追加注文 #パルプアドベントカレンダー2023
「さて、お前が捕獲した鶏の件だが」
「そう、あれは黒山の人だかりという荒波に溺れかけた時の事――」
「山だか波だか分からん話は不要だ。報告を聞け」
「おいおい、俺の話を三文小説と切り捨てるのはいただけないな。当事者の話は最後まで有り難く聴くもんだぜ? あ、それより追加の注文は?」
「要らん。結論から伝えると、別物だ」
「そんな最近の若者よろしく、結末からなんてーー何だって?」
「別物だ」
「別物?……そんな名前の料理出してたか? 期間限定菜譜(メニュー)?」
「注文の話じゃない。お前が連れてきた鶏は別の鶏だった。それと、追加の注文は要らない」
「この大鶏排っていう今日のおすすめ、美味そうだぞ。頼もうぜ」
「頼まない。話は以上だ。探し直せ」
「俺はまだあるんだけどな」
「私は無い。強いて言うなら、今度は連れて来る前に鶏の写真を私に送れ。お前に会う二度手間を省ける」
「そんな冷たい事言うなよ〜 俺と君の仲なんだからさ、二度でも三度でも会ってくれるだろ?」
「……今が何と呼ばれているか、知ってるか?」
「今? 皆様ご存知、極月(きわまりづき)だろ?」
「そうとも言うな……他には?」
「除月、窮月、年積月……俺の推しは春待月」
「分かった。言葉を変えよう」
「君の推しは?」
「この滅茶苦茶忙しい"師走"の時期に、上司の飼鶏探しの報告を逐一確認する暇はないって事だよ理解しろ!!」
「師走かぁ〜 定番だよな!」
「定番なら直ぐ出てくるだろ……って、そうじゃない」
「梅初月という表し方もあるらしいぜ! 梅って付くと、如月と間違えそうだよな?」
「その話題はもういい!悪いが俺はこの件で油を売ってる余裕は無い。速やかに鶏探しに戻ってーー」
「お待たせしました、大鶏排です」
「ありがとうございます〜! ……さ、食べようぜ」
「何か……大鶏排にしても、異様にデカくないか?」
「そりゃ今日のおすすめだしな。生きのいい、大きな大きな鶏が入荷したって店の電子版にもあっただろ?」
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