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高校生くらいの頃に読んだ。
堀内孝雄さんがダウンして入院していた頃の話が印象的だった。

◯姦してやろうか

そんなセリフだったと思うが、通り過ぎる女子高生を見ながら谷村さんの心を過った言葉だ。
おそらくはまだ30歳そこそこだったアリスのメンバーにとって、突然ブレイクして周辺の様子が一変し、まだ経験したことのない忙しさの中でメンバーが倒れたことは、例えようのない焦燥感と鬱々と沈み込んでいく心の闇を暴き出していく。

谷村さんは言葉を選ぶのが上手かった。
コンサートにも行ったことがあるがトークでも実に楽しませてくれる。
自虐的なギャグも織り交ぜながら、ときにシリアスな場面を悲しげなリズムで歌い上げる。

ホットジャム80だったか。
今でいう「フェス」みたいなものだ。

それをテレビで放送していて、それで観衆を前に歌うアリスというのを初めて見た。
たしか谷村さんはテニスウェアに汗どめのパイル地のバンドを頭にしていた気がする。
アリスはすでにビッグネームになっていて、演奏する数々のヒット曲に観衆は沸いていた。
たぶんそれがカッコよく見えたのだろう。

よし、俺もギターやる。

ぼくは基本的にアホなので思い込むとそれしか見えなくなる。
ギターはおじが置いていったクラシックギターがある。
翌日本屋に「Guts」だったと思うがギター教本みたいなものを買いにいった。
キミにも簡単に弾ける!みたいなタイトルに釣られて買ったのだ。

指先にマメができて、それが何回も剥けて固くなってきた頃には、ぼくはだいたいのアリスの曲が弾けるようになった。
そして今でも時々、思い出したように取り出してギターを弾いている。
弾く曲は変わったけれど、あの頃のアリスの曲ならコードはちゃんと覚えている。

谷村さんは彼岸に渡られてしまったけれど、ぼくは、少なくともぼくはずっと忘れることはない。
小川知子さんの胸元に手を入れるスケベそうな谷村さんも、加山雄三さんとサライを歌い上げるソングライターとしての谷村さんも。
そして売れない頃にデパートの催し物会場で歌ったあの歌も。

最後に心よりご冥福をお祈りいたします。

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