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ドラゴンシェフで作った「新たな食の可能性を感じさせるハンバーグ弁当」の話

急遽、決まったという「敗者復活戦」の一報が入ったのは、出張中だった。

締め切りは一週間。

テーマ:新たな食の可能性を感じさせるハンバーグデリバリーを作れ
評価のポイント:独創性のあるハンバーグをメインにしたデリバリーになっているか?
【注意点】
今回はデリバリーなので、最長で2時間以上経過してから、デリバリーされる可能性があり、その点も考慮してレシピを作ってください。

まず言っておきたい。

2時間以上放置されて、それでもなお「美味しいデリバリーを作れ!」とは、もはや料理というより商品開発に近いと思う。

つまり、僕の得意分野だということ。w

まず、「ハンバーグのデリバリー」と一口に行ってもさまざまなパターンがある、ハンバーグ単品なのか?弁当なのか?麺類もあり得るし、、、etc

作るデリバリーを選ぶ必要がある。
僕の場合は、無意識的に「弁当」を選んでいた。

では、「弁当」とはなんなのか?

【弁当】
外出先で食事するため、器物に入れて持ち歩く食品。
また、その器物。「―箱」「腰―」「―を使う(=食べる)」。
転じて、外出先でとる簡単な食事。

5世紀ごろからある概念らしく、当初は兵食のことを指していたようだが、時を重ねるに連れて弁当の形は変わっていく。

江戸の頃、つまり太平の世になってから、行楽や旅行の際の携帯食として発展していった。兵食の必要は無くなったが、その利便性を進化させていったわけだ。

そして、現代に近づくに連れ、利便性はそのままに(もしくは犠牲にしてでも)美味しさを追求した弁当が登場するようになったように感じる。

今回の課題に沿うハンバーグは、決して上記のように豪華さや美味しさを追求したものではないように思えた。

なぜなら、デリバリーまで最長で2時間かかるから!

このハードルをいかにクリエイティブで超えていくかが、僕の勝負のポイントだ。

冷めてしまえば、ほとんどの肉料理は料理は美味しくなくなる。
ハンバーグも例外ではない。
(完璧な火入れのローストビーフなどは例外だが。)

では、どうするのか。
答えは単純で、冷めても美味しいレシピを構築すればいい。

そして、もう一つのハードルが「飽き」だ。

ハンバーグ弁当って、途中で飽きる。少なくとも僕は飽きる。

弁当の真骨頂は「口中調味」にあると思うんだ。
色々なおかずや箸休めを、口の中でモグモグ混ぜ合わせて、新しい味や食味が見つかるのが楽しくて、美味しい。ついつい箸が進んで、気がついたら食べ終わっている。そんなお弁当が理想だ。

丼やパスタなんて、単調すぎてナンセンス。

「お弁当」いう日本の文化まで楽しめるデリバリーを目指したい。

冷めても美味しい、そして、口中調味を楽しめることもできるお弁当のレシピを構築したい。

料理名は「冷めたらおいしいハンバーグ弁当」

ハンバーグは、ふっくら系と肉肉しい系があるが、僕はその中間あたりを目指す。どちらかと言えば、肉肉しいハンバーグは好きだ。

であれば、ハンバーグに必要だと思われている玉ねぎは、不要だ。

肉本来の旨みをボカす原因になるし、食物繊維が加わるため肉汁の逃げ場が増えてしまい、加熱時に離水が進んで、パサつく原因になる。

そこで、整形と火入れの工夫特殊な食材を使うことで、弁当に特化したさめても美味しい、いや、冷めたら美味しいハンバーグを作ろうと思う。

端的に説明するなら、ポイントは2つ

①整形は「立方体状」
②火入れは、立方体のそれぞれの面へ3次元的に行う。

そして、特殊な食材「メチルセルロース」の持つ「熱ゲル化」と「熱可逆性ゲル」の性質を利用して、冷めても美味しいハンバーグを作ろうと思う。


【材料】
<フォンドボーのメチルセルロース溶液>

メチルセルロース 4g
熱っしたフォンドボー 50ml  程度
バター 30g
氷を入れたフォンドボー 120ml程度
昆布 1枚 

<ハンバーグ>

合い挽き肉 600g
卵 2個
パン粉 大さじ6
ナツメグ 適量
塩 3.5g
メチルセルロース溶液 50g程度
米油 適量
ゆずorかぼすの皮 適量

<照り焼き風ペリグーソース>

まいたけ 1本
椎茸 4枚
生姜汁 小さじ1
料理酒(蔵の素) 大さじ3
醤油(白たまり) 大さじ3
みりん 大さじ3
油 適量
片栗粉 適量

<中華風ナスのソース>

ナス 4本
甜麺醤 大さじ3
豆板醤 大さじ1
豆豉 12粒程度
中華スープペースト 3g
紹興酒 少々

ピーマン緑(みじん切り) 1/2個
ピーマン赤(みじん切り) 1/2個

<イタリア風チェリーソース>

アメリカンチェリー 12粒程度
ドライトマト 5粒程度
オリーブオイル 大さじ2
赤ワイン 適量
フォンドボー 適量
黒オリーブ
緑オリーブ
ツルリンコ 少量

<べシャメル風カブのソース>
カブ 6個
バター 40g
小麦粉 40g
塩 少々

<玉ねぎ混ぜご飯>

ソテードオニオン 50g
バター 少量
ご飯 3合
フライドオニオン 適量
パセリ 適量

【作り方】

<冷めたら美味しいハンバーグ>
1. フォンドボーに昆布を加えて熱する。沸騰する前に取り出し、バターを溶かす。

2. メチルセルロースを熱水分散方を用いて、フォンドボーのメチルセルロース溶液を作る。
①の鍋にメチルセルロース(3g)加えて攪拌する。
ダマがなくなり白く濁った状態を確認して(分散)、氷を加えたフォンドボーを加え急冷しながらさらに混ぜる。出来上がりの目安量180cc。

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3. 卵と1メチルセルロース溶液を50gを合わせてよく混ぜ、ひき肉、ナツメグ、塩と一緒にして、20回程度軽くまぜる。馴染ませる程度に止めて、決して捏ねない。

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4. 両手に米油を馴染ませ、肉だねを立方体状に成形し、油をひかずに超弱火(IH5.5程度)で焼く。この時に同時に表面をバーナーで炙り肉汁を止める。※肉汁が出てくる穴を全部塞ぐイメージ。

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5. 6面を満遍なく焼く。1面1分程度を2回転程度させる。
筋繊維が2次元的(縦横のどちらか)に走っている塊肉とは違い、ハンバーグは筋繊維が絡み合っているため、3次元的に火入れを行う必要がある。肉汁は熱源に対して直角、かつ筋繊維に沿ってしか滞留しない。そのため、複雑に絡み合う筋繊維をもつハンバーグは、多方向から火を入れなければ、肉汁が逃げてしまう。

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この理論でいくと、低温調理も一つの方法論としてあるが、時間が足りないことと、今回は繋ぎをほとんど入れないレシピなのでむずかしいと判断。

6. 表面が色づいてきたら上から油を足し、少量の油をたし、焼き色を鈍足化させる。

7. 焼き上げて、バットにアルミホイルをくしゃくしゃにして広げ、焼いていた面を上にして並べておく。
(設置面を少なくして、熱交換を少しでも抑えて、熱の分散を抑えるため)

<照り焼き風ペリグーソース>
1. 舞茸は乱切りに、椎茸はみじん切りにする

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2. 油をひいて熱した鍋で炒めて、調味する。
片栗粉で粘度調整する。

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<中華風ナス炒め>
1. ナスは縦半分に切って、隠し包丁を入れて、半月切りにする。

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2. 多めの油をひいて、茄子を炒める。油が全体に回ったら、火を弱め豆板醤を入れて、香りを引き出す。ここに他の調味料を入れて、全体に絡めるように炒める。

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3. 紹興酒で香りつけて、完成。
盛り付け時に、みじん切りの赤、緑のピーマンを散らす。

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<イタリア風チェリーソース>
1. アメリカンチェリーを半分に切って、ピンセットで種を取り出す。

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2. 冷たいフライパンに①とオリーブオイルを入れて、中火にかける。赤い色素が出てきたら、チェリーは一旦取り出し、ドライトマトと赤ワインを同じフライパンに加えて煮詰める。

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3. 乳化したのを確認して、チェリーを戻して、ひと煮立ちさせる。

4. オリーブの実は、盛りつけた後に飾る。

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<カブソース>
1. カブは皮を剥いて、6等分にくし切りにしてラップで包んで、600wで3分レンジアップし、ハンドブレンダーでペーストにしておく。

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2. バターを鍋に溶かし、小麦を振り入れて炒める。

3. 小麦粉が全体に分散して、細かい泡がふつふつしてきたら、❶を加えてとろみがつくまで加熱する。

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<混ぜ込みご飯>
1. ソテーオニオンに、フライパンで焼き色をつける。

2. ご飯にバターを混ぜ込んでから、炒めたソテーオニオンを加えて、ざっくり混ぜる。

3. フライドオニオンとパセリは盛り付けてから飾る。

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<盛り付け>
盛り付け方は、写真参照。

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<コミュニケーションツール>
お弁当を一人歩きさせてはいけない。と、僕は思う。
何に拘っていて、どう食べて欲しいのか、味わうべきポイントはどこなのか?それらを示す説明書を作成して同梱させることにしよう。
(*下記参照)

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対面で説明できるお店とは違うシチュエーションなわけで、器に盛り付けて給仕できるわけではないのだから、当たり前にコミュニケーションツールはセットしておくべきだろう。

最低でも、ここまでやる。
これが、食のクリエイティブディレクターである僕の仕事だ。

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上の写真は、審査用に早起きして作ったお弁当。


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