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『条文の読み方 第2版』を読んで気になったところを書いてみました(令和6(2024)年2月22日更新)

 法制執務・法令用語研究会『条文の読み方 第2版』(有斐閣、2021。以下「本書」とします。なお、特に指示のない頁表記は、本書の頁表記です。)について気になるところがありましたので、以下のように書き出してみました。基本的には、本書の性格からしてもう少し説明があったらとか、執筆者の先生方の意図を知りたいとかいうことを書いています。ですので、執筆者の先生方からのご教示があればいいなと思いますし、本書の読者の皆さんの参考になるというであればうれしく思います。もとより、私の浅学非才のせいで思わぬ間違いをしているかもしれません。その場合は、ご容赦をお願いしますとともに、ご指摘くだされば幸いです。

令和6(2024)年2月22日
 官報の発行に関する法律(令和5年法律第85号。以下「官報発行法」という。)が公布されたことを受けて、更新しました。


1 現行法令の種類について 

 1−1 総論

 6頁では、「(1) 現行法令の種類について」の見出しの下、「ここでは、我が国の現行法令の全体的な姿について、ごく簡単に眺めておきましょう。」とした上で、「憲法」、「法律」、「政令」、「府令(内閣府令)」、「省令」、独立性の高い機関が定める「規則」、「議院規則」、「最高裁判所規則」を挙げています。さらに、7頁で「そのほか、地方公共団体が定める「条例」や「規則」、国際的な法規範としての「条約」といった法形式も存在します。」としています。
 まず、この場合、「現行法令」の種類ということと「法形式」の種類ということとの関係を明確にする必要があると思います。この場合、法形式というと、法令の形式のことを意味し、基本的には憲法と法律で制定が認められている法令の形式ということになります。これらの法令の形式の種類について、すべて実際に制定され、現行法令となっているとすれば、法形式の種類と現行法令の種類とは同じということになります。しかし、例えば、後述するように憲法改正という法形式が日本国憲法(以下「現行憲法」とします。)上認められていますが、現在まで実際にこの憲法改正が定められたことはないので、現行法令ではなく、したがって、現行法令の種類とは言えないということになります。一方で、仮に憲法改正が制定されても、憲法に溶け込み、それ自体は抜け殻となるということだとすると、その時点では現行法令ではないということにもなります。そのように考えると、本書の場合、現行法令の種類を挙げたということなのでしょうが、少なくともほかにも国法の法形式があるということは説明するべきではないかと思います。
 とはいえ、本書で挙げられていない法形式でも、挙げておくべきだったと思われるのもありますし、挙げられているものであっても、取り上げ方について疑問があるものもあります。以下、具体的に見ていくこととしますが、その前にどのような法形式があるのか、見ておきたいと思います。
 現行憲法に定められている法形式には、憲法改正、条約、法律、議院規則、裁判所規則、予算、政令、条例があり、法律で定められているものに、会計検査院規則、人事院規則、内閣官房令、内閣府令、デジタル庁令、省令、復興庁令、(外局の委員会の定める)規則、庁令、告示、(地方公共団体の)規則などがあります。以下では、個別に見ていくことにします。
【追記】官報発行法が公布されました。施行は、「公布の日〔=令和5年12月13日〕から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定める日」です。官報発行法は、本書刊行後に制定されたものなので、本書について問題があるということではありません。官報発行法で、官報で公布する法令等を規定している関係で、法形式について参考となる部分があり、その点について追記しています。

 1−2 憲法改正

 憲法改正については、天皇の国事行為として現行憲法第7条第1号に「憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること」とあることから、「憲法改正」がそれ自体として一つの法形式であると解されています。この点について、小林公夫「主要国の憲法改正手続 基本情報シリーズ16」(国立国会図書館調査及び立法考査局、2014。以下「主要国憲法改正手続」とします。)注37(8頁)は、この解釈が通説と言えるとしています。実務上も、官報及び法令全書に関する内閣府令(昭和24年総理府・大蔵省令第1号)が、第2条で「法令全書は、憲法改正、詔書、法律、政令、条約、内閣官房令、内閣府令、デジタル庁令、省令、規則、庁令、訓令及び告示等を集録するものとする。」としていることから、憲法改正が法形式であるとしているということは明らかであろうと思います。
 この場合、憲法改正は、実際に制定されたことはないので、取り上げないということかもしれませんが、憲法の改正は、憲法という法形式ではなく、憲法改正という法形式でなされるということを説明する必要があることと、昨今の状況からして憲法の改正について関心が高まっているということを考えると、説明をしておく必要があると私は思います。

【追記】官報発行法第3条第1項は、次のようになっています。

第三条 日本国憲法改正、法律及び法律に基づく命令(最高裁判所規則その他の規
 則で内閣府令で指定するものを含む。以下「法令」という。)、条約並びに詔書
 の公布は、官報をもって行う。

 このように、官報発行法では憲法を改正する法形式は「日本国憲法改正」としているようです。「ようです」というのは、この点確信がもてないからですが、いずれにしても、憲法を改正する法形式は「憲法」ではないとしているとはいえるのではないかと思います。一方で、先に憲法を改正する法形式を「憲法改正」としていることを改める必要があるかもしれません。さらに検討したいと思います。

 1−3 条約

 条約については、7頁下段では「国際的な法規範としての「条約」といった法形式も存在します。」とあります。「国際的な法規範としての「条約」といった法形式も存在」することは間違いではありませんが、条約は国法形式の一つでもあります。大森政輔ほか共編『法令用語辞典 第11次改訂版』(学陽書房、2023。以下「法令用語辞典」とします。)の条約の項では、「条約も,無論,国法の1形式であり,法律,政令等と同様に公布され(憲法71),これにより国法としての効力を生ずる.」(同書421頁)とされています。条約も国法形式の1つであることを説明するべきだと思います。だからこそ、天皇が公布し、法令集にも条約は載っているのでしょう。もっとも、条約は法律や命令などと法制執務的には異質ですし、本書では対象としないということで、このように扱っているのだろうと考えられますが、そうであるとしても、少なくとも国内法としての法形式の1つであるが本書では扱わないということを説明するべきではないかと思います。

 1−4 予算

 予算については、予算=法律説からは法律に含まれるということになるかもしれませんが、いずれにしても現行憲法の定める法形式の一つではあります。しかし、予算は、法令全書にも収録されませんし、法令集に掲載されるという意味での法令ではありません。また、条文の読み方ということの対象となるものでもありません。そのため、本書では取り上げないということもあるとは思います。しかし、そのことについて説明したほうが親切かとも思います。

 1−5 議院規則

 6頁では、次のように書かれています。

 なお、行政機関の定める命令として、「政令」や「府令・省令」のほか、会計検査院や、人事院、公正取引委員会といった独立性の高い機関が定める「規則」もありますし、また、国会の各議院はその議事手続や内部規律に関し「議院規則」を定めることが、最高裁判所は訴訟に関する手続や裁判所の内部規律等に関し「最高裁判所規則」を定めることが、それぞれ憲法上認められています(憲法五八条二項・七七条一項)。

6頁

 確かに「規則」という法令用語の意味は、法令用語辞典では、法形式としての「規則」について次のように書いていて、議院規則や最高裁判所規則について、行政機関の制定する規則と同じ「規則」として列挙しています。

 (2) 法の一形式として「規則」というときは、議院、最高裁判所、会計検査院、人事院、内閣府若しくは各省に置かれる委員会及び庁の長官又は地方公共団体の執行機関がそれぞれ制定する議院規則(憲法58Ⅱ)、最高裁判所規則(憲法77I)、会計検査院規則(会計検査院法38)、人事院規則(国家公務員法16I)、委員会及び庁の長官の規則(国歌行政組織法13I等)、地方公共団体の規則(地方自治法15I)、人事委員会規則(地方教育行政の組織及び運営に関する法律15I)、人事委員会規則又は公平委員会規則(地方公務員法8Ⅴ)などをいう.

法令用語辞典129頁

 しかし、議院規則と次の最高裁判所規則は、現行憲法上の法形式であるばかりでなく、その効力について議論になっており、説によっては法律に優位するというものです。一方で、本書では議院規則と最高裁判所規則の効力については論じていません。効力の位置づけで行政機関の命令と異なるわけですから、こうした効力関係を論じないで、行政機関の規則とまとめて論じるということは適当ではないと思います。また、議院規則は公布されないなど、法令のあり方も異なるものがあります。この点の説明があった方がよいのではないでしょうか。

【追記】1−2の追記で引用した官報発行法第3条第1項では、「法律及び法律に基づく命令(最高裁判所規則その他の規則で内閣府令で指定するものを含む。以下「法令」という。)」とあって、法令用語辞典での「規則」という意味で「最高裁判所規則その他の規則」としているようにも考えられます。そうであれば、その考え方は本書の「規則」についての考え方に近いものであるように思います。したがって、上で述べた私の疑問は、成立しないということになるかもしれません。しかし、官報発行法第3条第1項の解釈が本当にそうなのかは疑問がありますし、本書の読者への説明は上で述べたようにするべきではないかということから、今のところはそのままにしておきます。なお、検討したいと思います。

 1−6 最高裁判所規則

 議院規則のところで述べたように、最高裁判所規則についても、その効力について述べていないこともあり、行政機関の規則とまとめて論じるのは、適当ではないと思います。なお、現行憲法第77条第2項で、「最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。」としていることも説明したほうがよいかもしれません。ただ、例はないようなので、この点に触れる法制執務関係の本はあまりないようです。そのため、触れないということもあるのかもしれません。
【追記】1−5の追記を参照。

 1−7 政令

 政令については、先述の現行憲法第7条第1号に見られるように、憲法で定められている法形式で、現行憲法第73条第6号に「この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。」とあることから認められているものであることを説明すべきでないでしょうか。また、現行憲法第7条第1号は、政令は法律と同様に天皇が公布することを定めており、その結果、公布文が付けられるということになっています。この点は、内閣府令、省令などが公布文に代えて制定文から始まるということと異なるところで、その意味でも説明が必要だと思います。

 1−8 内閣官房令、復興庁令(付デジタル庁令)

 内閣官房令と復興庁令は、内閣府令、省令と同格のものとして、挙げておくべきではないでしょうか。先述の官報及び法令全書に関する内閣府令第2条で内閣官房令が挙げられており、同令附則第2項で「復興庁が廃止されるまでの間における第一条及び第二条の規定の適用については、第一条及び第二条中「デジタル庁令」とあるのは、「デジタル庁令、復興庁令」とする。」とし、復興庁令も挙げていることからも、これらを挙げる必要があると思います。
 令和3年9月1日以降は、デジタル庁令という法形式が創設され、上記のように官報及び法令全書に関する内閣府令第2条にも規定されています。そして同日付官報特別号外第73号において、実際にデジタル庁令がいくつか公布されています。本書発行時にはなかったものなので、ここで挙げていないことに問題があるわけではありません。ただ、今後は注意しなければならないということで、念のため、書いておきます。
 なお、以下では、内閣官房令、内閣府令、デジタル庁令、省令、復興庁令を総称するときは「府省令」とします。

 1−9 規則

 先の引用で「会計検査院や、人事院、公正取引委員会といった独立性の高い機関が定める「規則」もあ」るとしていますが、性質の異なるものをまとめてしまっているように思います。まず、会計検査院規則と人事院規則は、内閣から独立した機関の定める規則で、それぞれ会計検査院法と国家公務員法とで定められているものです。公正取引委員会規則は、内閣府の外局としての委員会で、内閣府設置法第58条第4項で「各委員会及び各庁の長官は、別に法律の定めるところにより、政令及び内閣府令以外の規則その他の特別の命令を自ら発することができる。」とされ、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第76条第1項により定めるもので、外局の規則と呼ばれるものです。会計検査院規則、人事院規則は、それ自体が独自のものです。一方で外局の規則は、次に述べるように1つのジャンルとなっています。確かに官報では、これらを「規則」としてまとめて掲載しているということもあるので、一概に別のものとするべきだとはいえないということかもしれません。しかし、会計検査院規則、人事院規則と外局の規則を同列に扱うのは法形式の違いを説明するという場合には、適当ではないと思います。
 ここでは公正取引委員会の規則しか取り上げていませんが、この外局としての委員会が定める規則には、内閣府設置法第58条第4項によるもののほか、国家行政組織法第13条第1項が「各委員会及び各庁の長官は、別に法律の定めるところにより、政令及び省令以外の規則その他の特別の命令を自ら発することができる。」とされていることにより定めるものがあります。具体的には内閣府設置法第58条第4項によるものとして国家公安委員会規則などがあり、国家行政組織法第13条第1項によるものとして中央労働委員会規則、原子力規制委員会規則などがあります。ここでは、外局の規則として、ほかにもこうしたものがあることを示す説明をするべきだと思います。
 また、外局である委員会の規則と並んで、先に引用した内閣府設置法第58条第4項と国家行政組織法第13条第1項では、各庁の長官が定める「規則その他の特別の命令」もあるとされ、官報及び法令全書に関する内閣府令でも「庁令」が掲げられています。庁の長官が定める庁令として、海上保安庁令が2件あります。なお、宮内庁は内閣府に置かれていますが、内閣府の外局でも特別な機関でもないため、厳密に言えば外局である庁の長官が定める庁令とは別のものということになりますが、宮内庁法(昭和22年法律第70号)第18条第1項で、宮内庁長官について内閣府設置法第58条第4項の規定を準用しているので、「庁令」を定めることがあると考えられます。しかし、宮内庁令は、現在のところ、制定されていないようです。このような庁令とされているものについて、先に引用した法令用語辞典では「庁令」を特に明示せずに、「委員会及び庁の長官の規則」の中に含めているようですし、法制執務研究会編『新訂 ワークブック法制執務 第2版』(ぎょうせい、2018。以下「ワークブック」とします。)でも「外局規則」として扱っているようです(ワークブック7〜9頁)。この意味では、庁令は外局の規則の中に含まれるということなのかもしれません。
 以上のように、外局の規則についてはそれ自体として説明する必要があると思います。その意味で、外局の規則について分けて論じたほうがよかったのではないかと思います。
【追記】1−5の追記を参照。なお、官報発行法第3条第1項では、「庁令」という文言は出てきません。この場合、上で述べたように、庁令は規則に含まれるということかもしれません。ただ、同項の「命令」に含まれることも考えられます。この点は、さらに検討してみたいと思います。

 1−10 告示

 告示とは、公の機関が、その決定した事項その他一定の事項を公式に広く一般に知らせる形式の1つで、内閣府設置法第7条第5項、同法第58条第6項、国家行政組織法第14条第1項により、内閣総理大臣、各大臣、各委員会及び各庁の長官がその機関の所掌事務に関して公示を必要とする場合には、告示を発することができるとされているものです。なお、地方公共団体の告示について、地方自治法上根拠規定はないが、法令で都道府県知事や市町村長、委員会が告示する旨を定めるものがあり、その意味で、地方公共団体の告示があることを前提としているとされています。このように、告示は、決定した事項等を公示するものであるので、直ちに法令というわけではありませんが、告示が実質上法の内容を補充する法規たる性質をもつ場合があり、法令として効力があることになることがあります。実際、伝習館事件上告審判決(最Ⅰ判平成2年1月18日)において、最高裁は、告示である高等学校学習指導要領(昭和35年文部省告示第94号)が法規としての性質を有することを認めるなど、判例で法令として認められている告示があります。また、行政手続法第2条第1号は、「法令」の定義として、「法律、法律に基づく命令(告示を含む。)、条例及び地方公共団体の執行機関の規則(規程を含む。以下「規則」という。)をいう。」としています。法令としての告示というものがあるということを何らかの形で示すべきではないかと思います。

 1−11 地方公共団体の規則

 7頁下段では「そのほか、地方公共団体が定める「条例」や「規則」、……といった法形式も存在します。」とあります。しかし、「地方公共団体が定める…「規則」」というのは、疑問があります。法令用語辞典の「条例」の項では、「条例 1)地方公共団体が制定する法形式である.地方自治法の制定前の東京都制,道府県制,町村制においては,「条例」及び「規則」について規定していたが,これらは,共に地方公共団体が制定するものであり,ただ,その規定する内容によって,条例又は規則をもって規定する区別があるに過ぎなかったが,地方自治法では地方公共団体がその事務について規定するものを「条例」といい(同法14),地方公共団体の長がその事務について規定するものを「規則」という(同法15)ことにした.」としています(同書425頁)。このように地方自治法では、「規則」は地方公共団体が定めるのではなく、地方公共団体の長が定めるものということにして、明確に区別しています。法令上でも、「(普通)地方公共団体の規則」ということはあります(地方自治法第15条第2項など)が、「地方公共団体が(の)定める規則」という文言は出てきません。
 より厳密にいうと、地方公共団体の長が定める規則と地方公共団体に置かれる委員会が定める「規則その他の規程」(地方自治法第138条の4第2項)など地方公共団体の長以外の執行機関が定める「規則その他の規程」とがあります。それらを総称するときには、「普通地方公共団体の規則並びにその機関の定める規則及びその他の規程」(地方自治法第16条第5項)などとされています。
 なお、法令用語研究会編『有斐閣 法律用語辞典 第5版』(有斐閣、2020。以下「法律用語辞典」とします。)で、「法令」の意義を「国会が制定する法律及び国の行政機関が制定する命令を合わせて呼ぶときに用いられる語。しかし、場合によっては、地方公共団体の制定する条例や規則、最高裁判所規則等の各種の法形式を含めていうこともある。」(同書1070頁)としており、そこでは「地方公共団体の制定する条例や規則」となっています。しかし、同書の「規則」の項では「…形式的効力は、一般に法律(地方公共団体の執行機関の制定するものにあっては、命令にも)劣るものとされる。具体的には、…地方公共団体の規則、教育委員会規則等がある。」としています。

2 「図表1 国レベルの国内の法令」での件数について

 7頁の「図表1 国レベルの国内の法令」では、「令和2年12月現在」の憲法が1件、法律が約2,050件、政令が約2,250件、府令・省令が約4,100件との件数が表示され、これらは総務省「e-Gov法令検索」に基づいているとされています。この件数については、何の件数なのか表示されていませんが、8頁の現行法律の数とこの図の法律の件数が同じであることから現行法令の件数ということだと思います。なお、これは私の備忘のために書いておくのですが、e-Gov法令検索を含むe-Govの整備・運営は2021(令和3)年9月1日からデジタル庁に移管されています(「お知らせ」)。
 さて、本書の現行法令件数は、「e-Gov法令検索」に基づいているというだけではっきりしないのですが、「e-Gov法令検索」の「DB登録法令数」のページでの件数に基づいているものではないかと思います。問題は、「登録法令数」となっていて、それが現行法令数かどうかはっきりしないということです。この点、「e-Gov法令検索」には、この「DB登録法令数」とはどういうものか説明がないので、現行法令数と同じなのか違うのか、違うとしたらどう違うのかがはっきりしません。ただ、いくつかの理由で現行法令数とは異なるのではないかと思えるところがあります。いずれにせよ、「e-Gov法令検索」からこの現行法令数をどのように導き出したのか説明をしてほしいと思います。
 また、有斐閣六法編集室編『有斐閣六法の使い方・読み方』(令和3年9月17日第59刷発行)1頁では、「令和三年七月一日現在、効力を持っている法律の数は二〇二八件、法律以外の下級法規では、政令が二二一〇件、その他府庁省令が三八二一件とされています。」とあります。こちらは基準日が令和3年7月1日で、本書の場合の令和2年12月現在と違っていますが、それでも、先述の本書での数字との差は大きくて、本書での数字と『有斐閣六法の使い方・読み方』の現行法令数とは違うということを示しているのではないかと思います。例えば法律では、22件ほど本書の方が多いのですが、昨年12月以降に法律が22件も減ったということは考えにくいように思います。ちなみに、この前年のもの(令和2年9月18日第58刷発行)では令和2年7月末現在、法律は2008件です。これも、本書での数と比べると同年12月までに40件以上も法律が増えたということになりますが、それも考えにくいように思います。いずれにしても、有斐閣六法の関係で示されている数字とは異なっているように見えます。その点について説明をしてほしいところです。

3 国内法令についての定式化

以上のことを国レベルの国内法令に限って定式化すれば、我が国の法令は「憲法」→「法律」→「政令」→「府令・省令(両者は同レベル)」と、憲法を頂点としたピラミッド構造を形成しています(図表1)。

7頁

 まず、「規則」や「告示」を含めないで「国レベルの国内法令に限って定式化」するということでよいのかと疑問に思いました。「規則」や「告示」を含めると定式化できないというのであるなら、そもそも定式化ということにはならないということのようにも思います。
 このほか、「「府令・省令(両者は同レベル)」」というのであれば「内閣官房令」や「復興庁令」も同レベルのものとして書いておいたほうがいいのではないかと思います。
 次に「我が国の法令は「憲法」→「法律」→「政令」→「府令・省令(両者は同レベル)」と、憲法を頂点としたピラミッド構造を形成しています。」ということも疑問があります。確かに、「憲法」→「法律」→「政令」→「府令・省令」という効力関係にあり、そのうえでそれぞれの件数を考えれば、ピラミッド構造ということになるのかもしれません。しかし、法令の相互関係としての「定式化」というならば、法令間の関係性という点から考える必要があると思いますが、その観点からは、単純にそうはいえないのではないかと思います。特に法令間の委任の関係について考えると、問題があると思います。この場合、その法令より下位の法令に委任することができます。そこで、「憲法」→「法律」→「政令」→「府令・省令」の順序で委任がされているというのであるならば、ピラミッド構造の関係にあるともいえます。しかし、実際には、この順序で段階的に委任する構造にはなっていないため、ピラミッド構造というのは、疑問があります。この場合、直近下位の法令だけでなく、下位の法令であれば委任できるということで、つまり、法律であれば、政令に委任することができるだけでなく、政令を介さずに、直接、府省令や告示に委任することができるということです。このほか、政令は府省令や告示に、府省令は告示に委任することができます。そして、実際にそのような例は多いのです。ピラミッド構造といってしまうと、実際のこうした法令間の委任のあり方についての理解を妨げることにならないかというように思います。

4 憲法第81条と法令審査権

この憲法を頂点とした国法体系の統一性を保つため、憲法八一条では「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」と規定しています…。

7頁

 現行憲法第81条が「この憲法を頂点とした国法体系の統一性を保つため」のものとはいえないのではないかという疑問があります。確かに法律用語辞典は、「法令審査権」について「裁判所が裁判を行うに当たって、事件に適用される法令の内容が上級の法令(特に憲法)に適合するかしないかを審査し、検定する権限。違憲立法審査権ともいう(憲八一)。」(同書1070頁)としていて、このような考え方に立っているようにも思えます。しかし、この法律用語辞典の記述でも、同条は違憲立法審査権のことでもあるとしており、法律より下位の法令についての法令審査権が同条により創設的に規定されているとまではいっていないと思います。そもそも同条では「憲法に適合するかしないかを決定する権限」としていて、法律より下位の法令が上位の法令に適合するかどうかの権限については規定していないようにも思います。
 宮澤俊義(芦部信喜補訂)『全訂日本国憲法』(日本評論社、1978。以下「宮沢コメ」とします。)674頁は、現行憲法第81条について「ここにいう「憲法に適合するかしないかを決定する権限」は、通例、法令審査権とか、違憲立法審査権とか呼ばれるが、むしろ憲法適合性審査権または合憲性審査権と呼ぶほうが言葉としてより正確であろう。」としています。
 さらに、同条の審査権について「明治憲法のもとでは、この点につき、別段の規定はなかったが、命令については、裁判所が実質的審査権(その内容が上級の法形式の内容に違反していないかどうかを審査する権)を有することは当然と解され、それが憲法または法律に適合するかどうかは、つねに裁判所によって審査された(規則または処分については、その憲法適合性が実際に争われたことはないが、同じように考えられていたといっていい)。」(宮沢コメ668〜669頁)としています。つまり、明治憲法下でも法律より下位の法令が上位の法令に違反していないかを審査する権限を裁判所は有していたということです。
 また、裁判所がどの程度において法令審査権を有するかは国によって異なるが、実質的審査権に関しては、「この場合でも、形式的効力において法律に劣る法形式(法律の下級法形式)の内容が法律に違反しないかどうかを審査する権が裁判所にあることについては、あまり争いはない。」(宮沢コメ674〜675頁)としています。
 つまり、同条は裁判所が合憲性審査権を法律及びそれ以下の法形式について有することを定めたもので、「裁判所が命令およびそれ以下の法形式がその上級法形式たる法律に違反するかしないかを審査する権―いわば、合法性の審査権―を有することや、さらに一般的に、下級法形式の内容がその上級法形式に違反しないかどうかを審査する権限―これが法令の実質的審査権であるーを有することは、当然のこととみとめているのである。」(宮沢コメ675頁)ということです。
 以上のように法律より下位の法令について上位の法令に違反していないかを審査するという法令審査権が裁判所にあるということを前提にして、現行憲法第81条が違憲立法審査権が裁判所にあると定めたと考えるということだと思います。つまり、法律より下位の法令について上級の法令に違反していないかを審査するという法令審査権が裁判所にあるということを同条が創設的に規定したということではないと考えられているのではないかと思います。しかし、上記の記述では、法律より下位の法令について上級の法令に違反していないかを審査するという法令審査権についても創設的に裁判所に認めたと同条が規定しているというようにも読めます。そうであるなら、そうした理由も含めそのように考えることについての説明が必要なのではないかと思います。

5 垂直的な法的整合性の確保について

…、このような上位の法令に違反することのないようにすること(法律の場合であれば、憲法に違反しないようにすること)は、法的整合性(=垂直的な法的整合性)の確保の要請として、法令立案の段階から厳格に守るようにされています。

7頁

 しかし、「法的整合性(=垂直的な法的整合性)」では、法的整合性=垂直的な法的整合性ということになってしまいます。また、この記述の後に、同じ7頁に「さらに我が国における法令立案の実際では、他の同位の法令(法律の場合であれば、他の法律)との矛盾抵触関係についても、法令用語その他の法制執務のルールに従った条文整理が事前になされることになっています(=水平的な法的整合性の確保)。」とあることとも整合性がとれていないように思います。この場合、「上位の法令に違反することのないようにすること」が「垂直的な法的整合性の確保」ということでしょうから、そのことを明確にするべきではないかと思います。

6 第一の法制改革期について

 10頁の1886年以降の法律の制定件数の推移を示したグラフにより、法律の制定件数が上振れした時期として3つの時期を指摘できるとした上で次のように書かれています。

 まず、第一の法制改革期は、帝国議会が開設された一八九〇(明治二三)年前後です。欧米の近代国家に追いつき追い越せとばかりに、「坂の上の雲」を目指して行った「明治近代国家の草創期」ということができます。この時期に制定された法律としては、例えば(旧)商法、(旧旧)刑事訴訟法、行政裁判法、訴願法、府県制、銀行条例といったものがあります。

9〜10頁

 明治維新以降、公文式の制定前でも多くの法令が制定されており、また、公文式制定後も明治40年の刑法や公式令の制定までは基本的な法制の整備がなされていたわけですから、それらの全体を指して明治期の法制改革ということになるのではないかと思います。グラフから読み取れるということではないのですが、我が国の法制度の歴史としては、このように考えるのではないでしょうか。11頁で言及しています星野先生が指摘する「明治の法典編纂期」というのもそうしたものと考えられるでしょう。より具体的なものでは、青木人志『「大岡裁き」の法意識 西洋法と日本人』(光文社新書、光文社、2005)8頁では、同書刊行時に進行中の司法制度改革に関連して、明治維新以降日本法の歴史に残る大改革が少なくとも2つあったとし、「第一は明治初年から三〇年代にかけての基本法典の整備と法学教育体制の確立、第二は第二次世界大戦後のアメリカ法の影響を受けた新憲法の制定とそれに付随する大規模な法制度改革である。今回の司法制度改革は、それらにつづく第三の改革と位置づけることができる。」としています。したがって、「第一の法制改革期」は、本来明治初年から明治40年くらいにかけてのもので、このグラフの始まりである1886(明治19年)からの約20年は、第一の法制改革期の後半と考えるのではないかと思います。第一の法制改革期が1890(明治23)年前後だけということになると、刑法や民法の制定などの基本的な法制の整備、近代法制の基本的な形式(法令番号、条・項・号の形式、法令用語、公文の方式など)の確立といったことが、第一の法制改革期のものではないということになってしまいます。それに、明治期の法制改革を問題にし、1890(明治23)年前後を話題としているのに、大日本帝国憲法(以下「明治憲法」とします。)の制定・施行に触れないのも疑問がありますし、この時期をとらえて「明治近代国家の草創期」というのはいかにも変です。
 そもそも、グラフを読み取るという意味でも、問題があるように思います。1890(明治23)年と1899(明治32)年とでは同じ件数です。その上で、1890(明治23)年を挟む3年間(1889(明治22)年〜1991(明治24)年)と1899(明治32)年を挟む3年間(1898(明治31)年〜1900(明治33)年)とを比べれば、後者の方が件数が多いということはグラフでも明らかです。そのため、法律の制定件数が上振れしたとして1890(明治23)年前後を法制改革期とする理由は、グラフからは読み取れないように私は思います。このグラフから、どのように1890(明治23)年前後が第一の法制改革期だということになるのか説明していただきたいと思います。
 なお、第一の法制改革の時期を明治初年から明治40年くらいと考えるとすれば、特に問題とすることもないのかもしれませんが、気になったことがありましたので、書いておきます。この時期(1890(明治23)年前後)に制定された法律の例に(旧)商法を挙げていますが、この時期に制定された法律ということであれば、(旧)民法(ボアソナード民法のことです。)や(旧)民事訴訟法にも触れるべきだろうと思います。この(旧)商法は、(旧)民法と(旧)民事訴訟法とともに1890(明治23)年に公布されました。しかし、いわゆる「法典論争」が起こり、(旧)民事訴訟法は1891(明治24)年から施行されましたが、(旧)民法と(旧)商法は施行が延期され、あらためて起草されることとなりました。民法は、第一編第二篇第三編が1896(明治29)年に、第四編第五編が1898(明治31)年に公布され、同年から施行され、その際に(旧)民法は施行されないまま廃止されました。一方、(旧)商法は、施行延期期限の1898(明治31)年までに商法が成立しなかったため、同年7月に施行されましたが、翌1899(明治32年)に商法が成立し、施行されて、その際に廃止されました。このような状況であったので、ここで(旧)商法のみをあげ、法典論争に触れることなく、(旧)民法と(旧)民事訴訟法を挙げないということは、この時期の法律の制定の状況の説明としては不十分なのではないかと思います。

7 皇室典範増補について

なお、我が国でこの増補方式が採用された法令改正が、過去二回だけありました。いずれも旧憲法下の皇室典範の増補改正です(明治四〇年改正と大正七年改正)。旧憲法下の皇室典範は神聖不可侵な天皇家の「家法」(憲法と対等かつ別個の法体系をなすものであり、両者を合わせて「典憲」と称されていました)であり、その条項に手を加える(=傷を付ける)ことが憚られたのでしょうか……。

20頁

 この点については、主要国の憲法改正手続5頁注(20)、6頁注(22)、(23)、(30)、8頁注(38)で述べているところに示唆を受けており、これを参考にしつつ以下述べます。
 ここでは、明治憲法下での皇室典範(本稿では、現行の皇室典範と区別する必要がないので、以下単に「皇室典範」とします。)の改正方式について、増補方式と溶け込み方式とがあり得ることを前提に、増補方式を選択したというように読めますが、そうだとするとそれは適当ではないと思います。
 皇室典範第62条は、「将来此ノ典範ノ条項ヲ改正シ又ハ増補スヘキノ必要アルニ当テハ皇族会議及枢密顧問ニ諮詢シテ之ヲ勅定スヘシ」と定め、条項の改正と増補との2つがあるとしていました。そして、明治40年と大正7年に皇室典範増補が制定されましたが、これらはそれまでの皇室典範にない新たな事項を定めるというものなので、皇室典範増補という方式を採っています。この場合、増補方式にすることが定められていたというべきであり、改め文方式にもできたのに増補方式を選択したということではないと思います。また、引用文中「旧憲法下の皇室典範の増補改正です(明治四〇年改正と大正七年改正)」(太字は引用者)というのは、上記の皇室典範第62条からすると問題があると思います。
 また、皇室典範増補は、皇室典範とは別の法令として制定されているということがあります。このことは、明治40年の皇室典範増補は、第1条から始まり、大正7年の皇室典範増補は1文からなる、つまり1条(1項)だけのもので特に条名がなく、構成がそれぞれ単独の法令の形式となっていること、昭和21年12月27日の皇室典範増補中改正ノ件が皇室典範増補の改正となっていること、及び昭和22年5月1日の皇室典範及皇室典範増補廃止ノ件が「明治二十二年裁定ノ皇室典範並ニ明治四十年及大正七年裁定ノ皇室典範増補ハ昭和二十二年五月二日限リ之ヲ廃止ス」と定めていることからもわかります。
 一方で、先述した昭和21年12月27日の皇室典範増補中改正ノ件では、次のように溶け込み方式による改正をしています。

皇室典範増補中左ノ通改正ス
第一条 内親王王女王ハ勅旨又ハ情願ニ依リ臣籍ニ入ラシムルコトアルヘシ

 これにより、明治40年の皇室典範増補第1条が改正されているということになっています。なお、この皇室典範増補中改正ノ件は、改正により溶け込んでいるということで、先の皇室典範及皇室典範増補廃止ノ件は特にこの改正については触れていません。
 以上のように、皇室典範増補は、事項の追加に限り、しかも元の法令と別の法令となるというもので、一方で溶け込み方式の改正ということもありうることになっています。したがって、これはアメリカの憲法修正の方式とは異なるものであって、本書のように「我が国でこの増補方式が採用された」ということは適当ではないと思います。その上で、アメリカの憲法修正との違いについて説明するべきではないでしょうか。
 そもそも皇室典範増補は、皇室典範を改正しているのかということが疑問であると私は思います。この点については、明治憲法第74条第1項では「皇室典範ノ改正ハ帝国議会ノ議ヲ経ルヲ要セス」と公式令第4条第1項でも「皇室典範ノ改正ハ上諭ヲ附シテ之ヲ公布ス」とのみ規定していて、増補も改正の中に含めていると考えられます。また、他の文献等でもこの皇室典範増補により皇室典範が改正されているとしています。したがって、皇室典範増補が皇室典範を改正するものということで間違いはないと思います。しかし、この場合の皇室典範の改正とは、皇室典範という法典の改正ということのように思うのです。一方で、改正方式が問題となるような個別の法令の改正という点で言えば、皇室典範増補は皇室典範という個別の法令の改正をしていないというように思われます。先述したように、皇室典範増補は、皇室典範とは別の法令とされています。また、皇室典範という法令の改正方式として増補方式をとったというのであるならば、溶け込み方式の改正が別途存在することはないはずです。このようなことから、皇室典範増補の場合は、形式的にも内容的にも個別の法令としての皇室典範本体そのものを変更していないということになるように思います。ただ、この点は、後述する明治前期の増補方式的な改正との関係も含め、さらに検討すべきものと思います。
 さらに、皇室典範は、先の引用にもあるように皇室の家法であることから、明治憲法第74条第1項では「皇室典範ノ改正ハ帝国議会ノ議ヲ経ルヲ要セス」とされ、先の皇室典範第62条においてその手続が定められることになるわけです。したがって、皇室典範そのものも勅定され、その改正ないし増補も、帝国議会は関与せず、勅定されるのであり、また、上で述べたように増補という方式をとったのも皇室典範第62条によったということなので、「旧憲法下の皇室典範は神聖不可侵な天皇家の「家法」〔略〕であり、その条項に手を加える(=傷を付ける)ことが憚られたのでしょうか……。」というのは適当ではないと思います。なお、「憚」という字は、常用漢字ではないので、この種の書籍の場合には、平仮名で表記するほうがいいと思いますが、いかがでしょうか。
 明治前期では、増補方式的なものが採られていたということもあります。岩谷十郎「明治太政官期法令の世界 日本法令索引〔明治前期編〕解説」(国立国会図書館、2007)は「明治前期の我が国では、この後者の「増補方式」的な法運用が為されていたと考えられる。すなわちこの方式では、改正-被改正の別なく、各々の法令の「個体性」が、当該の法令によって構成される規範全体の効力の終焉に至るまで保存されることが特徴である。」(同27頁。注は略しました。)のです。これらがアメリカ憲法での増補方式と同じものかという問題はあります。それでも、皇室典範増補を例にして、「我が国でこの増補方式が採用された法令改正が、過去二回だけありました。」(太字は引用者)と言えるかということには検討が必要ではないかと思います。

8 題名の引用と「及び」「並びに」

 30頁で、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定及び日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定の実施に伴う道路運送法等の特例に関する法律(昭和27年法律第123号)の題名について、次のように問いを出しています。

ちなみに、題名中に「及び」が三つ、「並びに」が一つ出てきますが、それぞれ何と何を結んでいるか、分かるでしょうか(第2部⓲一六六頁の「及び」「並びに」を参照)。

30頁

 このような問いを出すのであれば、法令名の引用の際には、いわば固有名詞として法令名全体で一つの単語と考え、地の文章では法令名の中の「及び」「並びに」とは無関係に考えるということを説明する必要があるのではないでしょうか。単純化した例でいえば、「A及びBに関する法律」と「C及びDに関する法律」の一部を改正する法律の題名は、「A及びBに関する法律及びC及びDに関する法律の一部を改正する法律」となります。具体的には、公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律(平成23年法律第19号)となるわけです。引用する法律の題名中に「及び」があっても、単に二つの題名をつなぐものなので「及び」(太字の「及び」です。)となるのであって、引用されている題名中に「及び」があるからといって、「並びに」となるわけではないということです。昭和27年法律第123号の題名は、①「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」と②「日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定」の2つの条約の題名を引き、この法律の題名の3つ目の「及び」は単に①と②をつなぐ「①及び②の実施に伴う道路運送法等の特例に関する法律」となるということになります。なお、①の条約の題名中にも③「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」という別の条約の題名が引かれているので、③の条約の題名中の「及び」は、①の条約の題名中の「及び」「並びに」の秩序とは別のものとなるという問題もあります。
 このため、「第2部⓲一六六頁の「及び」「並びに」を参照」するだけでこの問いに答えるのは難しいように思います。こうした法令名の扱いについて説明をしないで、先のような問いを出すと、読者は混乱すると思います。

9 法律の略称について

 32頁で、政党助成法第3条第1項で「政党交付金の交付を受ける政党等に対する法人格の付与に関する法律(平成六年法律第百六号。以下「法人格付与法」という。)」としていること(太字の部分は、本書では傍線が引かれていることを示しています。)を例に挙げて、「これは、法律の規定の中で定めている、いわば「正式」な略称ですが、このほか一般的に用いられる略称もあります。」としています。
 しかし、このような略称は法律の規定の中で定めているものとはいえ、長い表現が繰り返し用いられるのを避け、法文を簡潔にするための規定である略称規定を題名について用いたものであって、その略称は、当該法律の中で、上記の例の場合であれば、政党助成法の中でだけ用いられる便宜的なもので、これを「いわば」とされていますがそれでも「正式」な略称というのは疑問です。「正式」な略称というと、通称として用いても問題がないというように受け取られかねませんが、そういうものではないからです。上記の例でも、政党助成法の中だけであれば「法人格付与法」でもよいでしょうが、法人格を付与する法律はほかにもあり、「政党交付金の交付を受ける政党等に対する法人格の付与に関する法律」の「正式」な略称として「法人格付与法」とするのは問題でしょう。例えばe-Gov法令検索の「略称法令名一覧」によれば、「政党交付金の交付を受ける政党等に対する法人格の付与に関する法律」の略称は、「政党法人格付与法」、「政党法人化法」としています。「正式」な略称というのであれば、少なくとも法体系全体の関係でも問題が生じないようなものであるべきだと思いますが、このような略称規定で、そのようなことまで要求する必要はないと思います。
 このほか、特定都市鉄道整備促進特別措置法(昭和61年法律第42号)第2条第2項第1号に「鉄道事業法(昭和六十一年法律第九十二号。以下「法」という。)」という例があります。本書の述べるところを敷衍すれば、鉄道事業法の「いわば「正式」な」略称が「法」ということになりますが、やはり、それは問題だと思います。かといって、略称規定のあり方として、このようにすること自体が問題があるとは言えないと思います。
 一方で、法令の正式な略称を法定するべきだとする議論もあります。佐藤達夫「じゅげむ・じゅげむ―法律の題名について―」『法律のミステーク』55頁以下(学陽書房、1954)所収66〜71頁でも、法律の題名についての略称の公定化の議論について述べていますし、山田晟『立法学序説』(有斐閣、1994)119~122頁での「法令の名称の書き方」の中で「法令名の略語を法定すること」について述べています。上記のようなものを「正式な」略称としてしまうことは、こうした議論を分かりにくくするのでないかという気がします。

10 日本国憲法の改正手続に関する法律の略称について

 なお、「日本国憲法の改正手続に関する法律」の通称(法律上の正式な略称は見当たりません)として「憲法改正手続法」が使われることがあります。確かに、同法の題名を縮めるとそのような略称が考えられそうですが、一般的には「憲法改正国民投票法」とか単に「国民投票法」と呼ばれています。この法律は、元々は、憲法改正手続全般、つまり、①国会における議事手続と、②国民投票の実施手続との両方を整備したものだったのですが、①の部分は国会法の一部改正法として国会法の中に溶け込んでしまっていますので(一三頁の②の「一部改正法と「溶け込み方式」について」参照)、現在、この法律には、国民投票の実施手続に関する②の部分の規定しか残っていません。その規定内容を正確かつ簡潔に表す略称としては、やはり「憲法改正国民投票法」がふさわしいといったところでしょうか。

33〜34頁

 ここで書かれていることからすると、「日本国憲法の改正手続に関する法律」という題名は、少なくとも現在においては、その法律の内容を正確に表していないということになり、そして、そうなった原因は、この法律が国民投票の実施手続を定める新規制定法と国会法の一部改正法とを併せるという構成をとったことにあるということになります。そうだとすると、「日本国憲法の改正手続に関する法律」の題名は、内容に合わせたものに改正するべきであるというお考えであるということなのでしょうか。また、新規制定法と一部改正法を併せて本則に書くという構成はあまり例がないように思いますが、こうした構成はこのような問題を引き起こすという意味で、やはり問題であるということでしょうか。上記のように書くのであれば、これらの点を説明すべきではないかと思います。
 なお、有斐閣の六法のページの収録法令検索では「国民投票法」、「憲法改正手続法」という略称で「日本国憲法の改正手続に関する法律」が検索されますが、「憲法改正国民投票法」では検索されません。有斐閣の略称の付け方には、問題があると執筆者の先生は考えているのでしょうか。e-Gov法令検索では、そもそも「日本国憲法の改正手続に関する法律」の略称はないので、略称ではヒットしません。

11 条文数の少ない法律

 これに対して、条文数の少ない法律(というか条のない法律)は、本則が一項のみからなる法律ということになります。その代表的なものしては、失火責任法(明三二法四〇)、法人役員処罰法(大四法一八)、裁判所職員臨時措置法(昭二六法二九九)などがあります。

55頁

 このように書くと、条のない法律は、当然に「本則が一項のみからなる法律」であるというように思われかねないので、ミスリーディングであり適当ではないと思います。条のない法律でも、元号法(昭和54年法律第43号)のように本則が2項からなる法律、年齢計算ニ関スル法律(明治35年法律第50号)やすき入紙製造取締法(昭和22年法律第149号)のように本則が3項からなる法律もあります。
 また、法律の題名の引用についてですが、「失火責任法」は、e-Gov法令検索ではその略称もあるのでいいのかもしれませんが、それでも有斐閣の六法のページでの法令名検索ではヒットしません。やはり、「失火ノ責任ニ関スル法律」としたほうがよいのではないかと思います。「法人役員処罰法」は、e-Gov法令検索でも有斐閣の六法のページの法令名検索でもヒットしません。やはり「法人ノ役員処罰ニ関スル法律」とすべきではないかと思います。

12 施行期日を置かない法令

したがって、施行期日を置かない法令は前述したように、他の法令の施行期日を定める法令のみ、ということになるのです。

58頁

 私は、施行期日の規定を置かない法令(後述するように「法令」の意味によっては別の問題が生じるのですが、ここでは法律と命令ということにしておきます。)は、ここで「前述した」としている「前記の行政不服審査法附則一条の委任を受けてその施行期日を定める政令」(58頁)のような法律の施行期日を定める政令だけではないかと思っておりました。ここでは、「他の法令の施行期日を定める法令」とあり、法令というと法律、府省令などもあるということになりますが、それにはどういうものがあるのか、例を示していただければと思います。ちなみに、ワークブック288頁では「施行期日に関する定めを置かない唯一の例外は、法律の施行期日を定める政令である。」とあります。
 法令というときに、議院規則を含めないということかもしれませんが、議院規則を含める場合もあります。そうだとすると、議院規則は施行期日の規定を置かないことがあるということをどう考えるかということにもなります。実際、衆議院規則も参議院規則も、制定時は、施行期日の規定を含め、附則自体がありません。もっとも、ここでいう「法令」に含まれていないということだとは思いますし、ワークブックも同様に考えているのでしょう。しかし、ワークブックも、議院規則を法令に含めているところはあり、「一般の利害に関係のないような法令については、必ずしも公布という手続は必要ではない。その通例が、議院規則<問1参照>である」としてます(ワークブック19頁)。しかし、公布されないものであるということと議院規則の立案は対象としていないということからでしょうか、ワークブックは、議院規則が施行期日に関する定めを置かないことがあるということについては書いていません。本書の場合、執筆者の先生は、議院規則についてもご見識のある方なのですから、見解を示していただければと思います。

13 「附則が読めれば一人前」ということについて

 59頁に「コラム⑨附則が読めれば一人前」があり、年金法本体では完成後の制度の姿を示す一方、年金法改正法の附則では改正前の加入期間のある人についての詳細な経過規定を設けていることから、「このような意味では、本則の制度を理解するのはそれほど難しくありませんが、この附則の経過的な制度を理解することは、易しいことではありません。」とした上で、「このような事情があるため、立案実務家の間では、「附則が読めるようになれば、一人前」などと言われたりもするのです。」としています。
 実を言うと、私は、林修三『例解立法技術』(学陽書房、1955)462頁に「この経過措置の書き方は、立法技術上最も難しいものとされており、附則が書ければ一人前の法制局参事官として勤まると俗にいわれているくらいである。」とあるのは承知していましたし、「附則が書ければ一人前の立案担当者」ということは聞いたことがありましたが、「附則が読めれば一人前」と言われているということは、寡聞にして知りませんでした。この点は、不明を恥じざるを得ません。なお、ここでは一人前の何なのかは書かれていません。まさか、衆議院法制局の先生方の間で「附則が読めれば」(附則が書けなくても)「一人前」の立案担当者とされているとは思えないので、ここでは「附則が読めれば、一人前」の読み手ということだろうと思います。以下では、その前提で述べることにします。
 とはいえ、「立案実務家の間では、「附則が読めるようになれば、一人前」などと言われたりもするのです。」ということには、疑問があります。附則が、その性質上、難しくなるところがあるのはお書きになっているとおりです。しかし、それはそうした難しいことを規定する場合の問題で、本則か附則かということで違うものとは言いにくいのではないでしょうか。この場合、年金法の場合に、その改正法の経過的な制度は理解するのが難しいということは言えるのかもしれません。しかし、それはその仕組みが複雑だからで、附則に特有の難しさということではないように思います。少なくとも、法令の本則は常に理解が容易で、附則には理解することが難しい条文があるということではないように思います。ここで特に附則を読むことを取り上げることになるのかがよくわかりません。附則に特有の難しさがあるということなのかもしれませんが、そうだとすると、本書のあり方として、附則の条文についての特有の難しさを示して、そうした附則の条文を分かりやすいものとする解説があるべきではないでしょうか。
 また、難しい事柄であっても、できる限り分かりやすく書くということが「立案実務家」の責務であり、附則に限らず、条文を書くことの難しさのひとつの側面であると思います。それでも、国民が苦労せず読めるようにするのが理想であり、それに向けて「立案実務家」は努力するべきです。実際には、附則だけではなく、条文が難しくなってしまっているところがあるのはそのとおりですが、だからといって、「附則が読めるようになれば、一人前」と法令を読む人に対して「立案実務家」が言うということは、開き直っているようで、やはり適切ではないと私は思います。
 いずれにしても、「附則が読めれば一人前」ということについて、もう少し詳細に説明してほしいと思います。

14 一番古い法律、最古の法令

 65頁では、「現在効力を有する法律として最も古いのは、「決闘罪に関する件」(明二二法三四)とされています。」とありますが、これはミスリーディングであると思います。太政官布告の形式で制定されたものであっても、法律として現在効力を有するもの(例えば絞罪器械図式(明治6年太政官布告第65号)、爆発物取締罰則(明治17年太政官布告第32号)など)を挙げないのは不正確な説明ということになると思います。「現在効力を有する法律として最も古いのは、「決闘罪に関する件」(明二二法三四)」なのだとすると、爆発物取締罰則は、法律ではないということになってしまいますが、それでいいのでしょうか。
 また、確かに公文式により法律という法形式が定まり、その法律という法形式とされたもので現在効力を有する最古のものは、「「決闘罪に関する件」(明二二法三四)」です。しかし、ここでの「法律」という法形式の名称がついているものと公文式以前の太政官布告などとで、その違いを強調することは適当ではないと考えます。「「決闘罪に関する件」(明二二法三四)」は、明治憲法の制定前の法令であって、明治憲法第76条第1項により、明治憲法下での法律の効力を与えられ、その上で、現行憲法第98条により現行憲法での法律の効力を与えられたというものであって、このことは絞罪器械図式や爆発物取締罰則でも同じなのです。
 また、公文式制定前であっても、公文式に先立つ明治14年12月3日太政官逹第101号は「法律規則ハ布告ヲ以テ発行」することを定め、法律が太政官布告として制定されることとしているのであって、そのことをどう考えるかについても、ご見解を示していただきたいと思います。
 伊藤博文(宮沢俊義校注)『憲法義解』(岩波文庫、岩波書店、2019。以下「義解」とします。)で、明治憲法第76条第1項の解説の中で明治憲法制定前の法令について論じていますが、いくつか抜粋してみます。

以上これをぶるに、維新以来の官令に御沙汰書と曰ひ、布告と曰ひ、布達と曰へるは、その文式に依て称呼しょうこしたるなり。その法と曰ひ(戸籍法の類)、律と曰ひ(新律綱領の類)、令と曰ひ(徴兵令・戒厳令の類)、条例と曰ひ(新聞条例の類)、律例と曰ひ(改定律例の類)、規則と曰ふ(府県会規則の類)はすべて皆人民に公布し、遵由じゅんゆうの効力を有せしむるの条則をふの義にして、その間に軽重する所あるにあらざるなり。しこうして十九年二月二十六日の勅令にいたりて始めて法律勅令の名称を正したりしも、何をか法律として何をか勅令とするに至ては、また未だ一定の限界あるにあらざるなり。

義解150頁

 公文式での法律と勅令の関係についても次のように述べます。

要するに、憲法発布の前にあたりては、法律と勅令とはその名称をことにしてその事実を同じくするものたるに過ぎず。しこうしてその名称に依て以て効力の軽重を区別すべからざるは、十九年以前布告と布達と時ありて区別あり時ありて区別なきに異なることなきなり。
 故に憲法の指定する所に従ひ、法律と命令の区別をあきらかにせむとするは、必ず立法議会開設の時期に於てその始をむことを得べく、しこうして立法議会開設の前に当ては、法律・規則・命令その他なんの名称を用ゐ、何らの文式を用ゐたるも、これを以てその効力の軽重を判断するの縄尺じょうしゃくとすることを得ず。

義解151頁

 さらに、明治憲法施行前の法令で明治憲法により法律によるべきこととされた事項について定めるものについても次のように述べています。

 前日の公令今日に現行して将来に遵由の力ある者の中について、現に憲法の定むる所に依るときは、必ずその法律たることを望む者あり(第二十条兵役・第二十一条租税の類)。今過去にさかのぼりりて一々これに法律の公式をあたへ、以て憲法の文義にはしめむとするは、形式にかかわいたずらに多事を為すに過ぎず。故に本条は現行の法令条規をしてすべて皆遵由の力あらしむるのみならず、その中憲法に於て法律を以てこれを望む者は即ち法律として遵由の力あらしむることを示す者なり。しこうして法律として遵由の力あらしむる者にしてもし将来に於て改正を要するときは、その前日に勅令布達を以て公布したるにかかはらず、すべて皆法律を以て挙行するを要すること知るべきなり。

義解152頁

 以上みてきたように、義解では、太政官布告とされたか公文式以後に法律とされたかでその違いを強調するべきではないとしていると考えられます。
 また、このことは、66頁で、法律以外の法形式を含めて、現在効力を有する最古の法令は何かを論じて、次のようにしていることとの関係でも問題があるように思います。

実は、これについては、長らく、明治五年の「改暦ノ布告」(明五太政官布告三三七=太陰暦から太陽暦へと転換した布告)とする説と「商船規則」(明三太政官布告五七=日本の商船に掲揚すべき国旗の制式〔国旗の縦横の比率や日章の大きさ等〕を定めたもの)とする説がありました。しかし、「国旗及び国歌に関する法律」(平一一法一二七)によって、商船規則が正式に廃止された(ということは、それまではこれが「最古の法令」だったことが認められた!)ため、現在では、間違いなく「改暦ノ布告」が最古の法令ということになるようです。

66頁

 というのも、ここで商船規則が国旗及び国歌に関する法律により廃止されたということは、商船規則が法律の効力を有していたということを示していますが、一方で商船規則は「法律以外の法形式」であるとして論じているようにみえることとの関係をどう説明するのかという問題があるからです。そもそも商船規則は、制定当時から「日本の商船に掲揚すべき国旗の制式〔国旗の縦横の比率や日章の大きさ等〕を定めたもの」であったのではなく、「船舶法(明治三二年法律第四六号)附則第三六条の規定により、商船規則の規定のうち、船舶法の規定に抵触するものは、同法施行の日(明治三二年六月一六日)に廃止されたが、船舶法に抵触しないものは、廃止されていない。」(「片仮名法律 重要法令関係慣用語の解説63」判例時報1389号31頁以下(1991)33〜34頁)ものだったのです。この「日本の商船に掲揚すべき国旗の制式〔国旗の縦横の比率や日章の大きさ等〕を定めたもの」が廃止されなかった部分ということです。このことは、明治憲法下でも商船規則は法律と考えられており、その上で、現行憲法下でも法律と考えられていたものであるということを示しています。こうした点について、説明しないと、分かりにくいと思うのですが、そのためにも、太政官布告として制定されたが現行憲法下で法律として効力を有するとされているものについて説明があるべきかと思います。
 また、改暦ノ布告についても、現行法令として効力を有するとすれば、これは法律と考えるべきではないかという問題もあります。確かに、前記「片仮名法律」でも、改暦ノ布告は、法律として掲げられていません。しかし、そう考えると、問題が生じます。この点については、SOZ「こよみと法律ー世界暦の問題に関連して」時の法令163号14頁以下(1955)が論じています。仮に改暦ノ布告が法律ではないとすると、日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律(昭和22年法律第72号)により、法律で定めるべき事項を定める命令であるとして、昭和22年12月31日限りで効力を失うことにならないかという問題があります。前記SOZ論文でも示唆されていたように、私は、改暦ノ布告については、暦を定めるのが明治憲法下でも法律と考えられていたと考え、現在、法令として効力を有するとする以上、法律として効力を有していると考えるべきではないかと思います。なお、この問題に関連して、閏年ニ関スル件(明治31年勅令第90号)の効力をどう考えるかも問題となります。前記SOZ論文では、改暦の布告を法律と考える場合に、その施行令と考えれば、現在は政令の扱いということになりうるとしていますが、私もそのように考えることになるのではないかと思います。なお、この改暦ノ布告は、日本法令索引では、件名が「改暦ノ詔書並太陽暦頒布」となっています。どうして、このように違うのかはよくわかりませんし、この記事と関係するものではありませんが、念のため注記しておきます。

15 片仮名文語体の法令の件名の引用

 片仮名文語体の法令の件名の引用についてですが、65頁では「決闘罪に関する件」と平仮名での引用をしていますが、66頁では「改暦ノ布告」、77頁では「年齢計算ニ関スル法律」と片仮名での引用になっています。件名の引用の仕方について、ワークブック160頁は、「件名を引用する場合には、題名を引用する場合と異なり、いわゆる地の文章に従って、片仮名書き・文語体の法令に引用するときは片仮名書き・文語体で、また平仮名書き・口語体の法令に引用するときは当該件名が片仮名書き・文語体であっても平仮名書き・口語体で引用してもよいこととされ、更に、件名に常用漢字でない漢字が用いられているときは、その字を平仮名書きにすることも許される。」としています。したがって、上記のような引用の仕方が必ずしも間違っているというわけではないのですが、それでも「決闘罪に関する件」については「決闘罪ニ関スル件」と片仮名にして統一したほうがよかったと思います。表記を統一するということだけでなく、実際上の問題として、有斐閣の六法などの法令集やe-Gov法令検索では、片仮名文語体の法律の件名は片仮名文語体で表記していて、「決闘罪ニ関スル件」としているということがあります。それに合わせるべきではないかと思います。このことは、紙の書籍で読むという点ではあまり問題にならないかもしれませんが、電子媒体の場合の法令名での検索で問題が生じるということもあります。e-Gov法令検索や有斐閣の六法のページの収録法令検索で、「決闘罪に関する件」で法令名検索をしても、ヒットしないのです。その意味でも、片仮名での引用をするべきであると思います。
 さらに、件名の説明の箇所(31頁)で、こうした片仮名文語体の件名の引用の仕方についての説明があったほうがよかったのではないかと思います。

16 現行法の調べ方・制定法律の調べ方について

 86頁で、現行法の調べ方に関して、「日本法令索引」を紹介していますが、この「日本法令索引」では、法令の本文情報がある場合には本文情報へのリンクがされていることもあわせて紹介したほうがいいと思います。
 また、この「日本法令索引」と公文式制定前の法令についての「日本法令索引(明治前期編)」は、87頁以下の制定法律や国会提出法律案を調べる際も有用です。「日本法令索引」「日本法令索引(明治前期編)」は、現行法のみならず、制定された法令そのものや法律案についても索引を作っており、そこから、本文情報があれば本文情報へのリンクもされていますので、法律レベルであれば、現行憲法制定以前のものを含め、ほとんどのものを調べることができます。ただし、「日本法令索引」は、本文情報としては、87頁で紹介している「インターネット版官報」にはリンクをしていないことには注意が必要です。

17 廃止された法令の題名の引用について

 165頁で「第三に、廃止前あるいは改正前の法令の規定の改正ができるかどうかという違いがあります。「なおその効力を有する」という場合には、特定の事項についてとはいえ、依然として廃止又は改正前の規定が生きていますから、次の例のように、必要があれば、後で改正することも可能です。」として、中央省庁等改革関係法施行法第970条での「旧産業構造転換円滑化臨時措置法」の改正を例としてあげています。しかし、廃止された法令を引用する場合には題名に「旧」の字を冠するということを説明していないので、分かりにくいものになっていると思います。執筆者の先生方には自明のことかもしれませんが、本書の読者のためにはこの点の説明があるべきかとも思います。また、上記の引用文との関係では、改正前の法令の題名を引用する場合にも当然に「旧」の字を冠すると思われても困るということもあります。

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