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第五話 じゃばらんだの効用

連載、第五回である。大して読まれている様子がないのに、よく私は続けられるものだ(笑)。今回は、こひなたんの視点からお送りする。

こひなたんはエルフの長

錬金術師hoririumから頼まれたこととは言え、名前のわからない誰かの旅に一緒について行くというのは不安もある。私はエルフとは言え、大して力はないし、魔法だって限られたものしか使えない。一体、この人間はどこの誰なんだろうか。

おっと、自己紹介をしていませんでした。私はエルフの長であるこひなたん。手帳大陸年で5,000年ほど生きている。細かい歳はとうに忘れてしまいました。この世界ではエルフの寿命は大体、1万年弱だから、今が一番良い時期かもしれない。
これまで私は自分の行動スケジュールを周の国で作られた「効率手帳」で管理してきた。この手帳は、黒い羊革が表紙に付けられた無骨で、かつ実用的な手帳である。しかし、hoririumに出会い、彼が作ったじゃばらんだを見たとき、心を奪われてしまった。今や、じゃばらんだを数冊並行で使うほどになっている。

さて、私が使える魔法だが、代表的なものを紹介すると「ライター」と「エディター」である。
ライターという魔法は紙に文字を焼き付ける魔法で、焼き付けるところからライターという名前になっている。文字を焼き付けることで何が起こるかって?手帳に文字が書けることになるのだから、とても大事な魔法でしょう?え!?ペン?ペンって何?この異世界にはそんなペンなどというものは存在しません。
続いて、エディターという魔法。エディターは他の魔法使いが紙に焼き付けた文字を移動したり、消し去ったりできる魔法。ただし、私と同じライター魔法を使った文字が非常に強い場合があり、私の力では移動したりできない文字もあることは事実。まだまだ修行が足りないのである。

私が過去使ってきたじゃばらんだ

私が感じるじゃばらんだ

ところで、じゃばらんだを並行して何冊も使っている私は、じゃばらんだの効用を次のように分析している。
第一に、1年全体の予定が俯瞰しやすい。第二に、月の切れ目がないので週で仕事をする私のような人たちにはぴったり(エルフは7日間でひとつの仕事をする約束事がある)。第三に、1年分を薄い状態で持ち歩けること。何冊も並行して使っているから、第三の効用は私の場合、薄いのだけど(うまい!)。

仲間のエルフたちにこのじゃばらんだのことを話したら、hoririumを困らせることになった。なぜなら、どのエルフも7日間でひとつの仕事をする約束事を持っていて、かつその約束事は全体をよく見ながら進めないといけないから。
手帳大陸には、エルフが約1万居るといわれているが、この全員が使いたいということになると、hoririumは1年中、じゃばらんだ作りに追われてしまう。彼もだいぶ歳を取った。人間だから生きられるのはせいぜいあと100年程度だろう。

だから、hoririumはじゃばらんだを作る仲間として他の錬金術師を探したいと聞いている。しかし、horirium自身はこのじゃばらんだを作ったことで、手帳ギルドから排除されてしまった思いもあるだろうから、この得体の知れない人間にじゃばらんだと聖剣を託して旅をさせることにしたのだろう。

じゃばらんだによって、私のエルフ生活は変わった。だから、この旅を成功させて、たくさんのじゃばらんだがこの世界に供給されることを望んでいる。全てのエルフ、そして少しの人間たちがこのじゃばらんだを使えれば、きっとこの手帳大陸は、あのにっくき「デジタル波」に負けない力を持つのではないかと信じたいのだ。

だから、この頼りなさそうな人間にもついていくしかない。いや、私が導くつもりで旅を進めることになるのかもしれない。しかし、この人のこの黒い靴は何だ?これで山道を歩けるのだろうか。


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