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新型コロナウイルス感染症対策の「緊急事態宣言」の本当の意味について

緊急事態宣言とは非常にインパクトのあるネーミングです。外出制限の要請、施設の使用の停止、所有者の同意なしでの医療施設の開設などとなかなか驚く措置である一方、外出制限も「要請」にとどまるし、違反しても「公表」ということで、なんだか実効力のない法令の措置に見えるのですが、実は重要な意味があるのです。

新型インフルエンザ特措法とは?

目的は、「この法律は、国民の大部分が現在その免疫を獲得していないこと等から、新型インフルエンザ等が全国的かつ急速にまん延し、かつ、これにかかった場合の病状の程度が重篤となるおそれがあり、また、国民生活及び国民経済に重大な影響を及ぼすおそれがあることに鑑み、新型インフルエンザ等対策の実施に関する計画、新型インフルエンザ等の発生時における措置、新型インフルエンザ等緊急事態措置その他新型インフルエンザ等に関する事項について特別の措置を定めることにより、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号。以下「感染症法」という。)その他新型インフルエンザ等の発生の予防及びまん延の防止に関する法律と相まって、新型インフルエンザ等に対する対策の強化を図り、もって新型インフルエンザ等の発生時において国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるようにすることを目的とする。」と長い文章で書かれていますが、要は、「新型インフルエンザ等の発生時において国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小」にするということです。

(基本的人権の尊重)
第五条 「国民の自由と権利が尊重されるべきことに鑑み、新型インフルエンザ等対策を実施する場合において、国民の自由と権利に制限が加えられるときであっても、その制限は当該新型インフルエンザ等対策を実施するため必要最小限のものでなければならない。」とあるように、「必要最小限」の制限であることが求められています。そのため、東京都の「東京都新型インフルエンザ等対策行動計画」でも「必要最小限」、「呼びかけ」という文字が並んでいます。

(感染を防止するための協力要請等)(抄)
第四十五条 ・・・特定都道府県の住民に対し・・・生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないこと・・・を要請することができる。
2 ・・・多数の者が利用する施設・・・に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。
3 正当な理由がないのに前項の規定による要請に応じないときは・・・特に必要があると認めるときに限り・・・指示することができる。
4 ・・・要請又は前項の規定による指示をしたときは、遅滞なく、その旨を公表しなければならない。

要は「要請に応じないとき」でかつ「特に必要があると認めるときに限り」「指示」ができる。その上、「公表」のみということです。「公表」も立派な罰則といわれてはいますが、この場合の「公表」は罰則というより、むしろ情報開示のような気がします。

強制力のある罰則は?

罰則といえば、

第七章 罰則(抄)
第七十六条 特定都道府県知事の・・・命令に従わず、特定物資を隠匿し、損壊し、廃棄し、又は搬出した者は、六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
第七十七条 ・・・立入検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は同項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をした者は、三十万円以下の罰金に処する。
第七十八条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が・・・違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。

だけです。

他の規定はあるの?

皆さんの生活に関わるところであれば、(電気及びガス並びに水の安定的な供給・第五十二条)、(運送、通信及び郵便等の確保・第五十三条)、(新型インフルエンザ等の患者等の権利利益の保全等・第五十七条)など、そして、こんな条文すらあります。

(金銭債務の支払猶予等)
第五十八条 ・・・金銭債務の支払(賃金その他の労働関係に基づく金銭債務の支払及びその支払のためにする銀行その他の金融機関の預金等の支払を除く。)の延期及び権利の保存期間の延長について必要な措置を講ずるため、政令を制定することができる。

要は、緊急の場合、借金の支払い猶予はできるけど「賃金その他の労働関係に基づく金銭債務の支払及びその支払のためにする銀行その他の金融機関の預金等の支払」は除くとあるほどなので、非常に優しい法律になっています。

一番の意図は医療(病床)の確保

それほど、国民に優しい法令に読めるので、何も効果がないのでは?と思われるかもしれません。ただ、
(医療の提供等)
第四十七条 病院その他の医療機関・・・は、新型インフルエンザ等緊急事態において、・・・・医療又は医薬品、医療機器若しくは再生医療等製品の製造若しくは販売を確保するため必要な措置を講じなければならない。
(臨時の医療施設等)
第四十八条 特定都道府県知事は、当該特定都道府県の区域内において病院その他の医療機関が不足し、医療の提供に支障が生ずると認める場合には、その都道府県行動計画で定めるところにより、患者等に対する医療の提供を行うための施設(第四項において「医療施設」という。)であって特定都道府県知事が臨時に開設するもの(以下この条及び次条において「臨時の医療施設」という。)において医療を提供しなければならない。
(以下略)

実は医療や物資の確保を目的としている法律ということになります。その中でも、(臨時の医療施設等)第四十八条第3項以降のものが重要です。消防法も、建築基準法も、医療法の規制も全部なくして、都道府県は病院が作れるということです。
いくら有事であっても一応ルールを守るのが、行政です。そうしなければ、かえって緊急事態と理由をつけてなんでもやってしまうことができることになってしまうとかえって力が強い分だけ非常に問題が大きくなります。

病院開設の規制がなくなることにメリットがあるの?

これは、非常に大きなことで、通常、病院を建てるには、建築基準法、廃棄物処理法、医療法などに様々な基準があり、それをクリアしなければならない上に、医療施設の開設許可、病床設置の許可、使用前と開設前に検査、レントゲン装置の検査、など多くの手続きが必要な上に、病床(入院の定員)についても、地域で上限があるのでおいそれと増やすことができません。その上、部屋の用途を変えたり、するにも許可が必要・・・気の遠くなるような検討と作業が必要となります。もちろん医師や看護師の配置も必要ですので採用もしないといけない。。。
それをクリアするために色々調整したりする必要があって、すくなくとも2年程度はかかるものです。
それが、全部なくなってしまうということです。

民間病院の一時的な定員増加も可能

民間病院も病床を増設するには、許可が必要で、病床の許可、使用前、後の検査などなどをしていると、普通に2-3か月はかかります。ところが、期限を区切って、事後の届出でよいことにすると、すぐに定員を増加させることができます。(ただし、通常であっても緊急の定員外の受け入れ(概ね4日以内)ならば良いという規定もありますが、インフルエンザやコロナウイルスの感染症ではあっという間に4日は過ぎるので、あまり使うところではないかと思います。)

まとめ

緊急事態宣言は、結局は入院施設(病床)を増やすというところに趣旨があるところです。(他にも物資の確保や予防接種の措置などもありますが)
いくら入院施設を増やすことができても、医師、看護師などの医療従事者の数は限られていますし、入れる人数にも限界があります。
万が一の時のためにできるだけ、ご自身での感染症への防御をお願いいたします。

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