もういない

 暇つぶしに、ふと思い立って何か新しい作品でも出していないかと開いたウィキペディアで、すでに亡くなったことを知った。
 泣くわけでもなく、ベッドに横たわったまま、天井を見つめた。別に見たくて見た訳ではない。ただ壁に据え付けられたエアコンの汚れが気になった。
 会社に近い部屋を借りて、通勤時間が短くなってから、本をあまり読まなくなった。
 全く読まないわけでは無いが、本に向き合う時間は格段に減った。
 好きな作家は何人かいる。
 大半は死んでいて、生きている人もいるが、新刊が出る度に発売日に買い求めるほどに追い求める熱量はだいぶ薄れていて、気の向くままに、人に勧められるままに、手には取るが、購入して本棚にならべてみる。または積み上げるだけ。
 退屈な大学の講義の間、暇つぶしでノートの余白に、鮮烈な冒頭を書き出したこと。
 見るともなく目に留まった一文であの小説だと解り、柄にもなくバスの隣りに座り合わせた女の子に話しかけたこと。
 公式のホームページの掲示板に書き込んだ一読者の的外れな作品への妄想にも真摯な返信をくれた。
 未だにハイライトを吸っているのは、吉田拓郎や椎名林檎、濱マイクに憧れたからでは無い。
 数年前、恵比寿のカルチャースクールで文章を教えていると知り、参加したかったが、つまらない仕事を捨てるほどの熱意も無く、いつの間にか忘れた。
 ツイッターで、魑魅魍魎に同じ熱量で応戦するあなたはあまり好きじゃなかった。
 ジョナサン・キャロル、村山槐多、知らなかったけど今は好きなもの。
 あなたのいない世界でこれからもある程度多分生きていくことになる。でも日々に追われてこの感傷も、今年の年末頃には薄れていく。
 ただあなたの作品は、これから先もずっとおれの本棚にあるだろうから、気が向いた時には開いてみることにします。

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