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公民科教員の本棚(マンガ編)

公民科教員の悩みの種は、とにかくカバーすべき分野が多いことではないかと思います。同じ教員が倫理も政治経済も教えないといけないのは、正直かなり大変……
ということで、私が読んだ or 今後読もうと思っている「授業準備に役立てられる本」を分野別にご紹介します。今回はマンガ編です。マンガだって授業に役立てられるんです。一人でも多くの教員の方や教員志望の方のご参考になれば幸いです。
※随時追記します。

『健康で文化的な最低限度の生活』
今年5月時点で8巻まで出ていて、現在も連載中です。福祉事務所生活課に配属された新人ケースワーカーの目を通して、生活保護のリアルを描き出す作品です。公民科の元同僚の先生に全巻貸していただいたのですが、一気に読んでしまいました。生活保護制度のあり方はもちろん、生活保護に頼らざるをえない人の複雑な事情、ケースワーカーという仕事のあり方など様々なことを考えさせられます。次巻からの「貧困ビジネス編」も興味深いところです。貧困対策のあり方を考えるためには、『生活保護と貧困対策』もおすすめです。

『インベスターZ』
作者は『ドラゴン桜』でも知られる三田紀房さんで、全21巻のシリーズです。主人公が投資部に入って学校の運営資金を稼ぎ出すというぶっ飛んだ設定ですが、実際の投資に役立つエピソードも多数盛り込まれていて、投資のイメージを広げてくれます。日経STOCKリーグなどは有名になりましたが、授業で投資や株式についてきちんと扱う機会はまだ少ないので、こういう作品からイメージを膨らませてみるのはどうでしょうか。

『逃げるは恥だが役に立つ』
全11巻のシリーズで(ちょうど先月に完結しました)、TVドラマでも一躍有名になりました。森山みくりが津崎平匡の家事代行サービスを始めるところから、契約結婚へと展開していきます。「やりがいの搾取」の話なども登場するので、政経や倫理でアンペイドワークの問題を扱う時にこの作品を紹介しています。純粋なラブコメディとしても楽しめますが、労働や家族のあり方を考えるためのヒントに溢れている作品です。

『銀の匙』
こちらも今年完結した全15巻のシリーズ。北海道の農業高校を舞台とした学園漫画です。大学時代の指導教員がおすすめしていたので読んだのですが、コミカルなエピソードだけでなく農業の可能性や厳しさを実感させられる話も多いです。2年目に突入した辺りから時間の流れが速くなりますが、主人公の八軒が起業するくだりはなかなか面白いです。職業高校のイメージが膨らむ作品です。

『やがて君になる』
2019年に全8巻で完結した作品で、5巻の途中までアニメ化されています。「好き」が分からない小糸侑と「好き」を受け入れられない七海燈子という2人の女子高生を中心に展開される百合漫画で、「東大生に人気のマンガ」としても話題になりました。私は生徒から薦められてアニメから入ったところ、すっかりハマってしまいました。「”好き”は束縛する言葉」という燈子の言葉の何と重いことか。アイデンティティとペルソナ、演技としてのコミュニケーション、無意識、セクシュアリティなど様々なテーマに通じる名作といえるでしょう。昨年度の倫理の授業でこのアニメを視聴した時はクラスが騒然となりました(笑)

『ここは今から倫理です』
倫理の教員が主人公という珍しい設定の作品で、現在も連載中です。今年4巻が出ました。私はまだ1巻しか読んでいないのですが、生徒にもおすすめされました。エピソード自体は俗っぽいものも多いですが、「哲学者の知恵で解決」というようなハウツーに留まっていないのはこの作品の優れた点だと思います。こういうアプローチから倫理に触れてみるのも面白いのではないでしょうか。

『マンガは哲学する』
最後に、マンガの可能性を拓いてくれる一冊を。永井均の著作は多数ありますが、この本は様々なマンガの分析を通じて「自己」「時間」「意味」などの哲学的課題にアプローチしています。前書きでは「私がマンガに求めるもの、それはある種の狂気である。」とも言っています。掲載されている作品は古いものが多いですが、吉田戦車の作品の面白さはこの本で初めて知りましたし、『半神』もこの本の影響を受けて授業で活用しています。

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