子供の悩み

レゴ屋でのこと。
店を埋め尽くす商品に囲まれて、まどかは自分がほしいものを決めかねていた。
見れば、高いものではなんと10万円のものもある!
それ以外のものでも、結構値が張るのがちらほら。
何でもどうぞとは言えない。
内心、ひやひやしていた。
それに加えて、対象年齢もある。
ハリーポッターやマインクラフトを題材にしているものもある。
そういうものを知るようになれば「これ!」となるかもしれないが、目下まどかの興味の対象である鉄道や恐竜に関するものはなかった。
というわけで、決め手に欠けた。
沢山あるのに心からほしいものは一つもない状況。
こんな時、値段と対象年齢だけ見て「これでいいだろ、な?」と大人の都合で促したくはない。

まどかは奥手な子なので、目に留まったものに飛びついていってそれを掴み取るようなことをしない。
それくらいやんちゃでも結構なのだが、そこは個性。
この子供は、遠巻きに物事を見る。
凄く昔の私に似ている。

何度か私の所に来て、手を取り、「ねえ、みてるだけじゃなくて」と咎めるように言う。
その心は、どれかぼくにすすめてよ、ぼくにはわからないよ、ということ。
少々、苛々しているのを感じる。

無理もないことだ。
何かほしいのに、何がほしいのか分からないのだ。
これを今どきの子供の贅沢な悩みだなどと思ってはいけない。
私たちだって、特に明確に使途があるでもないのに、ただ漠然ともっとお金がほしいとか、とりあえず何でもいいから恋をしたいと思ったりする。
太古から続いている本能の苦しみのようなものだ。
私たちはこれに一生付き合っていかなくてはならない。
開かれた可能性の前で私たちはいつも途方に暮れている。

それでも充分に時間をかけて店の中を見回る内に、スポーツカーに的が絞られてきた。
私も何となく、この辺りかなと思い始めていた。
ようやく、「じゃあこれにする?」と水を向けた。
うん、と子供は頷く。
とりあえずこれにしたという感じで、是非ともこれというふうではなかった。
きっと他のものでも良かったと思う。
それでも、その品物が自分のものになると嬉しそうだった。
お母さんの姿を見ると、「これをかってもらったの」と駆け寄って、笑顔で報告している。

発表会の打ち上げにと連れて行ったパンケーキ屋で、食べ物に目もくれず、組み立てに没頭していた。
何となくこれでいい、で選んだスポーツカーが、だんだん、ぼくの大事なものに変わっていく様子を、テーブルを挟んで私は見ていた。

有り余る富。そして店と一体化しすぎている4歳児。

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