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公民科教員の本棚(宗教と科学編)

公民科教員の悩みの種は、とにかくカバーすべき分野が多いことではないかと思います。同じ教員が倫理も政治経済も教えないといけないのは、正直かなり大変……
ということで、私が読んだ or 今後読もうと思っている「授業準備に役立てられる本」を分野別にご紹介します。今回は宗教と科学編です。一人でも多くの教員の方や教員志望の方のご参考になれば幸いです。
※随時追記します。

【最初の一冊】『教養としての宗教入門 - 基礎から学べる信仰と文化』
「濃い宗教」「薄い宗教」の対比など、宗教に対する視点を広げてくれる本です。宗教の総論として使い勝手が良い一冊なので、宗教に関する小論文課題で困っていた高3の生徒に本書を読むようアドバイスしたこともあります。個々の宗教の解説はそこまで詳しくないので、三大宗教の成立過程や教義のポイントをより詳しく知りたい場合は、同じ著者による『聖書・コーラン・仏典』もおすすめです。

【辞書代わりの一冊】『なんでもわかるキリスト教大事典』
クリスチャンでない人がキリスト教を理解するのにうってつけの本。「イエス・キリストって神様のことですか?」などの基本的なQ&Aから入り、様々なキリスト教の教派についても詳しく解説してくれています。ページ数はやや多めですが、これだけの情報量が文庫本にまとまっているのはありがたいです。世界史にも倫理にも活用できる一冊ではないでしょうか。

【見方を学ぶ】『プロテスタンティズム - 宗教改革から現代政治まで』
世界史や倫理では避けて通れない宗教改革ですが、この本はアウクスブルクの和議以降のプロテスタンティズムの展開についても解説しています(宗教改革に至る経緯を解説した前半も勉強になりますが)。プロテスタンティズムの中でも個人の信教の自由を認めるか否かで差異があったこと、現代のドイツ社会やアメリカ社会の根本にプロテスタンティズムの思想があること、など多くの気づきを得られる一冊です。

【穴になりがちな分野】『となりのイスラム - 世界の3人に1人がイスラム教徒になる時代』
イスラーム教については教科書の説明も薄く、成立過程と教義のポイント(六信五行)をサラッと解説しておしまい、という先生も多いのではないでしょうか。本書は、イスラーム教の見方を知りムスリムとの付き合い方を考えるための出発点として最適だと思います。近年の日本でもハラール・ビジネスが注目を集めていますが、ハラール認証を広げることが果たしてイスラーム教への理解に繋がるのでしょうか。そんな「他者理解」の困難さについても考えさせられる一冊です。

【見方を学ぶ】『科学者はなぜ神を信じるのか - コペルニクスからホーキングまで』
科学革命については「宗教が科学に取って代わった」という説明が一般的だと思いますが、果たしてその説明で十分なのでしょうか。この本は物理学者が神をどのように捉えてきたのかについて時系列で解説していますが、本書を読むと「神の居場所」が狭められていく過程が必ずしも単線的ではないことに気付かされます。この本の内容をジグソー法に活用した世界史の授業案も見たことがあるので、様々な活かし方ができる一冊だと思います。科学史から科学哲学への流れをより詳しく理解するには、『科学哲学への招待』もおすすめです。

【中高生にもおすすめ】『科学と非科学 - その正体を探る』
講談社PR誌『本』の連載をもとにしたサイエンスエッセイで、2019年の東大入試(現代文)の出典としても話題になった文章です。本書は、様々なエピソードを紹介しながら科学の信頼性と限界を描き出し、「科学/非科学」という単純な二分法に疑問を投げかけています。「リスクとどう向き合うか」という問題が重要になっているこのような時期だからこそ、じっくり読みたい一冊です。

【最近の新書から】『ルポ 人は科学が苦手 - アメリカ「科学不信」の現場から』
科学的知識があれば、他者と分かり合うことは可能なのでしょうか。本書は、科学的知識が多い方がかえって異なる立場の人と分かり合えなくなるという研究結果を紹介したうえで、そうした対話の可能性を閉ざしてしまう(インテリの)人々を“賢い愚か者”と表現しています。終章ではアメリカにおけるサイエンスコミュニケーションの新たな試みも紹介しており、科学知をめぐる対話のあり方について考えさせられる一冊です。

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