公民科教員の本棚(現代社会の課題編)
公民科教員の悩みの種は、とにかくカバーすべき分野が多いことではないかと思います。同じ教員が倫理も政治経済も教えないといけないのは、正直かなり大変……
ということで、私が読んだ or 今後読もうと思っている「授業準備に役立てられる本」を分野別にご紹介します。今回は現代社会の課題編です(少子高齢化関連の新書に限定しました)。一人でも多くの教員の方や教員志望の方のご参考になれば幸いです。
※随時追記します。
【最初の一冊】『未来の年表 - 人口減少日本でこれから起こること』
2017年に出版されて話題になった新書です。少子高齢化が問題であることは小学生でも知っている話ですが、この本は日本社会の今後の変化をリアルに(やや恐怖を煽るような書き方で)描き出しています。適切な危機感を持つために、ザッと読んでおいて損はない一冊だと思います。ちなみに、続編の『未来の年表2』『未来の地図帳』はまだ読めていません…
【見方を学ぶ】『人口学への招待 - 少子高齢化はどこまで解明されたか』
「合計特殊出生率」や「平均寿命」とは、一体どのような意味を持つ指標なのでしょうか。この本は、そうした人口統計の見方を分かりやすく紹介してくれています(生命表の見方などはこの本で初めて知りました)。やや古い本ですが、未だにこれより分かりやすい人口学の入門書はない気がします。
【穴になりがちな分野】『地方消滅 - 東京一極集中が招く人口急減』
首都圏に住んでいると、教員の側も生徒の側も都市と地域の格差を実感するのは難しいものです。2014年に出された増田レポートの中で「消滅可能性都市」という言葉が用いられ話題となりましたが、地方の人口減少問題にどう対処すべきか考える出発点になると思います。『人口減少時代の都市』と併せて読みたい一冊です。ちなみに、「ふるさとの看取り方」というTEDの講演もおすすめです。
【穴になりがちな分野】『若者と労働 -「入社」の仕組みから解きほぐす』
少子高齢化の問題を考えるうえで、雇用システムについての理解は避けて通れません。この本は、欧米の「ジョブ型雇用」と日本の「メンバーシップ型雇用」を対比したうえで、日本の雇用慣行の特殊性を鮮やかに分析しています。濱口桂一郎さんの新書は多数ありますので、これ以外もおすすめです。なお、日本型雇用の成立過程については『日本社会のしくみ』という約600ページの新書がありますので、チャレンジしたい方はそちらも是非。(私は積ん読状態ですが…)
【大学へのステップアップ】『仕事と家族 - 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』
豊富なデータをもとに、出生率低下の原因や女性の労働力参加の現状を分析しています。欧米諸国との比較も(単なる欧米礼賛ではなく)多角的になされており、読後の充実感がある一冊です。新書の中では硬派な部類に入るので、上述の『若者と労働』と併せて読むと理解が深まるでしょう。
【穴になりがちな分野】『人口減少と社会保障-孤立と縮小を乗り越える』
雇用と同じく社会保障も重要なテーマですが、これまた教えづらい単元ではないかと思います。この本は、社会保障システムを社会構造の変化の中に位置づけたうえで、日本の社会保障を「全世代型」に転換することの必要性を説いています。人口問題を家族・雇用・社会保障システムと一体的に捉えることの重要性を改めて実感できるのではないでしょうか。
【見方を学ぶ】『子どもの貧困 - 日本の不公平を考える』
日本の子どもの7人に1人が「相対的貧困」の状態にあることを明らかにし、2008年当時はあまり重視されていなかった子どもの貧困について問題提起をした本です。「子供の貧困をどう測るか」「子供にとっての必需品とは何か」など、重要な論点を多数提起しています。本書の問題提起を受け、2010年代には子どもの貧困対策の関連書籍も多数出版されました(子育て支援の政策効果について論じた『子育て支援と経済成長』は特におすすめです)。続編の『子どもの貧困Ⅱ』も出版されています。
【見方を学ぶ】『AI時代の新・ベーシックインカム論』
近年注目されているベーシックインカム(BI)ですが、政経の資料集などでも特集ページが組まれるようになり、関連書籍も増えてきました。「脱労働社会」をどのように構想するか、という視点からBIの実現可能性や思想的位置づけについて解説している本です。同じ光文社新書の『ベーシックインカム入門』も、10年以上前の本ですがおすすめです。
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