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K-14

コダックのカラーリバーサルフィルムであった「コダクローム」の現像終了は2010年の年末であったと記憶している。
コダクロームはコダックの象徴的なフィルムだった。
外式カラーフィルムで現像液中に発色剤・カラードカプラーを添加するタイプでシアン、マゼンタ、イエローのカプラーを添加した現像液で3回の発色現像を行う方式であった。
フィルム乳剤にシアン、マゼンタ、イエローのカラードカプラーを含有させる内式カラーフィルムは発色現像が1回で済む。1936年にアグファが内式カラーフィルムの商品化を行い世界の主流は内式カラーフィルムへと移行している。

そんなわけからどこの現像所でも現像できるということではないから(頼めたとしてもえらく時間がかかる)ぼくは「堀内カラー」に持ち込んでいた。
ラボの混み具合にもよるが、手隙であればものの数時間で仕上げてくれた。(他のラボの店頭に持ち込むと1週間なんていわれた)

デジタルカメラの台頭や現像の面倒さから2009年にはコダクロームの販売が終了。現像受付も2010年まで、ということになったのだ。
なくなると聞くと惜しい。
人とは勝手なもので、ぼくの周りでも惜しむ声がずいぶん聞かれた。
ぼくも残念だとは思ったが、コダクロームは感度がISO64な上に高価だったから、まあ仕方ないよね的なスタンスでいた。
その頃には、まさかフィルム自体がこれほど淘汰され、高価になるとは思っていなかったのだ。

古い写真家の写真展を訪ねるとコダクロームで撮られたと思しき写真に出合う。
発色自体は渋いが黒がどすんと締まり、ピントが来ているところのシャープさは眼を見張る。

写真は全てAdobe Lightroomで、それらしく加工したものだ。
そういったプリセットもいろいろなところで見かけるが、今回のぼくのもコダクロームとは全然違う。
いくら似せたつもりでも違うのだ。
そりゃそうだ。
コダクロームではないのだから。

ウェットプロセスとはよく言ったもので、ぼくがデジタルカメラを使うようになってから、しばらく「うーん...」と感じていたことは、プリントアウトした写真から「湿度」が感じられないことだった。
フィルムの現像は薬品やら水やらを使うし、プリントにしても同様であったけれど、今や水分はどこにも関与しない。
もうこれは物理的に違うのだからいかんともし難い。

デジタルの画像を後加工するのを否定もしない。
新しい写真のあり方、というか既に当たり前だろうと思うし、AIなんかで自由に写真を作ってしまえるのなら、もうそれがどうこうというのはナンセンスだろう。

ただ懐古的といわれようがなんだろうが、あの独特の色味は唯一無二であった。
そしてそれがとても時代的であって、人生の秋に差し掛かるぼくにとっては、これまでの歩いてきた道そのものの色にも思えるのだ。

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