誕生日の裏側に

これを目に留めてくださったあなたは、「お産」を目の当たりにしたことがあるだろうか。

自分がどうやってこの世に誕生してきたか。
ある一人のお子様の誕生日の裏側で、お母さんがどんな風にお腹で育て、どんな風にこの世へ送り出したのか。もしご自分のお母さんに聞けるなら、聞いてみると面白いかもしれない。もしかしたら忘れてしまった人や、楽勝だったという人もいるかもしれない。

私も自分の母に聞いたことがある。私のお産はどんなだった?と。「二人目なのに全然陣痛来なくて、いついきんでいいのかわからなくて大変だったよ〜。しかもあなた36週で生まれて、新生児仮死で、泣かないから先生に逆さまにされてお尻叩かれてたわよ(昔のやり方)。それでも産声が小さくて、ふにゃとしか聞こえなかった。2300gで小さくて保育器に入ってた。おっぱいも吸えないしミルクも全然飲めなかったのよ〜…」と出るわ出るわお産エピソード。その当時はそんなこともあるのかといまいち想像できずに話の言葉面だけ聞いていた。

しかし今ならそれがどんなに大変であったか想像してあげることができるようになった。母の言葉の裏に隠された痛みや苦しみや我が子を心配する心細さに思いを馳せられるようになった。

私が初めてお産を見たのは高校2年生の夏。16歳の時だった。保健体育の授業で生々しいお産のビデオをみんなで見たのを今でも鮮明に覚えている。思春期の男女が見たのでセクシャルな意味でみんなはざわざわしていたが、私にとってそれはそっちのけで、単純にお産に興味があった。

今でもその産婦、それを取り囲む助産師、お産を取る助産師の動きや声かけ、立ち会いをしている夫のことが脳裏に焼き付いている。「人が生まれるというのは、こんなにも大変なことなんだ。自分の母や父もこんな風に私を迎えてくれたのかな。助産師ってすげー!かっこいい!」それが率直な感想だった。周りは赤ちゃんが生まれる瞬間に、うわあ〜と悲鳴にも近い声をあげていたが(女性の陰部がドアップで映っていたので無理もない)、私は感動の涙でいっぱいだった。当時は自分だけ泣いていると思われるのが恥ずかしくて必死に涙を堪えた。溢れちゃってたけどね。

当時の私は人生初めての挫折を経験し、将来どうしたらいいのか迷っているところだった。目指すものが無いのは初めてだったので戸惑っていた。でも、こんなに心動かされる仕事があるんだと知って、私は助産師に強烈な憧れを抱いた。

そしてつい昨日のお産。陣痛はきているものの弱くてなかなか赤ちゃんを押し出せず。お母さんの体力も限界を超えていた。それでもめげずにお産に立ち向かっていた。私は外回りをしており、産婦に水をあげたり、手を握っていきみ方の声かけや励ましの言葉をかけていた。

「まだですか?」産婦にそう聞かれた。赤ちゃんも大きいし中々スムーズにはいかない。もう少し、もう少し。少しずつ進んでるよ!今頭がこのくらい見えてるよ!と必死に励ました。終わりの見えないお産に半分失望していただろう。それでも産婦は「がんばれ〜」と自分になのか赤ちゃんになのかあるいは両方なのか、そう言葉を発した。もうとっくに気力も体力も底をついているのに、母の偉大さはここにあると思った。

そして長いお産が終わり、かわいいかわいい女の子が生まれた。3,600g越えのむちむちベビーだった。

「かわいいね、お母さんよく頑張りましたね。ほんとうにおめでとう、お疲れさま。」そう声をかけると、溢れ出る涙と共に「ほんとうにずっと隣に居てくれてありがとうございました。ほんとうに、ほんとうに心強くて。そばにいてくれてありがとうございました。」とまっすぐな瞳で何度も感謝を伝えてくれた。

私まで泣きそうだった。

もちろん大変なお産だったし、かわいい子が生まれたし、嬉し涙や同情もあるけれど、それ以上に、12年前に見たあのお産の一部に私もなれたような気がして嬉しかった。

ああ、私が16の時に憧れたあの助産師に、私もやっと近づけたのかな。私の存在が少しでも産婦さんを力づけられたのかな。ここまで続けてきてよかった。知らない方が良かったことも、クソみたいな現実もたくさんあるけど、私がやりたかった仕事をやっと手にした気がした。私がやりたかったお産はこれで、産婦にとってそういう存在になりたかった。私のやってきたことは無駄ではなかった。やっと、やっとだ。

なにより私が諦めちゃいけないよな。こんな風にして私もこの世に生んでもらったんだ。こんな素敵な瞬間に関わる仕事をさせてもらっているんだ。腐ってたまるかよ。こんな神聖な気持ち、汚されてたまるかよ。16歳の私に会いに行きたいな。会って、昨日こんな風に言ってもらえたんだって言いたい。助産師を目指してくれてありがとうと言いたい。

お産にはドラマが詰まってる。もし今人生に迷っていたり、失望しているなら、お産を見るの、結構おすすめ。自分はゼロから始まったんだと思える。なにも無いところから始まったと思えば、今の自分は上等じゃね?って。肩の荷が下りるよ。私だけかな?笑

追記
どうしてもお産が怖い人へ

ウミガメが満月の日に産卵するように、私たちも月の影響を受けている。陣痛は寄せては返す波のようなもの。自然の摂理。陣痛は強くて沢山来るほど赤ちゃんが生まれるサイン。だから陣痛を怖がってちゃもったいない。痛い=苦痛と思うのもナンセンス。ラッキー!赤ちゃんに会えるぞ!って思うべき。陣痛は必ず強弱があるから、上手く付き合えば波に乗れてお産がもっと自然に楽になる。せっかくポジティブな波が来てるのにそれを嫌ったり、赤ちゃんが生まれようとしているのに怖がったりしていたら、体と心がチグハグになって、進むものも進まなくなる。もっと自分の体に身を委ねてみて。もっと素直になってみて。赤ちゃんを産みたいんだよね?今ドキの人なら、何年も何回も不妊治療してやっと授かった命なんじゃない?だったらもっと喜ばないと。やっと会えるね!お母ちゃんと頑張ろう!って赤ちゃんとタッグを組んでみて。赤ちゃんはママのことなんでもお見通しだよ。赤ちゃんはほんとうに天使だから、神の子だから、協力すると強力なパートナーになれるよ。プロの私が言うんだからほんとです。大丈夫。みんな知らないだけで、ちゃんと産む力は備わっているんだから。元気にいってらっしゃい!

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