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うるう年よまた4年後に


絵本『うるうのもり』より


脚本・演出を小林賢太郎が手掛ける、小林賢太郎プロデュース作品(KKP)#8、『うるう』が2024年2/20〜2024年5/31までYouTubeチャンネルで無料公開されていた。

ツイッターでちょくちょくお話や宣伝をしていたのもあって、数人の方が「観ました」とお伝えしてくださったので『うるう』を中心にお話し、小林賢太郎演劇作品についても少し話そうと思う。

基本的に『うるう』を観た人向けの記事では有るが、まず最初にうるうのあらすじを引用しておこう。

『 う る う 』

「ひとりになりたがるくせに、寂しがるんだね」

主人公は、世界からたったひとり余ってしまった人間「うるうびと」のヨイチ。森にひとりで暮らすヨイチは、ある日、8歳の少年マジルと出会う。友達になりたいとせがむマジルの願いを、ヨイチは受け入れることができない。ヨイチが友達をつくらない本当の理由とは……。

舞台『うるう』を、YouTubeに公開します(無料記事)


わたしはDVDで小林賢太郎作品を追っている身だが、生の観劇をしたことはない。しかしまず『うるう』という演劇は4年に1度、うるう年がある年にしか公演されていなかったこと、パフォーマー小林賢太郎が出演した最後の舞台であったこと、そして中々円盤化がされていなかった、幻の作品だった作品という情報をここに置いておく。

『うるう』に行ったことがある父親に生観劇を自慢され、円盤化されない特別さをあらすじを読んで理解はしつつも、それでも観たいと思っていたところ、2020年に円盤化され驚きながらも購入し作品を観て心を震わせたことを覚えている。
…なのでその『うるう』がYouTubeチャンネルで無料公開されると知り、かなり衝撃を受けたのは確かだ。あの『うるう』が!?自分にとっても特別な作品だ、これが無料公開されるなんて少し悔しい……と思いつつ今年がうるうの初演から数えて『4』度目のうるう年という特別な年。
沢山の人にヨイチとマジルの物語を知ってほしかったのでちょくちょくRTをしたりぽつりぽつりと語ったりして、押し付けるではなく、もしよろしければ、興味が湧けば、見て欲しいとひっそりと宣伝する日々を送っていた。そんな日々をやっていたのも不思議だし、終わったのも不思議だし、観てくださった人が声をかけてくださったのが嬉しくて、こうして記事を書いている。

『うるう』の劇の特色として、舞台に立って演じているのは小林賢太郎が主であり、他に演者は出てこない。あとは横にチェロ弾きの徳澤青弦さんがいて、演奏している。珍しいタイプの劇だろう。

まずわたしが小林賢太郎作品の特色として好きなのがその舞台でできることをできることをとにかく詰め込んでいる、というのがある。言葉遊びはもちろん、チェロの音に合わせた台詞、チェロでできる演出、歌ネタ、影絵、パントマイム、身振り手振り、映像、知識、計算。できることすべてを使って「舞台」「世界」を作っている。そんな小林賢太郎の舞台がわたしは大好きなのだ。

そもそもうるうの舞台は少数で構成されている。大きく舞台でパフォーマンス/演技をしているのが小林賢太郎、それなのにとても賑やかな舞台なのだ。
ヨイチから始まり、マジル、グランダールボ、ヨイチのいじめっ子、マジルの学友たち、クレソン先生、暦さん、マカ、アルブースト……………魅力的な人間と生き物が沢山出てくる、賑やかな舞台。

初めて観たときは小林賢太郎の、ヨイチの、一人の劇だ。と思ったが、最後にマジルは舞台に出てくる。そこで、「ああ、演者はずっと一人ではなかった」ということがわかる。その演出も素晴らしい。

うるう、において言われる「森は数を数えない」というのはかなり本質を突いている。数を数えないならば、余りは存在しない。それは一つの真理だ。
人間である限り違いが存在する。人と接する限り、「何か」がある。余りができてしまうかもしれない。それでも、ヨイチは寂しいのだ。そういう、割り切れなさの話でもあり、そういう割り切れなさが人間だな、とわたしは思うのだ。ヨイチという、人間のお話。

森は数を数えない、余りの一は存在しない。余り一が存在しなければ、余一、は存在しない、と思うのだ。人間が人間だからヨイチが存在する。
これはヨイチが余ってほしいという話ではなく、ヨイチの存在は人間を体現している、という話だ。

数を数えない、こと以外に余りが存在しない方法は作中に提示されていて、それは暦さんのように「解釈」「捉え方」「考え方」になる。それによって、余りはなくなり、何にでもなる。
だから『うるう』は同音異義語のネタが特に多いんじゃないかな…と勝手に思っている。小林賢太郎は同音異義語をよく使うのでたまたまかもしれないし、そうじゃないかもしれない。あくまでこれはわたしの「解釈」だ。


4年に1度の物語。また巡り合う物語。うるう年は絶対に4年に1度来るのだから。

誰かの中にヨイチとマジルが、あの世界が、音が少しでも残っていて、少しでも思い出すことがあったらわたしは勝手に嬉しく思う。


小林賢太郎演劇作品『うるう』のBlu-rayは購入できる。今回もし気に入った方、この記事を見て気になった方がいればお求めできる。

そして、うるうにはもう一つの物語がある。
小林賢太郎が絵と文を描いた、マジル視点の絵本、『うるうのもり』だ。こちらも、興味がある方におすすめしておこう。

7/12追記
うるうで外せない徳井清弦さんの、うるうのサントラリンクを貼り忘れていることに気づいた。絶対にこの舞台に外せない要素なのに申し訳ない……。舞台の音、マジルの音、もし忘れられないのならばここに。


あとこれはうるうを見た人におすすめするかは正直悩むのだけれど、小林賢太郎の1人コント舞台にて、もうひとりのうるうびとの話がコントとして存在する。もし興味があったら無料で観れるため観てほしい。
わたしはうるうびと→うるうの順で観たのですがうるうから観た人にとってはちょっと凄まじいかもしれない。
Potsunen『THE SPOT』「うるうびと」
1:23:40以降から


この記事の後半としてYoutubeで観れる小林賢太郎演劇作品についての記事を軽く作った。よろしければどうぞ。

ドクダミは万病に効く。

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