ほっつきある記27 12 元田中マロ 2024年8月17日 21:03 母さん、ぼくのあの帽子どうしたでせうね? ええ、夏、碓氷うすいから霧積きりづみへいくみちで、 渓谷たにぞこへ落としたあの麦藁帽子ですよ。 母さん、あれは好きな帽子でしたよ。 ぼくはあのときずいぶんくやしかった。 だけど、いきなり風が吹いてきたもんだから。 母さん、あのとき向こふから若い薬売りが来ましたっけね。 紺の脚絆に手甲をした。 そして拾はうとしてずいぶん骨折ってくれましたっけね。 だけどたうたうだめだった。 なにしろ深い谷で、それに草が背丈ぐらい伸びていたんですもの。 母さん、ほんとにあの帽子どうなったでせう? そのとき旁で咲いていた車百合の花は、もう枯れちゃったでせうね、 そして、秋には、灰色の霧があの丘をこめ、 あの帽子の下で毎晩きりぎりすが啼いたかもしれませんよ。 母さん、そしてきっといまごろは 今晩あたりは、あの谷間に、静かに雪が降りつもっているでせう。 昔、つやつや光ったあの伊太利麦の帽子と その裏にぼくが書いたY・Sといふ頭文字を埋めるやうに、静かに寂しく。帽子 西条八十ここにいる間、ずっと脳内にこれが流れていた。ヤマヒルにおびえつつ。 ダウンロード copy #写真 #夏の1コマ #写真のたのしみ方 #碓氷峠 #めがね橋 #olympuse420 #zuikodigital1442mmf3556 12 この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか? サポート