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聴いたことのないショパン~エマニュエル・イワノフ ピアノリサイタル 

こんにちは。群馬県高崎市アトリエミストラルのオーナー、櫻井です。

さて、昨日7/15(土)はブルガリア出身でブゾーニ国際コンクール優勝のピアニスト、エマニュエル・イワノフのリサイタルをアトリエミストラルで開催、大盛況のうちに無事終了することができました。
お越しいただいたお客様、招聘元のMCSヤングアーティスツ様、そしてエマニュエル・イワノフ氏に心から感謝申し上げます。

プログラム

スカルラッティ:ソナタから4曲
ショパン:ピアノソナタ第2番「葬送」
ベートーヴェン:ピアノソナタ第21番「ワルトシュタイン」

リハーサル風景

真っ赤なTシャツのイワノフは、ミストラルに到着後、すぐにピアノを弾き始め、いろいろなフレーズを確認したり、時にはJAZZを弾いてみたり…。

リハーサル風景

この時、「なんて美しい音を弾く人だろう。プレイエルを少しも邪魔せずにそのピアノの良さをそのまま引き出せる技術を持っている人だ」と思ったのでした。
本当に美しくて、透明感があり、でもちゃんと根っこがあり、芯があり、説得力がある演奏だという印象でした。しかし本番は全く印象が異なるもの(最上の誉め言葉、という意味で)でした。

本番~ショパンの「葬送」

特に2曲目のショパンの「葬送」は冒頭から、のけぞるほどの重厚感と陰鬱な和音から深い深い精神性が感じられ、ハッと息をのむ人々の中には、立ち上がってしまう人も。。。

アトリエミストラルのピアノは1905年製プレイエル3bis。プレイエルはショパンの愛したピアノで有名で、この「葬送」は日本ツアーでアトリエミストラルでしか聴けない曲です。

1905年製プレイエル3bis

イワノフのショパンへのアプローチは日本人からすると、非常に個性的で、今まで聴いたことのないショパンでした。いわゆるメロディックな心地よさを優先するものではなく、非常に重層的、構造的、多面的。

アトリエミストラルのプレイエルピアノは164㎝、85健。割と低音のインパクトが乏しいと思われてきた個体なのですが、イワノフの低音へのアプローチは、まるで地響きや爆撃や闇のようなものを感じさせ、恐れや怖さ、無力感さえ表現していたように思います。そしてそれに対応する中・高音部の対比、そして各声部が時に独立し、時に溶け合い、複雑極まる一つの曲の形が見えてきたのです。

人の一生にも、今の国際関係にも、通じるようないくつもが絡み合った複雑な「葬送」の解釈は見事というほかありません。音の強弱だけではない、その奥に隠されたショパンが本当に伝えたかった「もの」をイワノフは知っている…のではないだろうか?

エマニュエル・イワノフ

耳なじみの良い曲が少なからずあるショパンですが、ショパンの曲というのは決してそのようなものではなく、またプレイエルピアノも耽美で優しく歌のよう、という一面はあるものの、100年以上も生き延びてきた曲もピアノもそんな単純なものではない、と改めて認識させられたのでした。

このようなショパンは、そうそう聴けるものではなく、おそらく昨日、イワノフというピアニストで、プレイエルというピアノ、そしてこの空間とお客様、という奇跡の組み合わせのなせる業だったのではないでしょうか?

アンコールは、ラフマニノフのエチュード1番と、ドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」。ここにきても、この対比(笑) この両方とも「聴かせられる」ピアニストはめったにいないと思います。

最後に

プロフィール写真のソフトな好青年、という印象から、内に秘めたエネルギーを爆発させ、かつ美しさも併せ持つピアニズムと、がらりと印象が変わったエマニュエル・イワノフ。本当にびっくりした(正直な感想・笑)のと同時に、西洋におけるクラシック音楽は、その背景に歴史、宗教、文学、美術、時の政治等、様々な要素が絡む立体的で重層的で複雑な音楽なのだということを改めて感じることが出来ました。

素晴らしい演奏をしてくださったエマニュエル・イワノフ氏に最大限の感謝を申し上げます。アトリエミストラルに来てくれて、パッション溢れる演奏をしてくれて、ありがとう。
また招聘元のMCSヤングアーティスツ様にも厚く御礼申し上げます。コロナで十分な活動が出来なかった3年間を経て、私に今回のコンサートを託してくださったこと、心から感謝しております。

そしておそらく、イワノフのことはそれほど知らなかったというお客様が多かったと思いますが、敢えてアトリエミストラルに足を運んでくださった、お客様がいたからこそ、あのコンサートの完成度は上がったと思います。ありがとうございました。

記念撮影♪

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