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公民科教員の本棚(青年期編)

公民科教員の悩みの種は、とにかくカバーすべき分野が多いことではないかと思います。同じ教員が倫理も政治経済も教えないといけないのは、正直かなり大変……
ということで、私が読んだ or 今後読もうと思っている「授業準備に役立てられる本」を分野別にご紹介します。今回は青年期編です(今でも交流がある元同僚の倫理の先生が「青年期の課題は倫理でも雑に扱われがちだけど、きちんとやった方が絶対に良い」と主張されていたので、私の現社や倫理の授業でも青年期はかなり力を入れています)。一人でも多くの教員の方や教員志望の方のご参考になれば幸いです。
※随時追記します。

【最初の一冊】『じぶん・この不思議な存在』
昨年度の高1倫理は、この本の議論を紹介しながら「自分らしさとは何か?」「単一のアイデンティティを確立することは可能か?」という自己論を扱うところから始めました。入試国語で出題されることも多く、「読んだことがある」という生徒も何人かいました。20年以上前の本ですが、アイデンティティ論を考える出発点としては最適の本ではないでしょうか。

【大学へのステップアップ】『反コミュニケーション』
少し難しめですが、このシリーズの中で最も強くおすすめしたい一冊です。「分かり合うコミュニケーションは本当に望ましいか?」という問いについて、様々な哲学者や社会学者の思想をもとに考察を深めていきます。特に、ジンメルやゴフマンのコミュニケーション論は響く生徒が多い印象です。中高生は人間関係に悩むことが特に多いため(自分もそうでした)、教員の側もコミュニケーションのあり方について語る言葉を持っていたいと思います。演劇の立場からコミュニケーションについて論じた『わかりあえないことから』は本書よりも読みやすいので、併せておすすめします。

【中高生にもおすすめ】『夢があふれる社会に希望はあるか』
進路指導はしなければならないが、「キャリア教育」には何だか違和感がある、という高校の先生は多いのではないでしょうか。この本は、「夢を強迫する社会」のあり方に警鐘を鳴らし、より現実的な将来像の描き方をアドバイスしてくれています。児美川先生の本はどれも読みやすいですが、特にこれは地に足の付いた一冊ではないかと思います。

【見方を学ぶ】『選択の科学-コロンビア大学ビジネススクール特別講義』
中高生は科目や部活・受験校など様々なレベルでの選択を迫られますが、「より良い選択をするには?」ということを改めて考える機会はなかなかないのではないでしょうか。著者は「選択と意志決定における心理」を専門とする大学教授ですが、この本はジャムの販売実験やお見合い結婚などの豊富な事例をもとに、より良い選択をするためのヒントを提示してくれています。個人的には、早い時期に出会いたかった一冊です。アイエンガー教授のTED講演やNHK「コロンビア白熱教室」シリーズもおすすめです。

【大学レベルの一冊】『疾風怒濤精神分析入門』
精神分析というと、高校倫理ではフロイトとユングの解説が中心ですが(実際にはフロイトの防衛機制をちょっと紹介する程度ではないでしょうか)、この本ではラカンの位置づけをフロイトとも比較しながら解説してくれています。塾の同僚の先生におすすめされた一冊ですが、これを読んで精神分析に対するイメージがだいぶ変わりました。『人はみな妄想する』も、時間のある時にチャレンジしてみたいと思います。

【中高生にもおすすめ】『夜と霧』
こういう記事で原著を紹介するのは卑怯な気もしますが、どうしてもこの一冊は挙げておきたいと思います。フランクルが自らの収容所での体験をもとに生きる意味を考察した名著ですが、きちんと読む機会は意外と少ない気がします。「我々は人生に何を期待しているか」から「人生は我々に何を期待しているか」への転換が必要、という著者の主張は改めてじっくり考えてみたいものです。

【番外編】『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』
2019年に話題になった本ですが、最近ようやく読むことができました。イギリスの中学に通う著者の息子のエピソードを通じて、アイデンティティや他者理解について考えさせられるノンフィクションです。個人的には、「誰かの靴を履いてみること(Put oneself in someone's shoes)」という表現が印象に残りました。同じく2019年に出版された『アイデンティティが人を殺す』も、似たような問題意識のもとで書かれている気がします。

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