【毎週ショートショートnote】『 メガネ初恋』
「これ覚えてる?」
部屋を整理していると懐かしいものを見つけ、思わず夫の翔斗に声をかけた。私の初めての恋のきっかけとなったもの。こんなものがきっかけとなったなんて、今考えてみてもおかしい。
「もちろん覚えてるよ」翔斗は微笑んで答える。
23年前。
ミレニアムイヤーと呼ばれたその年、西暦をかたどったメガネが流行った。真ん中の2つの『0』の部分にレンズが嵌め込まれたおもちゃのメガネだ。
そんな浮かれたメガネをかけていた人は、私の周りでは翔斗だけだった。恥ずかしげもなくそのメガネをかけて笑う翔斗に、私は心奪われてしまったのだ。
「面白い話があってね」翔斗は私から受け取ったメガネをかけながら言った。「このメガネ、1000年前にも流行ったんだって」
「えっ…そんな昔にもこの発想があったってこと?」
「うん。アーカイブに載ってたよ。ほんと人間って成長しないよね」そう言って翔斗は微笑む。
『3000』の文字とともに笑う翔斗の笑顔は、今でも眩しく思えた。(422字)
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たらはかに(田原にか)様の企画に参加させていただきました。
*1000年後の未来に、そもそもメガネという存在があるかは疑問ですが、人間は進歩しなかった。ということで――。
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