現代遊戯王における汎用カードの考察

環境の変化

シンクロ召喚もなかった時代の遊戯王では、1ターンで並べられるモンスターは良くて2体程度で、高いレベルのモンスターが1-2ターンで出てくることはほとんどありませんでした。そのため、相手の手札事故がどれだけ深刻だったとしても、8000LPを削り切るのに3-4ターンはかかるようなゲームバランスだったと思います。

しかし、遊戯王OCGが始まってから20年以上経った今(執筆時点で2023年4月)ではインフレが加速し、環境が大きく変わってしまいました。展開の初動札を引きさえすれば、連鎖的にサーチや特殊召喚が発生し、1ターンで相手の行動を封殺する盤面ができてしまいます。その初動札についても、40枚デッキのうち9枚が1枚初動(1枚で展開できるカード)というような高い安定性を持つデッキもそこそこあり、だいたい7割以上の確率で望み通りの制圧盤面が完成します。

平たく言うと、先攻1ターン目で大体勝負が決まります

このことから、相手に先攻を取られた場合の対抗手段を持つことが、勝率を高める上で非常に重要になってきます。

ほとんどのデッキで採用される汎用カード

相手に先攻を取られた場合の対抗手段として広く使われているのが、相手ターン中でも手札から打てる妨害カード、いわゆる「手札誘発」と呼ばれるカード群です。
もし後攻になった場合でも、手札誘発カードさえ手札にあれば、要所で打つことによって相手の展開を止めることができます。つまり、後攻でも勝ち目が出てくるということです。

数ある手札誘発のうちほとんどのデッキで採用されているカードが、"増殖するG"と"灰流うらら"です。


増殖するG

先攻展開を防ぐカードとして環境に一番大きな影響を与えているカードが"増殖するG"です。増殖するGを発動したターン、相手が特殊召喚をするたびにカードを1枚ドローするという強すぎる効果を持つため、打たれた方は展開を止めざるを得なくなります。
ちなみに、展開が少なめな"相剣"というデッキですら、最低限の初動展開で特殊召喚を5回行うため、そのまま展開してしまうと相手に5枚ドローされてしまい、ほぼ負けが確定します。デュエリストが先攻を取った時に、いかに相手に打たれたくないカードなのかが分かるでしょう。

灰流うらら

デッキからのサーチや特殊召喚、墓地肥やしなどを防ぐカードです。現代の遊戯王においてサーチを使わないデッキはないため、手札で腐ることがありません。さらに、相手の"増殖するG"も無効にできることもあるため、灰流うららを差し置いて採用する手札誘発は存在しないと言っても過言ではありません。


上記の2枚に対抗できる手札誘発ではないカードが"墓穴の指名者"と"抹殺の指名者"です。


墓穴の指名者

相手の墓地のモンスターカードを除外しつつ、次のターンまで同名カードの効果を無効にします。墓地が第2の手札と言われる遊戯王で相手の墓地のモンスターカードを妨害できる汎用性を持つ他、相手の"増殖するG"を無効にできる数少ないカードです。

抹殺の指名者

自分のデッキからカードを1枚除外し、除外した同名のカードの効果を1ターン無効にする効果を持ちます。ほぼ採用必須の"増殖するG"、"灰流うらら"、"墓穴の指名者"を無効にできるため、特に自分の先攻で相手の妨害を防ぐ目的で使われます。


相手の妨害札としてこれ以上ない"増殖するG"3枚と、"増殖するG"に対抗できる"灰流うらら"3枚、"墓穴の指名者"2枚、"抹殺の指名者"1枚。これらの合計9枚は、余程の理由がない限りほぼ全てのデッキで採用されます。
※墓穴の指名者は準制限カード、抹殺の指名者は制限カードのため、3枚採用できません。

デッキスロットに余裕がある場合は、"無限泡影"や"幽鬼うさぎ"などの手札誘発をさらに積んだり、相手の手札誘発に対するカウンターになる"三戦の才"、強力な除去で後手の捲りができる"ハーピィの羽根帚"、"ライトニング・ストーム"、"サンダーボルト"、"拮抗勝負"、相手の場のモンスターの効果を全て無効にできる"冥王結界波"などが採用されます。

余談) デッキ枚数と手札誘発枚数について

汎用カードの中で特に条件なく増殖するGを無効にできるカードは、灰流うららと墓穴の指名者、抹殺の指名者くらいしかありません。これらをデッキにフル投入しても最大6枚です。仮に40枚デッキだとすると、先攻1ターン目に1枚以上、上記のカードが手札に来る確率は約58%です。

遊戯王のデッキの勝率は一概に語れるものではありませんが、少なくともこの58%という確率を極力下げないことは、勝率を高めるために必要な要素の1つです。そういう理由もあってか、最近の環境に多くいるデッキのほとんどが40枚デッキです。

さらに言うと、手札誘発を山程(10枚以上)積んでも40枚に収まるような、メインギミックがコンパクトに収まるデッキが環境トップを占める傾向にあります。これは、後攻でも安定して相手を妨害できるために、後攻でも負けにくくなることが理由でしょう。

現代遊戯王における手札誘発とは、これほどまでにデッキの勝敗を分けるものとなっているのです。

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