがアトピーの本を執筆することを決意した際、そのことを義妹にも話したのですが、その時に彼女は次のように打ち明けてきました。

「ノブユキさん(義妹の夫=ぼくの義弟)は、昔アトピーが相当酷かったみたいだよ」

 それを聞いてぼくはびっくりしました。なぜならば、十数年前にぼくがノブユキ君と面識ができた当時から、今も、彼にはアトピーの気配や痕跡が一切見られないからです。

 外見(皮膚)もそうですが、「なんでもない時に痒そうにする」「知らず知らずのうちに掻いている」などの“一見アトピーではないけれどその傾向がある人に特有の行動”も、当時から全く見られません。分かりやすく言えば、少なくともぼくと出会ってからのノブユキ君は「アトピーではない人」「アトピーになったことがない人」と同じ状態ということです(だから彼が昔アトピーだったことをずっと知らなかった)。

 そこで、彼とそのご両親に、あらためてお話しを伺うことにしました。

◆◇

 現在、建築関係の会社に勤務するノブユキ君は、1976年(昭和51年)に兵庫県で生まれました。

生まれた時から顔中が真っ赤な湿疹だらけで、すごく痒がっていました」

 と、お母さんはおっしゃいます。厳密には生まれてからほどなくしてだと思うのですが、振り返った時に「生まれた時から」と錯覚するほど、生後間もなく湿疹が発症したのでしょう。

 顔以外にも、腕の内側などに湿疹は出ていたそうですが、顔の湿疹が目立って酷かったようです。近所にある小児科・内科を標榜する病院でアトピー性皮膚炎と診断され、軟膏が処方されました。

お母さん:
「黄色っぽい色をした軟膏でしたが、それを塗ると多少良くはなっていたので弱いステロイドが入っていたのではないでしょうか。でもまたすぐに酷くなり、一進一退の状態がずっと続いていました」

「寝ている間も掻き毟るので、できるだけ傷をつくらないようにミトン(手袋)を手にはめさせていました。しかし、寝ている間にいつも取れてしまっていた気がします」

「ずっとこのままだとこの子が辛すぎる、この状態はいったいいつまで続くのだろうか…と、途方にくれていた記憶があります」

 40年以上も前のことなので、記憶をたどりながら「そういえば、こんなだったな」というふうに当時のことを語ってくださいます。その中で、はっきりと鮮明に憶えていることがあるそうです。それは「治った時期」です。1歳になる直前に、湿疹が完全に消失したそうです。なぜ、はっきり憶えているのかというと、

「当時、0歳児は医療費が無料だったのですが、医療費がかかり始める1歳になる直前にアトピーが驚くほど綺麗さっぱり治ったんです。お金がかからないように治ってくれるとは、なんて親孝行な子なんだと(冗談ながら)思ったのをよく憶えています(笑)」

 とのこと。

 生後1年間ずっと酷かったアトピー。この間にアトピーを治そうとして意識的に行っていたのは、病院でもらった薬を塗ることだけでした。ただし既述のとおり、薬を塗っても一進一退の状態が続いたので、「薬で治ったのではないと思います」と、ご両親はおっしゃいます。

 何が功を奏したのか、いずれにしろ、途方に暮れる日々が(とりあえずいったん)終わったのです。

ノブユキ君:
「他の子たちよりも少しだけ人の輪に入ることが苦手でしたが、その他は何の問題もなく過ごしていました」

 と、本人が言うように、1歳になって以降はアトピーと無縁の生活を送っていたそうです。

 ところが、

ノブユキ君:
「アトピーが治って7年ほど経った小学校4年生の夏に、お尻にいやな痒みを覚えました。耐えきれずに掻いていると湿疹になってしまい、リンパ液が出てきて…同じ症状が、ひじの内側やひざの裏などにも出てきました」

 アトピーが再発してしまったようです。

 アトピーのことを親に言いづらい…理由は分かりませんが、年頃になると、そのような心境になるのでしょうか。ぼくもそうでしたし、ノブユキ君も同じだったようで、しばらくご両親には言わなかったそうです。しかし海水浴がきっかけで、ご両親はアトピーの再発を知ることになります。

お母さん:
「ノブユキが小学校4年生の時、夏休みに家族で海水浴に行ったのですが、海に入ったノブユキが『痛い、痛い』といってすぐに出てきたんです」

「お尻の掻いたところが塩水で強烈に沁みたようで。アトピーが再発したことをその時に初めて知りました」

 とりあえず近所の病院に連れて行き、そこで処方された薬(ステロイド外用薬)を塗っていましたが、アトピーは治りません。

「水泳の時間が、とにかくイヤでイヤでしょうがなかったですねぇ…」

 と、ノブユキ君。アトピーを理由に水泳の授業を見学するわけにもいかず、思い切ってプールに入るのですが、予想以上に傷口に沁みます。プールの水は普通の水道水よりも塩素が濃いため、掻き壊した傷口には刺激となるのです。それを必死に堪えていたそうです。

 水泳の授業の時、もう1つ嫌なことがありました。それは見た目の問題です。彼のアトピーは首から上には全く出ていなかったので、服を着ているとアトピーは目立ちにくかったようです。しかし、海水パンツ一枚になるとそうはいきません。お尻以外の患部が(服を着ている時よりも)人の目につきやすいのです。

ノブユキ君:
「クラスメイトはアトピーについて特に何も言ってきませんでしたが、気を遣わせているようで、それが逆にしんどかったです」

 既述のとおり、年頃のノブユキ君は自分からアトピーのことをご両親に相談することがあまりなかったそうです。薬も途中からは自分で塗るようになり、患部をご両親に見せることもほとんどありませんでした。

 ご両親も無理に「見せなさい」とは言いませんでした。病院に連れて行くなど親として必要最小限の世話や気遣いはするものの、必要以上にノブユキ君に対して働きかけることはしなかったそうです。

お父さん:
「親ですから、もちろんすごく気にはなりますよ。でも、こっちがどっしり構えていないとダメだな、というのがあって」

「見守ると言いましょうか。もともと、他のことについてもノブユキに対してとやかく言うことはしていませんでした。勉強しろとかも、ほとんど言ったことはありません。アトピーについても同じスタンスでいようと意識していました」

「親である私たちが狼狽えて右往左往することは、年頃ながらまだ子供でもある本人に良い影響がないと考えていたんです」

 そうはおっしゃるものの、ノブユキ君のアトピーの酷さは相当だったようです。ご両親は2つの“痕跡”によってそのことを常に察知し、認識していました。

 1つ目の痕跡は「爪」にありました。

お母さん:
「ノブユキは患部を見せたがらなかったし、一緒にお風呂に入る年齢でもなかったので、直接私が患部を目にする機会はほとんどありませんでした。でも、アトピーがかなり酷いのは分かっていました。掻き毟って剥がれた皮膚が、赤い血とステロイド軟膏が混じった鈍い色になって、ノブユキの爪の間にいつも入っているんです」

 もう1つの痕跡は「下着」にありました。

お母さん:
「洗濯は当たり前に私がしますでしょ。洗濯カゴに入っているノブユキの下着を洗濯機に入れる時に、下着のお尻の部分が血と汁(リンパ液)で毎日すごく汚れているんです。(患部を見なくても)どれほど痒いのか、掻き毟っているのか、一目瞭然でした」

 自分たちが見ていないところでノブユキ君が搔き毟っていることを物語る“痕跡”を見るたびに、「痒いのがとにかくつらいんだろうな」と、お母さんは心苦しかったそうです。しかし、努めて気丈に振る舞い、決して口に出して吐露することはありませんでした。

 ところが、小学校も高学年になっていたノブユキ君は親心を敏感に察知します。

ノブユキ君:
「ぼくがアトピーになってしまったことについて、母は相当つらい思いをしているのではないかと思い、そんな思いをさせてしまっている自分を責めるような気持ちになりました」

 そんなノブユキ君たちの気持ちをよそに、アトピーは中学、高校と進むにつれてさらに酷くなっていきます。

お母さん:
「下着の汚れは何年もずっと続きましたが、汚れ具合から、アトピーがどんどん酷くなっているのが分かるんです」

ノブユキ君:
「汁が昼夜問わず、患部から止めどなく湧き出ていました。寝ている間に出てきた汁が朝になると部分的に糊のように固まって、患部と下着やシャツが毎日くっ付いてしまうんです」

「それをベリベリと剥がす時、ゾっとするような感覚があったのを覚えています。毎朝毎朝、心が萎えそうでしたよ」

「授業中であろうと汁がお構いなく湧き出てきます。ジュクジュクして感触が悪いだけでなく、帰る頃になると学生服のズボンにまで染み出ていて、ズボンのお尻のところでカピカピに固まっているんです」

「そこだけ不自然にテカテカと光沢を帯びてしまい、人目が気になって仕方がありませんでしたね」

「お尻を中心に、腕や脚の関節の裏などもとにかく痒くて痒くて仕方がなく、勉強にもなかなか集中できなかったです」

 そのような状況にもかかわらず、ノブユキ君は頑張って市内でも上位の高校に進学していますが、その頃、ドライヤーで患部を乾かすことが毎日の日課となっていました。ドライヤーの熱風を患部に当てると、リンパ液が乾燥すると同時に狂気とも思えるほど痒くなり、ドライヤーを止めた後は痒みが(一時的に)一気に引くのが気持ち良かったそうです。

お母さん:
「ドライヤーの件は、私たちは全く知りませんでした。自分の部屋でこっそりやっていたのでしょう」

お父さん:
「そういえば当時、少しだけ下着の汚れがマシな時があったような気がするんですが、ドライヤーのおかげだったのかもしれないですね。私たちは勝手にたまご除去の効果かなと思っていたのですが…」

たまご除去――じつはその数年前からアトピー対策として、ノブユキ君に生たまご、ゆでたまご、目玉焼き、たまご焼きはもちろんのこと、親子丼のようにたまごとはっきり分かるものは一切食べさせないようにしていたそうです。ただ、アトピー対策として、なぜそれを始めたのかについて、ノブユキ君とお父さんとで記憶が食い違っています。

ノブユキ君:
「アレルギー検査をした訳ではないのですが、たまごを食べた次の日は決まってアトピーが悪化していたから、そう(除去)していたと思います」

お父さん:
「インターネットはまだ無い時代でしたが、アトピーに関する情報には常にアンテナを張っていました」

「例えば“養魚場で魚のエサを撒く人のアトピーが治った。そのエサにアトピーが治る成分が含まれていて、撒く際にエサが身体に付着するから”とか、“ミイラのように体中包帯でグルグル巻きにする病院で治った”とか、“この石鹸やシャンプーを使えばアトピーが治る”とか、いろいろ目にしましたけど、闇雲に信じたり飛びついたりはしませんでしたね。根拠がよく分からない情報に振り回されるのは危険だと思っていたんです」

「たまごを食べさせないようにした理由は…たまごっていうのは鶏が食べたエサの栄養だけでなく、エサに含まれている農薬とかいろんな薬品、例えば抗生物質とか、そういうものもすべてたまごに濃縮されてしまうという情報があり、『確かにそうかもしれない』と思ったんです」

「その当時、毎日必ずお弁当にたまご焼きなどのたまご料理を入れていて、もしアトピーが食事と関係あるのであれば、それは毎日摂取しているものではないか、と思いまして。だから、たまごを一切摂らせないようにしてみたんです」

 ノブユキ君とお父さんのどちらの記憶が正しいのかは分かりませんが、「かなり長い間たまごだとはっきり分かるものは一切食べないようにしていた」ことについては同じ見解でした(ただし「パンやお菓子などの加工食品に入っているたまごにまでは意識がいかず、普通に口にしていた」と、ノブユキ君)。

 ただ、たまご除去によってアトピーが治ることはなく、小学校4年生で再発してから高校卒業までの9年間、アトピーは酷くなる一方でした。

 しかし、高校を卒業して専門学校に進学した頃から、ノブユキ君のアトピーに変化の兆しが見え始めました。本当に、本当に少しずつですが、痒みや湿疹、リンパ液の量がマシになってきたのです。とはいえ、アトピーで苦しんでいることに違いはありませんでした。

 ところが、専門学校を卒業した20歳くらいの時に、ずっと塗ってきたステロイド外用薬の使用を止めたそうです。

ノブユキ君:
「ステロイドは小学校4年生でアトピーが再発してからもずっと塗っていました。もちろん、塗っていたことで(痒みや湿疹、リンパ液を軽減する)効果は感じていましたが、他の人ほどてきめんではなかったと思います」

「というのも、とにかく患部から汁が出てくるので、ステロイドを塗っても汁によって結構流れて取れてしまっていたのかな、と」

「惰性でずっと塗っていましたが、高校を卒業したあたりからちょっとだけアトピーが良くなってきたこともあり、20歳の時に塗るのを止めたんです。他の人ほどてきめんな効果が感じられないわけですし、塗るのが面倒くさかったのも大きいです(笑)」

 ちなみに、ステロイド外用薬の使用を止めても、脱ステロイドによるリバウンドのような症状は一切無かったと言います。

 専門学校を卒業後、ノブユキ君はコンビニエンスストアで働きました。日勤と夜勤の両方があり、生活や睡眠のリズムが変則的になります。また、24時間勤務をさせられることもたびたびありました。食事は、そこで食べられるコンビニ弁当やジャンクフードということも多かったと言います。しかし、アトピーは悪化することなく、一段と軽快していったそうです。

 その後22歳の時に、とある縁で大工の道に進みます。

ノブユキ君:
「いわゆる見習の立場からの出発だったので、修行も兼ねてかなりの長時間労働でしたが、それは仕方のないことです」

「その頃から一人暮らしを始めたのですが、疲れて帰ってきて、自炊する気は到底起こりません。コンビニ弁当やカップラーメン、ファストフードで腹を満たす毎日です。まあそれまでも、生活習慣や食生活は褒められたものではなかったですけど(笑)」

「コンビニや大工の仕事は肉体的にも過酷ですが、(コンビニは)不規則な労働時間や(大工は)見習の立場ということもあって、疲労感や精神的なストレスは常にあったと思います」

「だからと言えば言い訳になるかもしれませんが、当時はかなりヘビースモーカーで、酒も結構飲んでいました(笑)」

 そのような生活を送る中、アトピーは・・・

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アトピーは、本当は『完治』する。
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