大好きな職場を偏頭痛のせいで手放してしまったときの話

20代の後半頃、私はとてもやりがいのある仕事に就いていた。
自分の趣味と能力を掛け合わせられる職業であり、まさに天職と言えたであろう。

職場に行くのが楽しかったし、様々な経験もさせてもらえた。
この会社で定年まで頑張って働き続けたいと思っていた会社だった。

だが、その時期に私の偏頭痛は悪化した。

なんとなく頭が痛い、なんとなく身体が重い。
バファリンを飲んでおけば治るだろうと思っていたら快方には全然向かわない。

常に頭がボーっとし続けて、一日中の倦怠感に包まれる。
皿洗いをしていたらガラスのグラスを割ってしまったのにも関わらず、それすら気が付かずに指を切ってしまったり。
コロナが流行り始めた時期も相まって気分は落ち込み続けて一日中ベッドから起き上がれない日が続いたり。

今思い返せば体調不良の原因は偏頭痛だとわかるのだが、この頃は「偏頭痛」という自認ではなく「得体の知れない体調不良」だった。
一向に回復しない自分の身体に嫌気が溜まる。

ついには、あれだけ前向きに取り組めていたハズの仕事にも拒絶反応を示すようになってしまった。

休職届を上司に提出してしまった。

突然の長期休暇であるが、体調不良の原因は仕事ではなく偏頭痛なので回復する見込みもない。
偏頭痛が原因とわかれば対処できるのだが、当時は暗く重い靄が脳を埋め尽くしているので正常な判断をすることができなかった。

数ヶ月が過ぎても身体の調子は回復しなかった。
身体を動かすことができないのならば仕事を辞めるしかないという判断を下してしまった。

上司に退職届を提出する。

子どもの頃に憧れていた場所に置いてあった席を、消してしまった。


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先日、偏頭痛の対処法を学ぶために過去の偏頭痛が酷かった時期を思い出してパターンをまとめる作業をしていた。

「そういえば、なぜあの時期に好きな仕事を辞めてしまったのだろうか」

あの頃に書いていたLINEを引っ張り出し、日記を遡り。自分の気持ちを思い出すように心をなぞっていた。

真っ黒な感情がドス黒く書かれていた文字列を発見したときに、奥底に閉じ込めていた苦い記憶と黒い血が全身を駆け巡った。

私はひとり自室で咽び泣いてしまった。

4年前のこの時期のことを、私は一生後悔し続けるのだろう。

偏頭痛が出ているときの気持ちの落ち着かせ方と体調不良の対処法が今ならわかるし、負のループに巻き込まれて辞めることもなかったハズなのに。

その辛さの原因は仕事ではない、偏頭痛なのだと。

踏ん張って食らいつけばたくさんのチャンスがあったハズなのに。

易々とその場から離れてしまうのは本当に愚策だった。

4年前のこの時期のことを、私は一生後悔し続けるのだろう。

あれだけ教育してくれた諸先輩達をわけもわからず裏切ってしまっていた。感謝のひと言すら伝えられていないじゃないか。今になってようやくその事実に気がつく自分にも腹が立つ。

社会人がするべき行動ではなかったよ。それはもう。

偏頭痛を言い訳にするのも違う気もしてきた。あの頃の彼に突破口はあったのだろうか。「未熟だった」で済まされるのだろうか。あぁもう舌を噛みちぎろうかな。

4年前のこの時期のことを、私は一生後悔し続けるのだろう。

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「この失敗を経験に……」とか綺麗な言葉でまとめることもできず、スマートフォンに文章を打ち込み言語化している。

負の感情に包まれすぎていない時期に上司へ自己開示できていればとか、仲の良かった人に相談するとか、そんなもしも話が脳裏を掠めるが。
こうなってしまった結果がすべてだ。
自分の行動を後悔することしかできない。

これからしばらくはこの気持ちに包まれ続けるのだろう。ベッドの上で続く脳内会議を止めることをできず、この1週間は0時に布団を被っても陽が登るまで眠りにつけていない。

何度も似た様な経験化はあるのだが、こういう時期は体調を回復させて前を向けるときを待つしかない。最近の寒暖差が激しい気候変動についていけず頭痛が悪化していることもおそらく影響しているのであろう。



……。

……。

人はいつかどうせ死ぬのだから。

偏頭痛が悪化し始めた頃から「あぁ、偏頭痛があってよかった」と思える日を作りたいと思っているのだが、夢を叶えることはできるのだろうか。

偏頭痛で苦しむ為に生を受けたわけではないのだから。

せめてしあわせにたのしく日々を生きたいよ、僕は。

偏頭痛のせいだけにするのも良くないと思うけどさ。

でも偏頭痛がない日はとてもしあわせを感じることも事実だしさ。

偏頭痛のノイズに負けず自分の心を正直に理解して日々を積み重ねていくしかない。

特効薬なんてないのだから。

どうせいつか死ぬその日に向かって頑張っていくしかないよ。

がんばろうね。

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