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【文科省生成AIガイドライン】小学校5年生の社会科でのPerplexity活用授業実践:Practical Application of Perplexity in Social Studies Class at Elementary School (5th grade)

1. はじめに

先日、私が担任する小学校5年生の社会科の授業で、Perplexityを活用した興味深い経験がありましたので、それを共有させていただきます。

2. Perplexityとは

https://www.perplexity.ai/

Perplexityは、対話型のAI検索エンジンで、検索内容についてAIがインターネットを検索し、その結果に基づいて検索結果を表示してくれます。 Perplexityは、ChatGPTと比較して、出典ソースを明記することができ、時事性のある質問にも正しく回答してくれる点が特徴的です。以下は、Perplexityの特徴についてのまとめです。

  • 出典ソースを明記: 応答結果の文章に対し、出典となるソース情報も明記してくれる点が特徴的です。

  • 時事性の高い回答: 最新の話題にも回答することができるため、時事性のある質問にも正しく回答してくれます。

  • 引用元が明確: ChatGPTと異なり、情報の出どころの引用元(ソース)が明確なのと、より深く知りたい場合のリンク先が掲載されているため、信頼性が高い印象があります。

  • ログイン不要: ChatGPTように、ログインしなくとも利用することができるため、初めての方のハードルが低いと感じる人もいます。

3. 実際の授業でのやりとり

単元は、「自然条件と人々のくらし」で、野辺山原の野菜の作付面積の変化について学習していました。グラフを見ていると、はくさい(Y軸の上から2番目)やレタス(Y軸の1番下)などの野菜は2000年になって増えている一方で、大根(Y軸の1番上)は作付面積が減っていることに気づきました。

野辺山原(南牧村)の野菜の作付面積の変化
*データ元は農林水産省ですが、教科書会社の著作物のため、一応マスク処理しています。Y軸は上から、だいこん、はくさい、キャベツ、レタスとなっています。オレンジが1960年、紫が2000年の値になっています。

その中で、ある子から興味深い質問が飛び出しました。

「先生、野辺山原では、なぜジャガイモを作っていないんですか?」

という疑問です。授業をしていると、時間内では解決が難しそうな質問が飛び出すことは間々ありますね。これまでは、受け流す(ごめん)ことも多かったのですが、今回はあるアイディアが浮かびました。

この質問を機に、クラス全体で野辺山原でジャガイモが作られていない理由について話し合いを行いました。

「寒いからじゃない?」
「気候だけじゃない理由があるかも!」
「ジャガイモの栽培方法が難しいかもしれない。」
「高地だからかな?」

といった具合に、気候条件や地域の特性など、子供たちから様々な意見が出されました。議論は進んでいきましたが、なかなか着地点に辿り着けない状況でした。

そこで、私はPerplexityに「野辺山原でジャガイモを生産していない理由は何ですか?考えられる理由を小学生にも伝わる言葉を使って教えて下さい。」と質問してみることにしました。Perplexityは思考や判断、表現の面が得意であることがわかっていたので、児童たちが出せなかった視点やアプローチを期待していたのです。

Perplexityに質問した結果

すると、AIから、以下のような回答が得られました。中には子供たちが気づかなかった新たな視点やアイデアが含まれていました。

  • 気候が適していない: 野辺山高原は、標高が1,300mあり、1年の平均気温は8度前後で、真夏の昼間でも30度を超えることはほとんどありません[1]。ジャガイモは、気温が20度から25度程度の範囲で育つのが適しているため、野辺山高原の気候では生産が難しいと考えられます。

  • 他の作物が適している: 野辺山高原では、サラダに使われるレタスやキャベツなどの高原野菜が作られています[1][4]。これらの野菜は、高冷地の気候に適しているため、ジャガイモよりも生産がしやすいと考えられます。

  • 需要が少ない: 野辺山高原でジャガイモを生産しても、需要が少ないため、生産するメリットがないと考えられます。

特に、最後の「需要が少ない」は、新たな視点でした。他にジャガイモを作るのに適した土地があるのであれば、そちらの需要が大きくなるのは当然考えられることです。しかし、教科書で野辺山原のことだけを学んでいる場合、なかなかその視点に立つことは難しいです。子供たちも驚きながらも、その回答に大いに納得し、新しい気づきを得たようでした。

さらに、同じ質問をGoogleでも検索してみると、意図した回答が得られず、野辺山原や南牧村の歴史について記述された文献がトップに表示されるだけでした。これらの文献を読んでいけば、あるいは答えが見つかるかもしれませんが、それにはたくさんの時間と労力を要します。

「野辺山原でジャガイモを生産していない理由は何ですか?」のGoogleの検索結果

これを通じて、子供たちにはPerplexityのような生成AIが、思考・判断・表現のような、考える時の手助けや新たな視点を得るのに役立つ一方で、Google検索は知識・技能の面に長けていることを紹介しました。(もちろん、どちらともきちんと情報の真偽を確認する必要があることはおさえました。)

4. 文部科学省のガイドラインでは

2023年7月4日、文部科学省は「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドラインの作成について」という通知を、全国の教育委員会、都道府県知事、附属学校を有する国立大学などに向けて公表しました。

主に対話型の文章生成AIに焦点を当て、学校関係者が現時点でのAI活用に適したかどうかを判断する際の参考資料として作成されました。そこでは、活用が考えられる例として、以下のように示されています。

グループの考えをまとめたり、アイデアを出す活動の途中段階で、生徒同士で一定の議論やまとめをした上で、足りない視点を見つけ議論を深める目的で活用させること

初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドラインより

わかりやすい解説動画があったのでリンクを載せておきます。

5. おわりに

先の授業実践では、このガイドラインに示された活用が考えられる例にぴったり合っていたと感じています。学習内容に基づいた議論の進行や、足りない視点をAIを介して導き出し、深めることができました。Perplexityが提供した回答には、児童たちが考えつかなかった視点や新たなアイデアが含まれていました。それにより、子供たちが興味を持ち、学びの深化が促されたと思います。

ガイドラインは「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なもの」とされていますが、今後も広島AIプロセスなどの進展を踏まえ、改訂が機動的に行われるとのことです。私たち教育者は、これらの進展に注目し、AIの利用に適切な指針を持ちながら授業を展開していく必要があると感じました。

児童たちがAIを使いながらも自らの考えや判断力を養っていくためには、ガイドラインの指針に沿った授業づくりが重要だと考えます。AIの活用は教育の領域に新たな可能性をもたらしていますが、その利用方法を適切に導き出すためには、今後も教育現場での実践事例とガイドラインの動向を継続的にキャッチアップしてく必要があります。

授業を通じて、子供たちはPerplexityの利用価値を実感し、異なるツールを使い分ける重要性に気付いたようです。そして、彼ら自身の思考とAIの活用を組み合わせることで、新たな学びや気づきを得ることができたことに満足しているようにも思いました。

これからも、子供たちが自主的に学びを深め、教師と共にAIを有効活用できるような授業を展開していきたいと思っています。


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