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立法学入門コラム 「虎に翼」と穂積重遠博士

 「朝ドラと法制局」のコラムで、朝ドラ「虎に翼」への期待を書きましたが、実際に期待以上のものとなっています。毎日、楽しく観ています。

 さらにいうと、「虎に翼」のタイトルバックにダンスが出てくるので、2020年のエイプリル・フール・ニュースでダンスを出したのもうまくいったなと自画自賛しているところです。
 ところで、「虎に翼」で、小林薫さん演じる穂高重親教授は、穂積重遠博士がモデルです。この点については、穂積博士のお孫さんである岩佐光さんご夫妻がnote上でこの「虎に翼」について毎回フォローしている中で、第二話のところで紹介されているほか、いくつか触れているところがあります。
 穂積博士は、我が国の立法学においても、重要な方です。特に戦前から法文を平仮名・口語体にし、その平易化を図ることを主張し、それは戦後の日本国憲法により、平仮名・口語文が採用され、その後の法令が平仮名・口語文となったことにも影響を与えていることは特筆すべきです。
 ところで、ドラマでは、第5週でヒロインの猪爪寅子を含む3人の女性が司法科試験に合格したことが描かれました。この点に関連して、穂積博士は、この猪爪寅子のモデルである三淵嘉子さんたちの司法科試験合格に際して、「女流法律家」という文章を書いています(穂積重遠『續有閑法學』(日本評論社、1940)276〜278頁。なお、同書は、国立国会図書館のデジタルコレクションで読むことができます。ただ、そこでは、題名が『有閑法學 續』となっています。「穂積重遠 有閑法学」で検索すると、出てきます。「女流法律家」は、153コマ〜154コマにあります。)。

 昭和十三年の司法科試驗に久米愛子夫人・田中正子嬢・武藤嘉子嬢の三婦人が合格したことは、ともかくも我國女性史に特筆すべき出來事であつて、舊法の「タル男子」を削つた昭和八年の辯護士法改正が、新法實施後早くも二年半にして物を言つた次第である。辯護士法改正委員會の一員たりし僕として、又三女流辯護士の出身校たる明治大學女子部で婦人に法律學の手ほどきをして居る僕として、近來の快事たるを失はぬと同時に、此吉報を耳にされたかされぬかで惜しくも薨去された明大女子部の創立者横田秀雄先生を憶ふや切である。

『續有閑法學』276〜277頁

 この「武藤嘉子嬢」が三淵嘉子さんのことで、武藤姓は結婚前のものです。そして、穂積博士は、これに続けて、次のように書いています。

 しかしながら、僕が明大女子部のお手傳をして居るのは、必しも婦人辯護士の養成を主目的とせぬ。僕の夢みる所は女流法律學者の出現である。婦人の眼で法律を觀て貰ひたい。婦人の心で法律を考へて貰ひたい。婦人の手で法律を書いて貰ひたい。これが僕の宿願である。

『續有閑法學』277頁

 ここで、穂積博士は、女性が裁判官や検察官になることに触れていないのですが、武藤(三淵)嘉子さんは、裁判官になる前に、これらの「宿願」を果たしたとも言えます。まず、武藤(三淵)さんは、戦前から明大女子部で後進の指導に当たっていたので、その意味で法律学者にもなっています。また、武藤(三淵)さんは、戦後、司法省民事局に入り、民法の親族法・相続法の改正や家事審判法の立法に関与することになります。「婦人の手で法律を書いて貰ひたい」ということについても、実現したといえるでしょう。
 立法学という点でも、女性が立法に関与することになっていくということが注目されます。そして、ドラマの方でも、来週(6月3日〜7日)は、いよいよ、この民法改正の話になるようで、楽しみです。

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