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会いたいときに会えない、という話。

かつて、月に一度しか会えない人とお付き合いしていた時期があった。

まだ付き合い始めの頃、夜彼の家の近くまで会いに行こうとしたら断られたり、飲んだ帰りに家に行くことを嫌がられたりが続いた。
なんとなく違和感を感じて問いただしてみたら、案の定、彼には同棲している彼女がいた。
終電間際のホームでその話を聞いたとき、「もう終わりだな」と思って電車に乗り込んだ。

でも、実際は諦めきれずにそのままずるずると関係が続いた。

彼は毎日マメに連絡をくれたし、愛情表現もしっかり言葉にしてくれた。
私の男友達の話にヤキモチを焼いたりもした。
会えばとても優しいし、体の相性もバッチリだった。
どこをとっても、本当に大好きな人だった。

同棲している彼女がいて、月に一度しか会えない以外は。

すごく好きだった分、彼と付き合っている間ずっと苦しかったし、寂しかった。
幸せだと思えるのは月に一度の数時間。
そして、その数時間が終わると、彼は彼女が待つ家に帰っていく。

幸せの絶頂からいっきに落とされる瞬間。

相手が結婚こそしていないものの、どこからどう見ても不倫のような関係だった。
大好きなのに、会いたいときに会えない人。
彼の前で泣いたことも、寂しい夜に一人で泣くこともあった。
寂しくてやりきれなくて、当て付けのように浮気をしたこともあった。

それでも「いつか、彼は私を選んでくれるのではないか」そんな思いが私を支えていた。

そして、二人で朝まで過ごす日や、諦めていた二人での旅行も実現した。
誕生日には指輪を買ってもらう約束もしていた。

淡い期待も虚しく、月に一度しか会えない関係のまま、自分の中で「区切り」だと思っていた付き合いはじめてから一年が経過した。

一年の中で、私が彼と一緒に過ごせた時間はあまりに少なかった。
そして、このままダラダラと会い続けても、二人の関係が今以上に進展していく気も全くしなかった。
会ってみたいと思っていた彼の弟も、彼の地元の男友達たちにも結局一度も会うことはなかった。
私はどう考えても彼の一番ではなく、太陽ではなくて月のような影的なポジションだった。

そう思ってから、私は毎日頻繁にとっていた彼との連絡を意識的に減らしていった。

彼もなにかを察したのだろうか。
一ヶ月も経たないうちに、彼との連絡はあっけなく途絶えた。
付き合って一年と一ヶ月。
私はたくさんの我慢と、月一回彼と会える日を心待ちにする生活を卒業した。

彼にはもう少し追いかけて、引き留めてほしかった気もするし、こんな風にあっさりとした自然消滅が相応しい関係だったのかもしれないとも思う。

彼は本当に私のことを好きだったのだろうか。
私は少しでも、もう一人の彼女に勝てた瞬間はあったのだろうか。
彼の本心を聞いてみたかった気もするし、知らない方が幸せなような気もする。

月に一度しか会えなかった人。

彼とまた、いつかどこかですれ違うことがあったとしたら、そのときの私は彼が嫉妬するくらいの幸せそうな笑顔で笑っていたいと思う。

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