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公民科教員の本棚(思想編)

公民科教員の悩みの種は、とにかくカバーすべき分野が多いことではないかと思います。同じ教員が倫理も政治経済も教えないといけないのは、正直かなり大変……
ということで、私が読んだ or 今後読もうと思っている「授業準備に役立てられる本」を分野別にご紹介します。今回は思想編です(哲学関連の書籍は概説書だけでも大量にあって目眩がするのですが…)。一人でも多くの教員の方や教員志望の方のご参考になれば幸いです。
※随時追記します。

【最初の一冊】『図説・標準 哲学史』
タイトルに「標準」とある通り、バランスの良い西洋哲学史の概説書です。各思想家のポイントが数ページでまとまっており、全体のページ数も多くないのがありがたいところです。同じ著者の『哲学マップ』も見取り図を示してくれていて分かりやすいので、併せて読むと理解が深まるでしょう。
これでも取っつきづらい場合は、飲茶『史上最強の哲学入門』から入る手もあると思います。

【辞書代わりの一冊】『哲学用語図鑑』
哲学の主要概念について、見開き1ページで解説してくれている事典です。図が可愛く視覚的に理解しやすいので、私も大いに活用させてもらっています。同じシリーズで『続・哲学用語図鑑』『社会学用語図鑑』も出版されていますが、こちらもおすすめです。(2020年5月には『心理学用語大全』も出るそうです)

哲学者を時系列で紹介するだけではないユニークな概説書も、次々と登場しています。この本は、「魂の哲学」「意識の哲学」「言語の哲学」「生命の哲学」というストーリーで哲学史を描き出すことを試みており、教科書的な学習だけでは掴みづらい系譜を理解できる一冊です。他にも、ユニークな概説書としては戸田山和久『哲学入門』などもあります。(400ページ近くあるので、実はまだ読み切れていないのですが…)

【中高生にもおすすめ】『Jポップで考える哲学 ー 自分を問い直すための15曲』
15曲のJ-POPから哲学的思考へと誘ってくれる、意欲的な一冊。分析が雑だなと思う箇所も若干ありますが、個人的には非常に好きな一冊です。自己論・他者論から議論を組み立てているのも優れている点だと思います。実際に、昨年度の倫理の授業ではJ-POPを何曲か取り入れてみました。(例えば、1学期の導入では「私以外私じゃないの」の歌詞を分析してもらったうえで、「本当に私以外私じゃないのか?」という記事を読みました)
著者は大学でもJ-POPを取り入れた授業をされているとのことなので、続編に期待。

【見方を学ぶ】『武器になる哲学 - 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50』
「哲学って何の役に立つの?」という問いに対しては色々な答え方が考えられますが、この本は徹底して「役に立つ」という立場を取り、ビジネスにおいて「役に立つ」概念を解説しています(中には心理学寄りの概念もありますが)。最初の部分で時系列的な思想史を批判しており、「ビジネス書」としての側面が強い本ではありますが、哲学のキーコンセプトの活かし方は実感できるのではないかと思います。

【大学へのステップアップ】『無限論の教室』
野矢茂樹や永井均を読んで哲学に興味を持った大学生は多いのではないでしょうか。『哲学の謎』も名著ですが、ここでは『無限論の教室』の方をおすすめしておきます。数学で当たり前のように登場する「無限」という概念を一旦壊して再構成していく、スリリングな一冊です。軽やかな文体に反して内容は本格的ですが、意欲的な高校生ならチャレンジできるのではないでしょうか。

【見方を学ぶ】『考えるとはどういうことか - 0歳から100歳までの哲学入門』
「哲学を学ぶこと」と「哲学すること」の違いを実感できる一冊です。著者は哲学対話の伝道師でもあり、本書の中でも哲学対話の考え方が紹介されています。学校現場では問いの立て方をきちんと習う機会が少ないので、こういう本を通じて疑問の持ち方を学んでおくことは大いに意味があると思います(哲学対話を実践されている現場の先生が「倫理は実技科目である」という言い方をされていたのが、個人的には好きです)。
同じく哲学的思考を学べる本としては、伊勢田哲治『哲学思考トレーニング』もおすすめです。

【最近の新書から】『世界哲学史』
「○○史講義」シリーズもそうですが、近年のちくま新書のシリーズものは最新の研究成果を踏まえて新たな学問の見取り図を示す意欲的な試みを行っています。このシリーズは2020年8月まで毎月1冊刊行予定とのことですが、「西洋哲学史」ではなく「世界哲学史」と銘打っている点に矜持を感じます。残念ながら私はまだ読めていないのですが、いずれ腰を据えて読みたいなと思っているところです。

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