西遊記どの訳が好きか―空三で読み解こう③
さあ、今回もはりきっていきましょう。
この試みは、三蔵一行の旅をさまざまな訳ver.で味わいながら悟空×三蔵、すなわち空三関係の進展を見守っていくことです。
前回、三蔵を旅の仲間と認めて守ってきた孫悟空でしたが、三蔵の勘違いのせいで破門をされてしまいました。三蔵の前を去ってから、誰もいない大海を見ながらとめどなく涙を流す悟空の描写は、何度読んでも切なくて胸がぎゅんとしめつけられます。
さてさて、この破門から帰ってきた悟空は、ちょっとまた様子が変わっているというか、一旦離れてやっぱり三蔵の存在が自分にとってかけがえのないものと自覚したためでしょうか。だんだんと心の距離も近付いていく様子が可愛いので、今回も一緒に楽しんでいきましょう。
奥さん!今回はエモいシーンが目白押しだよ!
今回も前回同様、メインはこの三冊です。
①岩波文庫版 中野美代子訳「西遊記」
4巻(1986年)
②平凡社版 太田辰夫・鳥居久靖訳
「西遊記上」 (1972年)
③福音館文庫版 君島久子訳
「西遊記中」(2004年)
(①は明の時代の本「世徳堂本西遊記」、
「李卓悟先生批評西遊記」の完訳本、
②は明の時代の本をダイジェストにした
清の時代の本「西遊真詮」の完訳本、
③は一部のエピソードが未収録の部分訳本です。)
宝象国 黄袍怪のエピソード
悟空が破門から戻ってくるまで
悟空が花果山に帰ってしまってから、三蔵は黄袍怪という妖怪に呪いをかけられて虎の姿にされてしまいます。八戒、悟浄、玉竜はそれぞれ奮闘しますが、黄袍怪は強くて倒すことができません。
玉竜の勧めで八戒が花果山に赴き、悟空に戻ってきてくれと頼むシーンです。
まずは①
「あの師匠は、仁義ってえのを心得たお方だぜ」という皮肉が切ないですね。勘違いで破門されたのに言い訳せずにぐっとこらえて、故郷に帰ってきたのだから、そら皮肉の一つも言いたくなりますよ。(そこのけそこのけ悟空モンペが通ります)
悟空が三蔵は難に遭っていることを既にわかっている、という点に関しては、前回軽く指摘したように悟空がこの旅の本来の目的を既に知る先導者であることを示しているものと思います。(詳しくは最終回にて解説予定)
今回のポイントは、「兄貴のことをなつかしがっている」と八戒が嘘を言うと怒る悟空と、「水簾洞にもどったものの 師匠のことが気にかかる」の二点です。
なぜ、なつかしがっていると言われると怒るんでしょうか。
「正直に言え」と散々言っているのに、八戒がまだ嘘をつくから怒っているという単純な解釈もできるのですが、「大ばかやろう!」と怒鳴る怒りの勢いからするともう少し別の理由も加味しても良いのではないでしょうか。「師がなつかしがっている」と言われてしまうと、それが本当のことではないことを知りつつも、心が浮き立ってしまうのを自分でも認めたくないから、じゃないですかね。どうでしょう。可愛い可愛い。
それでいて、さらにですよ。三蔵は自分のことをなつかしがってはいないとわかっているくせに、自分は「師匠のことが気にかかる」と言ってしまうわけですよ。なに、その切ねえ感じ。片思いじゃん。もう、やだ。好き。
②ではこんな感じです。
おおまかには①と似た文句が続きますが、「身は水簾洞に回れども 心は取経の僧を逐う」という詩句がすごく良い仕事してます。
身体は花果山に戻っているけれども、心は三蔵のことを追っているから、きっと「心ここにあらず」という状態そのものなんでしょう。故郷でたくさんの手下に歓迎され、豪勢な食事で宴会をしてもらっているのに、その場を楽しんでいないというか、「三蔵は今どうしているだろうか」「腹を空かせてはいないだろうか」とずっと気にかかって、遠い空を見上げている様子さえ目に浮かぶようです。
③です。
「ほんとの話、兄貴を思ってるんだ」「打ちのめすぞ、こののろま野郎」の破壊力すごくないですか。「兄貴を思ってるんだ」と言われた瞬間、そんなことありえないとわかっていても、もしかして三蔵も俺のことを……と一瞬だけ思ってしまった自分に腹を立てて、すごい勢いで八戒にどなりつける悟空の心情が読めてきませんか。どうですか。
黄袍怪が悟空の悪口を言っていたと八戒から聞いた悟空は(実は八戒の嘘なのですが)、黄袍怪を倒しに行くことにします。
①で悟空の様子を見てください。
まず、注目点がたくさんあるのですが、「着ていたものを脱ぎすてると」という、王様の服から僧服に着替える点に注目です。王様の服の方が高価だろうに、別に大事そうにする様子もなく、かまわずに脱ぎ捨ててしまうんです。そして綺麗好きの三蔵に気に入られるように「直綴をきちんと着込」んで僧としての身なりを整えるんです。僧として生きることを彼が重要視していることが表現されています。
そして、八戒には仇をとったら「(花果山に)すぐもどる」というくせに、手下の猿たちには「功をたてたら、ちゃんとここに帰ってくる」と言ってるんですね。もう一度弟子になることしか考えてないじゃないか。もう素直じゃないんだから!
しかもしかも、手下には破門じゃなくてただの里帰りなんだと言い聞かせてるんですよ!
この解釈としては、
Ⓐ破門されたのは恥ずかしいのでとりあえず良いカッコしたかったから
Ⓑ手下猿たちに破門されたというと三蔵に悪印象を持つことが予測され、手下の猿たちに三蔵の悪い印象を与えたくなかったから、
という二通り考えられますけど、どちらだと思いますか?自分の身内(手下)には、自分の大切な人(三蔵)について良い印象をもって欲しいから良い話しかしたくなくて、つい庇ってしまうっていうの、恋愛の始まりにあるあるだよなあと思います。
つぎは、私の好きな水浴びのシーンです。
まず①
ほら、萌える。萌えただろ?
「師匠はきれい好きだから、いやがるだろう」という「だろう」という推測の表現から、実際にはいやがられたことはないことがわかります。つまり、普段の悟空は妖怪のにおいがしないように、気を付けて身体の清潔さを保っているんでしょう。健気……。
次は②です。
「きらわれるといけない」
きらわれるといけないんですよ。きらわれないようにしたいんですよ、彼は。
なんで?ねえ?なんで?
③です。
「きらわれちまうとこまるから」
ひぃぃぃ、きた。もう答えじゃないですか?
嫌われると困っちゃうんですよ。なんで?ねえ?この人に嫌われたくないって思った時点でもう好きじゃんね。
やっぱり一度距離をおいてみて、その間に自分が何も手につかずに三蔵のことばかり考えてしまっていたという事実があったからでしょうか。悟空が三蔵のことを大切に大切にし始める記述が増えてきた気がしませんか。
てか、もう好きだよね、もういいだろ。我々、もう十分我慢したよね。
もう好きだよ。もう好きってことで良いよね?今の時点では、悟空→三蔵の気持ちはかなり明らかに書かれてるって解釈で良いね?
はい、もう好きです。悟空は三蔵にもう惚れております。
さて、次はあまり空三とは関係ないですが、あわや空浄展開が始まるのではないかと疑うようなシーンが見逃せなかったので紹介しましょう。
①です。
悟空が戻ってきたことを知った悟浄の感激っぷりが少女漫画じゃないですか?絶対背景に花が咲いてるだろうという感じです。悟浄の心がときめいているのを悟空もちゃんとわかっていて、「尼さんにでもなったか」という台詞で受けています。
でも空浄展開にはならず、破門の時に庇ってくれたらよかったじゃないかという悟空の愚痴につながりますw悟浄、都合の良いときだけにデレてもだめなのだよ。もしあのとき悟浄が悟空を庇ってくれていたら、空浄展開がみられたのかもしれません。
虎になった三蔵に聖水を吹きかける
虎になった三蔵を救う場面です。
まず、①です。助ける前までの悟空の意趣返しと、助けてからのデレっぷりが可愛いので、少し長いですが、抜粋してみます。
ツッコみたいところがたくさんありすぎて、どこから手をつけたらいいのか……。そわそわしちまうぜ。
いや、まずまず、まず順番に。
虎になった三蔵を見て、悟空が最初に言うことが「すごい姿におなりですな」と言うんですよ。しかも笑って。でも、本心では「助けもしないでへっちゃらというわけじゃない」んですよ。あああ。尊い。
悟空が口に含んだ水を虎になった三蔵の頭からぷーっと吹きかけるのも、きたな……いや、神猿のやることですからね、聖水なんですよ。聖水プレイ。いや、語弊があるな、プレイじゃないな、本気で、やる必要があってやってるんだもんな。聖水方策。
そして、元の姿に戻った三蔵が悟空の「手をとってしっかり握り」、「悟空よ、よく来てくれた」とくりかえし礼を述べたら、悟空が「てれて」……。てれて……。ぴぎゃあ。手を握ってお礼言ってもらっただけでてれちゃうんですよ、なんなんだよ、片想い尊いかよ。
しかも悟空の性格なら「おれがあんなことしてこんなことして」って自分から恩を売りにいってもいいはずが、自分では何も言わず、悟浄が詳しく説明している点も奥ゆかしい。
「もう、言いっこなしにしましょうや」という台詞からは、三蔵からの感謝の意が気恥ずかしくてたまらない気持ちと、破門のいざこざももうこれで水に流しましょうという提案が感じられます。
はあ、尊い。
それと思い出したように影で進む空浄展開ですが、ひざまずいて頼んだ悟浄に「手を貸して立たせ」る悟空が非常にジェントルマンで萌えませんか。私は好きです。
こんな場面は色々な訳で楽しみたいですよね。わかってますわかってます。では②です。
まず、虎になっている三蔵ですが、「歩行がかなわず、精神ははっきりしているのであるが、目と口があけられない。」という状態らしい。虎だけど歩けないんですね。耳は聞こえているはずですが、虎の姿から戻って「目を開き、初めて悟空だとわかった」と記載がありますが、声と喋り方で悟空とはわからなかったのでしょうか。耳も聞こえにくかったのかな。せっかく悟空が嫌味を言ってるのに聞こえてなかった可能性が高いですね。
また、悟空が八戒に言う、お前は「師匠のお気に入りのお弟子さまじゃねえか。」という台詞も良いですね。八戒は人の懐に入るのが上手いので、三蔵もつい八戒の言う事を信じてしまうのですが、そこにやきもちを焼いている悟空が可愛いです。
さて、次は③
「悟空はにやにやして」虎になった三蔵を「眺め」た外面と、「ほんとは俺だって、見ちゃあいられないんだ。」の内心の対比がたまりません。大事な師匠が浅ましい姿になっているのを「見ちゃあいられない」んですよ。だれよりも早く元の姿にしてあげたいと思っているんですよ。
八戒には「俺は帰ると言ったはずだ」と言うくせに、三蔵が目を開けたらそんな言葉忘れたかのように口にも出さない悟空が可愛すぎませんか。
最後の悟空の言葉は三訳のどれもいいですが、私はこの③の「いえいえ、あの緊箍呪さえ唱えなければ、それで十分満足です」が一番好きです。
悟空が三蔵に望むことって別に大それたことではないんですよね。皇帝に第一の功労者として報告してもらうこととかどうでもよくて、ただ、三蔵にだけ感謝してもらえればそれで良くて、わりとすぐ勘違いで唱える緊箍呪さえやめてもらえれば、もう何も言うことないです、って思ってるのが本当に健気だし、それってもう愛だよね……って思うんですよ。
次は有名な金角銀角のエピソード
三蔵がへこんだ時は慰める
さて、破門を乗り越えて再度仲間になった悟空は、なんというか、三蔵のことを改めて大事にするようになります。
①から抜粋しますが、山道が険しいことを嘆く三蔵には
と励まして安心させる。
なかなか西天にたどり着けないなあ、のんびりできるのはいつの日になるだろうか、と自信をなくす三蔵には
と励ましてあげる。まだ三蔵泣いてもないですし、ただちょっと自信をなくしてるだけです。それでもすぐにその落ち込みに気づいてフォローしてあげる。前回は泣いたら慰めてたけど、今回はもう泣く前から励ましてくれる。一歩気持ちが近づいているのがわかります。なんなん、師のことをよく見てるし、気持ちに敏いし、優しいよ。こんな良い子には絶対幸せになってもらいたい。
こんな悟空が大切にしている三蔵は、相変わらずすごい怖がりなのでその辺を見ていきましょう。
三蔵を陰ながら守っている神将が木樵に変装して現れ、この山の妖怪は手強いから気をつけろと忠告してくる場面です。
まず①です。
「魂もふっ飛んでしまって、鞍にちゃんとまたがっていられない」くらい怖がる三蔵、推せますよねえ。はぁ、可愛い可愛い。
②です。
三蔵は弟子たち全員を呼んで「誰か行って」と指示したんですけど、必ず悟空が「私が行って」くるというの、本当に愛を感じます。三蔵を安心させるための情報は俺が確実に掴んでくるという強い意志がそこにはある。絶対。
③はこうです。
「戦々兢々」という四字熟語がこんなに似合う怖がりの三蔵が可愛い。
八戒にやきもちを焼いている悟空
まずは八戒を偵察に行かせようと目論む悟空ですが、ただ頼んだところで億劫がって断られるので、師匠の世話か偵察に行くか、二つの案を提案し、どちらの仕事を取るか八戒本人に選ばせる策士悟空のシーンです。
①です。
悟空の口から師匠の世話について詳しく説明されている点が見逃せません。トイレに行くときは同行するんですね。連れションだ。出かける時にもつきそうそうで、片時も一人にしないんですね。ほとんど赤ちゃんかというくらい二十四時間そばに居る過保護ぶりが伺えます。
しかも、三蔵から悟空はおとうと弟子に「やきもちばかり焼いて」いるという萌え情報も語られます。なんだ、三蔵も悟空がやきもち焼いていることに気付いているんじゃないか。どの程度好かれているか理解しているかは判然としませんが、悟空からやきもちを焼かれる対象に自分がなっているということまでは理解している。うんうん、よしよし。まずはここまでな。恋愛に慣れていない三蔵はまだまだ自覚は薄いかもしれんが、こっからだからな。
次は、道士に化けた銀角をおんぶしなくてはいけない羽目になった時の悟空の呟き。ちょっと無視できないようなことを漏らしています。
まずは③です。
これはわかる。まあ、普通ですよね。師匠を喰わせてなるものか、という悟空の決意ですね。
問題なのは①です。
ちょっと、待て待てーい。
「どうしても食うと言うんなら、半分以上は孫さまに分けてよこせ」
っておい!マジか!これマジか……。
これが原典なんですね。原典なんですか……。
旅の序盤であれば、本気で三蔵を師とあおいでいるわけではなくて三蔵の隙をうかがって食うつもりがあるんだなってそれだけなんですが、今まであんなに大事にする描写があってのこの台詞ですからね。
欲しいけど、手に入らない存在に恋をしてしまった苦悩というか、思い通りにならない恋情を持てあましている様子を表している、と解釈するのは、飛躍していますかね?
妖魔たちは三蔵を食おうと考えて襲ってくるけれども、悟空からしたらいささか単純すぎるんですよね。その展開が。
俺なんか、その妖魔たちが狙いをつける、ずっと前から三蔵のことを欲しいと思ってるし、それが叶わないなら三蔵の身体だけでも食っちまいたいくらいの熱情でもって三蔵のそばにいるのに、ぽっと出の妖魔に奪われてたまるかよ、みたいな、なんかこじらせた幼なじみみたいな感情が伺えます。
プライドは高い悟空
金角銀角の母親と名乗る九尾の狐に頭を下げるのを悟空が嫌がる場面です。プライドの高さを垣間見ましょう。
まずは③
シンプルながら悟空の無念さが伝わってきます。「この屈辱も師匠の難を救うため」という忠義が泣けます。
次は②
頭下げるのが嫌で、涙まで出る悟空w
この辺を読むとああやっぱり中国古典だなあ、と思います。序列とかすごい気にして敵には大きな態度で接することが多いですね。
①は
ばばあのオンパレードwばばあを拝するのは「五臓六腑が煮えくりかえる」という悟空w
「奥へとずかずか進んで行き、」というのがせめてもの怒りの表し方なんでしょうね。
次は銀角の容姿についての詩なんですが、空三とはあまり関係なかったんですが、どうしても放っておけなかった設定なので、紹介させてください。
灌口二郎というのは顕聖二郎真君のことですし、二郎真君といえば凛々しい男前で通っています。巨霊神というのも山河の神で、巨大な姿というのが定説なようです。
つまり、銀閣はめっちゃ男前で、身体もデカい、ということですね。この設定あんまり書いてる西遊記の本、少ない気がする。ね、ね?
金角銀角が似ているという描写はないので、金角がどんな容姿をしているかはわからない(剣に髪の毛が巻き付いてた描写はあるので、長髪ということだけはわかる)のですが、イケメンでも銀角と並んだ時に美味しいし、ぶおとこでもショタでも銀角との対比と兄弟愛で美味しいなと考えた次第です。
八戒に邪魔される悟空
銀角に捕らえられたものの、すぐに縄を解いて敵の部下に化けて隙を窺う悟空と、「本物の悟空は逃げ出した」と大声を出して悟空の足を引っ張る八戒の様子を見ていきましょう。
本当に八戒は誰の味方なんだよ、という感じで足を引っ張るのですが(ここでは悟空だけ縄を解いて逃げたことをずるいと思っている)、八戒の見破り方が可愛いし、尻に煤をつけて黒くする悟空の猿っぽさが愉快ですよね。こういう細かい描写でキャラクターが生き生きしてきます。
感謝感激する三蔵
さんざん苦労して金角銀角を倒した後、三蔵の縄をといて助けたときの様子は②ではあっさりしています。
え、そんだけ?みたいなw
ここは①に詳しく描写してもらいましょう。
「そなたにとんだ苦労をかけたの」と感謝されて、今回も照れるのかと思いきや、「いやはや全くです」という悟空の胸張り加減が可愛すぎませんか。
本当は瓶の中に吸い込まれたり、なかなか宝物が奪えずに金角の叔父まで出て来たりして、悟空は結構大変な思いしてるんです。けど、その大変さを感じさせない報告というか、深刻味の薄い朗らかな報告をしていて、三蔵にいらぬ心配をかけないようにという配慮が裏にあるのではと勘繰りたくなります。
金角銀角という強敵を倒した後の一行の様子を①で見てみましょう。
次の難が始まるまでの間の記述なんですけれども、あのさあ、やっぱり普段の一行の様子みてみたいよ、空三クラスタとしてはさ。
「水辺に宿した」時はなるべく乾いた地面を三蔵に譲って、弟子たちはちょっと湿った地面に寝て翌日八戒は鼻水出してたんじゃなかろうか、とか、「風の中で斎をとった」時は悟空が風よけになって壁をつくり、そのかげで三蔵が「もっと風を抑えてくれないと、斎がとんでいってしまう」とか文句言うから、悟空はヌリカベみたいに身体を変化させて「お師匠さまは世話が焼けるや」とか言ってたんじゃなかろうか、とか、「いかにして霜や雨露をしのいだか」とかぜひ聞かせてほしいんですけどね!「寒い」とか「濡れる」とか言い訳にして身体くっつけあう絶好の機会なんですけど!
はぁ、この辺は二次創作で補っていくしかないやつですね。
知っている人は知っている烏鶏国でのエピソード
烏鶏国直前に泊まることになった宝林寺ではエモいエピソードが満載
宝林寺でいちゃつきあう空三をみてください。
②ではシンプルに
これだけの記述ですし、③では宿をとるシーンをこんな感じでまるっと省略されているんですけど
この宝林寺のエピソードはエモいネタが満載なので、細かく見ていきたいと思っています。
①です。とにかくケンカップルがいちゃついてるんだな、と思って読んでください。
もう解説いらないくらいじゃないです?もう最初から最後までいちゃついてる。
何て書いてあるんですかぁ?って、からかい始めて、読めないって言われたらわざわざ背を大きくして門の埃を払いのけて(いちゃつきに術を使う人初めてみました)からの、からの、「お師匠様、ほら!」ですよ。「ほら!」ってアンタ、無邪気な……。ほら読めるでしょ、じゃねえんだよ、悟空も須菩提祖師に読み書き教えてもらってますからね、読めますからね。でも、師匠に読んでほしいんですよ、もう言葉を交わすだけで楽しいんですよ。付き合いはじめのカップルなんだよ。もうなんなんだよ、見せつけてんなよ。きわめつけは、弟子たちは醜いから私が宿を頼みに行く、と言った三蔵に「それではどうぞ、いらっしゃいませ。もうなんにも申しませんですよ」と言うんですよ。もう!その、三蔵のことはわかってますよ的な、こいつしょうがねえなあ的な圧倒的彼氏感。
この二人のやりとりを、八戒と悟浄は死んだ瞳でぼーっと見てんのかなと思うと、もう笑っちゃいますよね。
三蔵が宿を頼んだものの、すげなく断られて帰ってきたときのやりとりも見てください。まずは傷の浅い②から
悟空は三蔵が憂えているのにすぐ気付くんですね。そしてべそをかいている(また泣いてるw)三蔵に「わたしが行って来ましょう」と余裕で提案するスパダリ……。
では①です。私はこの辺でわりと傷を負いました。
「なぐられたんですか」「どなられたんですか」の連打ヤバくないですか。幼児の親ですか?三蔵に辛い思いをさせる者はたとえ人間であっても許さねえという悟空の強い思いが感じられます。
「まあ、あなたはじっとしていらっしゃい。ちょいとおれさまが見て来ますから」の余裕っぷりもカッコいい。結局のところ、三蔵には経を読む以外のことは何もできないと思っているんですよね、まあ事実なんですけど。
結局、悟空が寺の坊主たちを脅したので、全員正装して頭を下げ、三蔵を迎えてくれることになったのですが、その時の八戒の台詞も面白いです。
悔しい時には口を尖らせる三蔵可愛いですね。自分は冷たくあしらわれたのに、その僧たちがぺこぺこしてるのを見て気の毒になる三蔵の純粋さも愛おしくないですか。
次は、三蔵一行の普段の様子が垣間見える台詞を八戒が言っていたので、ここもすかさず取り上げましょう。
まず、聞き捨てならないのが、「夜は溲瓶をぶらさげる」。溲瓶って尿をためておく瓶ですからね。奴隷宣言しての溲瓶宣言ですから、自分の溲瓶ってことはないでしょう。となると、これが意味してるのは、三蔵の溲瓶に他なりません。
うん、なるほど、夜は三蔵は便所に行かず、溲瓶で用を足すんですね。(電気のない時代だし、水洗トイレでもないし、暗がりで便所に行くのは危険なんでしょう)
それはまあいいとして、「溲瓶をぶらさげる」ってまぁ、あれですか。三蔵は自分で溲瓶の中に用足しするんじゃなくて、弟子に瓶を持ってもらって放尿するってことでしょうか。
ちょっと待って、おい。夜に何にも見えない状態で三蔵の股間あたりをまさぐる弟子がいるってことじゃないですか。しかも夜中にそんなお世話、八戒は言ってるだけで絶対してないでしょ。ぐうぐう寝てるに決まってるじゃん。そういう面倒な世話を喜んでしたがる一番弟子が出てくるに決まってるじゃん。
はぁ、溲瓶ってパワーワード過ぎませんか、ねぇ?
「この辺ですか、お師匠さま」
「いや、もう少し奥の方だ……」
「もう面倒ですね。俺がちょっくら失礼して、瓶口にあてがえさせていただきますよ」
「あ……。ちょっ……、あの」
「尿意を催されて大分我慢されてたようですね。半勃ちじゃないですか」
「……いらぬ報告じゃ」
みたいなさあ。もう二次創作できちゃったじゃん。やだもう。
2022.7.5追記 辛抱たまらず書きました。
はぁ、溲瓶でこんなに萌えるとは思わなかった。油断していた。
さらにですよ、「せまいところで仲間同士あたためあいながら寝る」っておいおい、詳細をもっとくれ。一番見たいシーンじゃん、何通りでも二次創作で読みたいやつじゃん。
わざわざ「せまいところで」って言ってるってことはさ、身体を密着させてってことじゃないですか。それでお互いの熱を分け合って眠るんだってよ!もう!尊すぎて腹が立ってきたよ。
難にあってない普段の一行の様子を誰かかいてくれないか。うう。
次は、三蔵の頭を揺さぶって悟空が起こすシーン。
①です。
午後八時頃で既に深夜みたいな書き方が可愛いですよね。電気がない時代の生活は太陽と共に生活しているから朝が早くて夜も早く寝てたんだろう、と思いを馳せます。
「三蔵のまるいお頭をなでたり、むちゃくちゃに揺さぶったり」する悟空の遠慮のなさ、いいですよねえ。もう三蔵の頭は自分のものと言いたげですらあるw
「お師匠さま、なんだって寝ちまうんです」の言い分も良い。そら夜だし、寝るわw悟空は神通力の使い手ですから、三蔵が狸寝入りしていることくらいお見通しでしょうし、自分が呼びかけてるのに反応してくれないことにちょっと拗ねて頭を揺さぶってると思うと、もうイチャイチャにしか見えなくなってきますよね。
しかも、三蔵も怒ったかと思いきや「相談がある」と悟空に言われてすぐに「なんだ」と答えてるし、全然怒ってないじゃんwみたいな。ありがてえありがてえ。
同じシーン、③ではこんな感じです。
ちょっと訳が固めですよね。
それでも、坊主頭を「なでまわし、ゆさぶって」いることには変わりない。てか、「なでまわし」ってちょっと色っぽくないですか。どんな手つきでなでまわしたんですか。怒らないから詳しく教えてください。
そうなると、三蔵が怒ったのも、眠りを妨げられたからでも、頭を揺すぶられたのが煩わしかったからでもなくて、悟空の手つきにちょっと気持ちよさを覚えてしまった自分に腹が立っていたという解釈もできますよね。
妖怪に騙されて井戸に突き落とされた国王の死体を取りに行く
さて、八戒に井戸の中の死体を引き上げさせる時に悟空と八戒が言い争う場面。どうしても聞き捨てならない悟空の台詞があります。
まず①です。悟空の台詞から始まります。
ねえ、「お師匠さまとおねんね」ってさぁ……。ねえ、そこ「お師匠さまと」って言う必要あった?それと「おねんね」ってさぁ……。どういうこと?幼児語使うってことはつまり、同衾するまたは添い寝するのを可愛く言ったわけ?ねえ、二人は一緒に寝るの?
なんなの?匂わせなの?明や清の時代から匂わせてるの?時代を先取りすぎでは。
このシーンが幻覚でなかった証拠に③でも同じような台詞があることを、あなたも確認してください。
ね?ね?あるでしょう。「師匠と寝ちまうよ」って言ってるんですよ。幻覚じゃなかった……。
いや、でも待って。落ち着いて。
この巻数までいくと、今まで見てきた通り、かなり悟空のデレっぷりが明らかになってきてはいるけれども、冷静に考えればまだ一緒に寝るというほどの関係ではないはず。(さっき頭を揺さぶって起こしていた時も「三蔵の寝台の前に近寄り」と記載があるから、二人は別の寝台で寝ていることは明らか)
それならなぜ「師匠と寝ちまうよ」と言ったか、なんですよ問題は。
そばに寝てるよってことが言いたいの?おれと師匠は同衾してなくても心は一緒に寝てるんだよってことが言いたいの?もう!はっきりしてください!
次は小学生の私にトラウマを与えた、死体と悟空の口付けシーン。
まずは①です。
小学生の私は推しCPのキスが来ず、死体とのキスシーンがあったことにショックを受けたのですが、どうでしょう。みなさま、涙しておられないですか、大丈夫ですか。
八戒にやらせればいいのに(言い方)、三蔵が「やっぱり悟空がいいだろう」と悟空を指名するんですよねえ。悟空の心中の描写がないのですが、一体どう思ってるんですかね。心から口付けしたいと思っている人から、「お前が死体に息を吹き込め」と指示されるんですよ。真性のMでもないかぎり、泣いちゃいません?
花果山にいてまだ須菩提祖師の修行も受けていない時は人を喰らっていたと自分で言っていた悟空ですが、そのことはここでは触れられないんですよね。忘れられてんのかな。
まあ、何をどう言っても一番息が澄んでいるのは三蔵ですけどね、三蔵は死体にキスしないんですよね。本人も弟子たちもそれがわかっていながら、だれも「三蔵がやればいい」と言わないあたりに、三蔵の甘やかされっぷりを感じます。
別に私は真性のMでもなくて自分の傷をえぐりたいわけでもないですが、一応他の訳でも見てみましょう。
②です。
雷公のような口ってどんなんなんですかね。
https://www.waseda.jp/flas/glas/assets/uploads/2017/03/2017_luo_692-676.pdf
この論文を参照すると、明や清の時代には雷公の口は鳥の嘴だったとのことなので、悟空の口元も尖っていると解釈でいけるものと思います。なんとなく尖っていると猿っぽいしね。
③ではこんな感じ。
三回も死体とのキスシーン読んで心挫けませんでしたか?大丈夫?
ここで心の励みにしてほしいことは、悟空の息が清らかであることですね。清らかであるなら、三蔵とキッスしても問題ないよね、三蔵が汚れることはないね、そういや既に悟空の口から水を全身に吹きかけたことはあったね、あれも大きく言えばキッスの亜種ではあるよね。うんうん、気持ちが持ち直してきました。
二人の三蔵に困惑する悟空の可愛さ
国王に化けていた妖怪を追い詰めたところ、今度は三蔵の姿に変身してしまって悟空が困る場面です。
まずは①
妖怪が三蔵に化けたことを「悟空、まことに不愉快です」と表す一文が、なんとも言えず味わい深いですね。でしょうね、不愉快でしょうね。殴り殺したいくらい不愉快でしょうねw
八戒に対する「このおたんちんめ!」っていう、ののしり文句も可愛いです。なかなか最近聞かないですよね。
「どっちも呼ばれれば、はい、と返事しなきゃいかんし」という、たとえ妖怪が化けた師匠であっても、本物の師匠がどちらかわからない限りはいうことを聞かねばならないという悟空の律儀さを感じてください。はい、愛おしい。
②です。
何やら隠語めいた「お師匠さん、あれをむにゃむにゃとやってください」という身内感が可愛くないですか。
③です。
八戒が「にたにた笑っている」という表現が秀逸です。絶対にたにた笑うもん、あいつ。
「……では師匠、唱えてください」の「……」が痛みに耐える心づもりをしていそうで、悟空の覚悟が感じられます。
本当を言えば国王になんていつでもなれる悟空
妖怪を退治すると、三蔵一行のおかげで蘇ることができた国王は、王の座を譲ると言い出します。
まずは①
三蔵は多分黙って断ったんでしょうね。彼が王の座に全く興味がないことはよくわかりますw
悟空の断り文句もすごく優しいですよね。「もしその気になれば、この広い天下万国、どこへ行ったって国王にぐらいなれるんです。」本当にその通り。てか花果山では現に王様だったわけだし。
国王より旅僧の方が気楽だ、という言い訳ですが、どう考えたって国王の方が快適な暮らしできるに決まってる。三蔵のことを放っておけないからって言っちゃえばいいのに、もう。
③でも優しい悟空が見れます。
「我々は、和尚というものになれきって、これこのように自由気ままの暮らしです」そうですか。そうでしょうか。和尚というものになれきった人間はそんなにむやみやたらに暴力を振るわないとは思いますがw
それでも素敵なヘッドハンティングの話を断って、当然のように三蔵のそばにいることを選ぶ悟空がもうエモエモです。
さて次も有名!紅孩児が出てくるよ!
まずは紅孩児が三蔵の容姿に驚く場面。
①で見てみましょう。
三蔵の容姿は色白でふっくらとしているということですから、おそらくもち肌なのでしょう。舞台は唐の時代ですから、ふくよかな人=美人の図式で、三蔵も美人であると解釈して良いものと考えます。悟空は三蔵が痩せないように気を使っていますし。
紅孩児は幼児に化けて近づいてきます。悟空は妖怪だと何度も忠告したのですが、三蔵はそれを聞かない場面です。
①です。
ほら、なんか思い出しませんか?妖怪だ、妖怪じゃないの争いですよ。
そう、あの白骨夫人の悟空が破門されたエピソードに似ていますよね。一度破門された悟空はどうするかというと、もう口答えしないんですよね。うぅ泣ける。
もう破門されたら困るから、とりあえず「いまは手出しができない」と考えて、黙っておく。悟空が愚かな師匠に合わせてアップグレードしてるんですよ。もう!健気っ。
②です。
「化け物呼ばわりをしくさる」という表現が昔気質でいい感じです。
③です。
「あえて何も言わず」ですよ。わがままで人のいうことを聞かない師匠に、弟子の方から合わせてあげるんですよ、なんていう優しさ。
今回はここで終了です。長々とお付き合いありがとうございました。
だんだんと悟空のデレに遠慮が無くなってきましたね。三蔵もそれに悪い気はしていないというか、ケンカップル上等だぜ的なやりとりに、おいらもわっくわくが止められねえや!
もし、これを機に西遊記読んでみようと思われた方は、どの西遊記から手をつけるかに関してはこの記事を参照して頂けると嬉しいです。
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