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第六話 靴と眠り

TTである。第六回の連載は私が担当しよう。

痛みと天園

北へと向かう二人だが、その道は今のところあぜ道のような道である。周囲は草が生い茂っており、時々、ぽつんと木が立っていたりする平原である。その中を多少クネクネした細い道が続いている。
道自体はそれほど凸凹でもないため、歩きやすい。ただ、サガワンはビジネス用の革靴である。人間の時間でいう7年前にオーダーで奮発して作った靴である。簡単には脱ぎ捨てられない。しかし、足が痛くなってきた。
「さすがに、こんな道だと革靴で歩くと足が痛くなるな。かと言って裸足にもなれないし、困ったもんだ」
「私は平気」
「平気に決まってるじゃん!あんた、宙に浮いてるんだもん」
そう、エルフは空中をさまよえるのである。歩く必要はない。ただし、スピードはせいぜい人間が速歩きする程度しか出せない。そして、高さもせいぜい50cmほどなのだ。
「この痛さが続くことを考えると、どこかで歩きやすい靴を買うのが良いな」
「買う?買うって何?」
そう、この異世界には金銭は存在しない。基本は物々交換、または労働、情報提供などによる支払いである。サガワンは、それをさっきこひなたんから聞いた。
「どこかに市場とか無いのか?」
「市場とは物を交換できる場所のこと?あるわよ、この先に天園(あまぞの)なら」
(どっかで聞いたような。。。)
「よくわからんが、そこに行こう」
この先というのはエルフの感覚であり、サガワンのそれとは違った。サガワンはくたくたになりながら、なんとか天園についた。
「おお、なるほど、まさに朝市的なものだな。靴を売っているところを探そう、いや、靴と交換できるところを探そう」
「これなんかどう?」
とこひなたんが手にしたのは【Addix】というロゴの付いたスポーツシューズ的なものである。
「それで良いや」
というと、店の親父はサガワンの革靴を指す。
「これと交換したいのか?高いんだぞ!合わないなあ。」
「よし、ならば、お前さんのそのおかしな剣と交換でもいいぞ」
「いや、それは困る。靴でいいよ。その代わり、その端にある革袋も付けてくれないか?」
「おお、こんなゴミで良ければ、交渉成立だ」
ということで、サガワンはスポーツシューズとボロい革袋を手に入れた。革袋にバックパックに入れてあった一部の荷物を移して、こひなたんに持ってもらうことにした。

空腹と空気

「しかし、おかしいな」
「何が?」
「この市場、食い物が売ってないな」
「食い物?それは何?」
「やほ~で調べろよ(笑)」
「載ってないわ」
「口から食べるものだよ。た・べ・も・の!たべもの!」
「この世界ではエルフも人間も何も口にしないわよ」
(そう言われてみれば、もう浜から丸1日くらい歩いているのに腹が減らないな)
とサガワンは思った。この世界では、腹が減らないのだ。喉も渇かない。人間社会でいう、空気を吸うだけで、生きるのには十分である。ただし、体は疲れるので、睡眠は取る。
この日は、浜に打ち上げられて、hoririumに会い、こひなたんと丸1日くらい歩いたわけである。サガワンも疲れて、その夜は泥のように眠った。しかし、その前に今日の出来事を、こひなたんに頼んでじゃばらんだに焼き付けてもらった。こひな体(こひなたんが焼き付ける文字)は、サガワンにとって見たこともない文字だった。

第七話 SCISSORS、現る


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