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子どもが「宿題やりたくない」と言ったら?子を伸ばす親の“応え方”ーメンタルトレーニングを専門にするスポーツドクター辻秀一先生に聞くー【後編】

atama+ 教育コラムとは
atama plusは教育を通じて社会を変え、自分の人生を生きる人を増やすことを目指しています。このコラムでは、子どもたちが「社会でいきる力」を伸ばすために役立つ情報を、さまざまな観点からお届けします。

誰かと比べることなく、ありのままの自分の中に幸せを見つける。そんな「自己存在感」を持てると、大人も子どもも自分らしく強くしなやかに生きられるといいます。

前回に引き続き自己存在感について解説してくださるのは、スポーツドクターで産業医の辻 秀一先生。独自メソッドで多くのアスリートやビジネスパーソンのメンタルトレーニングに携わってきた経験から、子どもの力を引き出す「声かけ」の心得も提案しています。

今回は子どもの自己存在感を育むために、親ができることについて聞きました。

“期待”より“応援”、“アグリー”より“アンダースタンド”

ー前回、自己存在感や非認知スキル(自分の内面を見つめる能力)の大切さについて伺いました。これらを踏まえて、子育てで意識した方がいいことを教えてください。
辻:一つは、子どもに「期待」ではなく「応援」をすることです。
期待は勝手に結果や見返りを求めることで、子どもにプレッシャーを与えます。一方で、どんな状況でも子どもを信じて応援する親の存在は、子どもの自己存在感に繋がるんです。

もう一つ、子どもに対してアグリー(同意・賛成)よりアンダースタンド(理解)してあげることも大切です。

アグリー(賛成)かディスアグリー(反対)かという認知的な思考だけで動いていると、子どもが親とちがう考えや感情を言葉にした時に、「それはおかしいでしょ」と否定したくなってしまいます。
大事なのは是非を問うのではなく「そうだよね」と言ってあげること。それが子どもの自己存在感の芽を育ててくれます。なぜなら、感情や考えはすべての人の自由であり、生きる尊厳でもあるのです。

子どもの「感情」を頭ごなしに否定しない

ー「宿題やりたくない」など、子どもがネガティブな発言をしたときはどう対応するのがいいのでしょう?
辻:社会には様々な制限がありますが、個人が心の中でどんな感情を持つのも自由ですよね。だから人間は生きていける。宿題は忘れちゃダメかもしれないけど、「やりたくないな」と思うのは自由。やりたくない感情そのものを、否定しないようにしてください。

まずは、「やりたくないんだね」と理解を示したいですよね。その上で、「お母さんやお父さんも会社行きたくないときがあるんだよね」と共感したり、「どうしたらできるかな」「なぜ宿題をやった方がいいと思う?」と切り替え方を考えてあげたり。「じゃあ一緒にやってみようか」と応援の態度を示すのもいいですね。

ーただ「やりなさい」とたしなめるより、子どものためになりそうです。
辻:とはいえ子どもを理解して応援するのは、余裕がないとなかなか難しいですよね。だからこそ、まずは親が自己存在感を持って“ご機嫌”でいることが大切なんです。

親が何を大事にして生きているかって、日々の子どもへの声かけに表れてきます。例えば「〇〇ちゃんは100点なのにうちの子は……」なんて言ってしまうのは、親自身の自己肯定感が下がっていて、それを上げるために子どもに結果を求めている状態です。

でも自己存在感を持った親は、そんな風に一喜一憂しないですよね。「今回は、あなたの目標には届かなかったね。でも、一生懸命勉強してたのが嬉しかったよ」など、子どもの心に寄り添った声かけができるはずです。
親が自分の心に向き合って、自分の中にたくさんの宝物があると知っていたら、子どもにもそれが伝わるんです。

子どもが抱えている問題に、いち早く気づくには?


ーストレスフルな社会で、大人だけでなく子どもたちもストレスを抱えていると思います。子どもが辛さを感じているときの“サイン”などはありますか?
辻:子どもを見ていて「いつもとちょっと違う」と思ったらそれがサインですね。表情や態度、言葉遣いの変化、いつもの生活との違いなどを、感じ取ることが大事です。

お子さんが赤ちゃんの頃を思い出してみてください。泣いている様子のほんの少しの違いだけで、原因がオムツか空腹かを「感じ取って」いませんでしたか? これと同じ感覚を、ずっと持っていてほしいんです。

ただ、変化に気づいても、子どもを追及しすぎることは避けましょう。
親がいつでもアンダースタンドや応援の姿勢でいれば、子どもは親に対して心理的安全性を持つことができます。すると、親に自己開示をしやすくなるんです。
「どんな感情があってもいいんだ」という安心感は、子どもの自己存在感を大いに育み、何でも話してくれるようになります。

逆に親の認知思考や期待志向が強すぎて感情を否定されてきた子は、「いいことを言わないとまた怒られちゃう」と思って、悩みや辛さを口に出せなくなってしまいます。

ー親子の関係、今からでも変えられますか?
辻:大丈夫です。たしかに大人の思考を変えるのは労力を要しますが、親には「子どものため」というとてつもないエネルギーがありますよね。だから気づきさえ得られれば、親子でいい方向に変われると僕は信じています。
親や保護者のための気づきや学びの会をもっと行っていきたいなと考えています。


【辻 秀一(つじ・しゅういち)先生】
スポーツドクター。産業医。株式会社エミネクロス代表取締役。北海道大学医学部卒業後、慶應義塾大学病院内科、慶應義塾大学スポーツ医学研究センターを経て独立。応用スポーツ心理学とフロー理論を基にした「辻メソッド」によるメンタルトレーニングを展開。 ベストセラー『スラムダンク勝利学』(集英社インターナショナル)、『自己肯定感ハラスメント』(フォレスト出版)など著書多数。


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