4/18 カリフォルニア・サンタクララ郡 (人口189万人)での抗体検査の結果

池田俊也先生から情報を頂いたMedRxiv (査読前の投稿論文を掲載するサイト)のプレプリント論文。

カリフォルニア州サンタクララ郡 (人口189万人、4/18現在の患者数1,870人、10万人あたりほぼ100人で港区の1.4倍程度)で、Facebookなどを通じて募った3,330人(地域・性別・年齢で調整)にSARS-CoV-2の抗体検査(感度90.4%・特異度99.5%)を実施した。50人 (1.5%)が陽性で、郡全体の人口分布で調整した推計の陽性率は2.81% (36人に1人)、推計陽性者数は4.8万人から8.1万人となった。


Eran B, Bianca M, Sood N, et al. COVID-19 Antibody Seroprevalence in Santa Clara County, California. MedRxiv 2020. doi: https://doi.org/10.1101/2020.04.14.20062463
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参加者の集め方

Facebook ad を利用して、住所(郵便番号)や年齢・性別・人種を予めアンケート調査した上で、24時間で成人3,285人を登録した。子供を1人まで同行させられるルールによって、889人の小児も参加登録した。(註: 予め属性を調べて登録するのは、web調査などでよく行われる手法。例えば、「各年代で100人」と決めておき、すでに100人に達した年齢層は募集を停止し、空きがあるところのみ募集する。全年代同じ数にせず、人口分布に応じて数を調整すると、元の集団をよく再現できる)
登録者4,174人から、検査サイトに来なかった (693人)・身分証の不備 (42人)・血液サンプル採取不能 (49人)・データ分析対象外(違う地域に在住など・60人)が除かれ、成人2,718人・小児612人、合計3,330人が分析対象となった。

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抗体検査の方法と、検査キットのパフォーマンス

参加者と検体採取者の接触を最小限にとどめるために、ドライブスルーで実施した。口頭で同意を得た上で、車内にいる参加者から防護服を着た採取者が検体(血液)を採取し、検査を実施した。

検査キットの感度 (感染している人のうち、どのくらいがキットで陽性となるか?)および特異度(感染していない人のうち、どのくらいがキットで陰性となるか?)は、スタンフォード大での実験データと、キットの製造元での実験データの双方で算出した

使用したキットは米国"Premier Biotech"社のもの。サイトを見ると、製造元は中国Hangzhou Biotest Biotechである。

スタンフォード大の実験は、感染者37人・非感染者30人で実施した。キット製造元の実験は、感染者160人・非感染者371人で実施した。それぞれの感染者・非感染者の定義は次に示すとおり (論文から筆者作成)

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二つの実験の結果はこちら。スタンフォード大データでは感度67.6%・特異度100.0%。 メーカー検査のデータでは感度95.6%・特異度99.5%。両者を合算したデータだと、感度は90.4% (197人中178人陽性)・特異度は99.5% (401人中399人陰性)となった。

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幅を持たせた推定では、感度は下限72.1%・上限87.0%。特異度は下限98.3%・上限99.9%となった。

検査の結果

3,330人中、陽性者は50人 (1.5%, 下限1.11%・上限1.97%)であった。これをサンタクララ郡の人口・年齢・性別の分布にあわせて調整すると、2.81% (下限2.24% ・上限3.37%)となる。

以前のオーストリアの調査でも触れたポイントだが、発症率が低い場合は、どんなに感度や特異度が高くても、「私が検査を受けたら陽性だったけど、自分ホントに病気なの?」の陽性的中率が低くなる問題がある。「感度90%だから90%病気でしょ!」とはならない。

今回の特異度99.5%は、「感染していない1,000人中、995人は陰性です!間違って陽性になるのはたった5人です!」という数値。十分な数字に見えるが、「感染していない3,330人」で考えれば、3,330人の0.5%、すなわち16.7人が間違って陽性になる。

全体の陽性者が500人や1,000人レベルなら大きな問題にはならないが、「陽性者50人のうち数十人は偽陽性」となると、無視できないレベルになる。

この点は後述するこの調査への批判的コメントでも触れられているポイントだが、著者らはシナリオ分析において、偽陽性と偽陰性の発生をある程度反映した分析を実施している。偽陰性率が上がれば、見逃しが増える分、実際の有病率は上がる。偽陽性率が上がれば、非感染者が紛れ込んでくる分、実際の有病率は下がる。「企業のデータ」「スタンフォードのデータ」「両者合算」の3つのケースについて、それぞれ調整した陽性率は2.49% (1.80-3.17%)・4.16% (2.58-5.70%)・2.75% (2.01% - 3.49%)となった。

この値をそのまま用いれば、想定感染者数は48,000人から81,000人と、確認されている値の50-85倍となる。しかし著者らも述べているように、検査キットの感度や特異度が変われば、患者数は大きく揺れる。99.5%である特異度が97.9%より低くなっただけで、実際の感染者数は1%を下回り、幅を持たせたときの下限値はゼロ (すなわち、見つかった人は全員偽陰性)になってしまう。

そのため、著者らは他の環境下でも同じようなテストを行うことや、サンタクララで時期をおいて再調査を実施することが重要と述べている。

研究の限界(と批判的コメント)

・Facebookで参加者募集→ドライブスルー検査で実施の手法をとったため、「FBのアカウントを持っていてクルマを持っている人」 (白人の15-64歳メイン)に参加者が偏る

調査サイトに来られるくらい健康な人でないと参加できない(感染率が低く見積もられる)。あるいは、(オーストリア調査でも指摘したように)何らかの症状がある人がこぞって参加を希望するので、感染率が高く見積もられる。

・調査に使用した検査キットは、現状ではFDAの承認を受けていない。(ドイツで言及された、交差反応に関してはとくに言及なし)

以上が著者らが示した限界である。これに加えて、以下のような批判的コメントが公開されている。

詳細は省略するが、大きく分けて3点に言及がある。1点目は先ほど述べた「偽陽性の紛れ込みの問題」で、2点目は対象者の代表性の問題(感染疑いの強い人ほど調査に参加しやすくなる。そして、疑いの強い人が別の「疑いの強い人」を誘う)。さらに3点目として、「著者らの結論のように感染者が多い(すなわち、致命率が低い)ならば、相当早く感染が広がらない限り、イタリアなどで観測されたような死亡増加はみられないはず」という点を主張している。

限界点をある程度認識しつつ、複数地域で調査が進んでいくのはむしろ望ましいこと。先行調査 (ドイツ・オーストリア・CDC)の結果も、注視していきたい。


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