「西洋のドラゴンは悪で、東洋の龍は神様」とかいう雑語り

 今回は短めの呟き。とあるドラゴン好きの怒りの呟きです。

 辰年、ドラゴンの干支なので、またぞろ方々から「西洋ではドラゴンは悪だが、東洋の龍は神」とかいう、いつもの文句が飛び出してきた。
 
 これ、誰が言いだしたんだろうね?

 実のところ、この言葉、一体何の根拠があって言っているのか、全くわからないというのが、私の本音である。

 というのも「西洋ではドラゴンは悪だが、東洋の龍は神」という文言、徹頭徹尾「ふわっとした概念」しかないのが一番気になる点だ。

 今回は別に参考文献とか上げるほどの話ではないが、一つ一つ何を私が疑問視しているのかを話していく。

ふわっとした概念1:「西洋/東洋」

 まずはこの話題から。
「東洋西洋ってなんだよ」

 何と何を比較していてるのか、これだと皆目見当がつかない。西洋の悪竜の話題で上がるのが、殆どキリスト教以後のヨーロッパしかないのもすさまじく気になるし、東洋の神竜も、殆ど道教由来の竜の話しか見かけないのも、凄まじく気になる
 
これただの道教の竜とキリスト教の竜の比較じゃね?」、そう思ったのは一度や二度ではない。

 西洋という地理的範囲も、日本から見ればヨーロッパのことを指しているのだろうが、じゃあエジプトやメソポタミアは、どうなるのか、という点も凄く気になる。ヨーロッパでは、これらの地域を「オリエント(東)」と呼んでいるのだから、じゃあこの地域も「東洋」なのか?それとも中国より西は全部「西洋」なのか?

 このふわっとした「西洋/東洋」の対立、実のところドラゴンの話以外にもすこぶる見かけるが、大抵「あちらよりこちらの考えの方がいいでしょ?」という、文化比較論では禁じ手である「文化の優劣」を語りたがる人しか使わないので、正直辟易としている。

ふわっとした概念2:「ドラゴン/龍」

ドラゴンってなんだよ、竜ってなんだよ?」
 誰か定義してくれ。
 細くて長い体躯を持っている蛇みたいな怪物?

 じゃあエジプト神話のアペプは竜か?あれは秩序の破壊者で、ラーに討伐される悪だけど、どうなん?
 メソポタミアにもムシュフシュとかウシュムガルとかいるけど、あれもドラゴン?基本神の僕で、退治される存在だけど。どうなん? 
 八岐大蛇はどうなんだ?あれは竜?蛇?退治されてるけど、どうなん?
 バハムートは魚でいいのか?魚と竜の違いは?蛇っぽさなのか?

 個人的に、現代人(というか日本のネット論壇)の「ドラゴン」のイメージがあまりに偏っていることが一番の問題な気がする。神話に登場する「現実に存在しない、想像上の怪物」とシンプルな定義を考えれば、もっと比較文化論で面白いことが言えるはずだろう。「何か蛇のようににょろっとしていて、時には翼を持つが、時には翼を持たずに飛び、海や川の権化だが、宝を守っている元人間だったりもする」のは、それは定義などではなく、「自分の知っているドラゴンのイメージ」を恣意的に運用しているに過ぎないのではないか?

ふわっとした概念3:「悪/神」

「悪ってなんだよ?神ってなんだよ?」

 歴史学や文化人類学者でも「神聖性って、その地域によってイメージ違うよね?」って言われてる昨今、「退治されるべき存在」だから「悪であって神じゃない」とみなしていいものなのか?

 そもそも、西洋の「悪竜」にせよ、東洋の「神竜」にせよ、その話や物語の構造は実は殆ど同じである。

「竜は自然災害の権化、だから人を傷つけることもあれば、恵みを与えるものでもある」

 これはしばしば東洋の龍観で言われる内容だが、じゃあヨーロッパのドラゴン伝説ではそれは当てはまらないのか?竜が退治され、そのため込んでいた財宝を勇者が手に入れることや、血を浴びて不死身になることは、「恵み」とは言えないのか?

 実際の所「荒ぶる竜を鎮めて、水害を終わらせる」のも「荒ぶる竜を退治して、宝を手に入れる」のも、御しがたい大自然を制御する「人間の力」に焦点が置かれ、その制御によって「巨大な恵み」を享受する、という意味では、全く同じ構造である。

まとめ:「西洋のドラゴンは悪で、東洋の龍は神様」という言葉を精確に言い換えると……

 さて手短だったが、最後に改めて「西洋のドラゴンは悪で、東洋の龍は神様」という文言が如何に恣意的に使い倒されているのかを、今回議論した内容を通じて言い換えて表現しよう。

西洋の(キリスト教以降のヨーロッパのこと)
ドラゴンは(この場合は翼を持っていたり持っていなかったり、蛇のように長かったり長くなかったりする存在)
悪で(ここでは退治されていることが大事)、

東洋の(道教影響の強い地域のこと)
龍は(ここでは前述のドラゴンの定義とは関係なく、空を飛んでいたり海を泳いでたりする細長い存在のこと。翼は無くてもいい)
神(ここでは退治されず生贄で鎮めるのが大事)」

 ということになる。滅茶苦茶じゃねーか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?