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第十二話 樂店での調査

連載第十二話は、こひなたん視点でお届けする。
なんとか、手形を手に入れたサガワンはこひなたんとさらに北に向かう。

寄り合いでわかったこと

周の国のギルドの長たちにサガワン(仮)と呼ばれるようになったこの旅人だが、手帳クイズに見事パスして手形を手に入れた。このことは今後の旅をスムーズに進めるためにきっと役立つだろうから、私としてはほっとした。

しかし一方で、寄り合いの話の中で「ある程度の需要がないと他の錬金術師も協力しないのではないか」という視点はさすがギルドの長たちだと思った。その視点はなかった。

こひなたん「ギルドの長たちと話をして良かったわ。需要がある程度ないと錬金術師の協力が得られそうもないというのはその通りね」
サガワン「確かにそうだと思った。しかし、今はエルフたちの中だけで流行っているってことだから、人間にも需要があるかどうかを知りたいところではあるね。何か良い方法がないかな。人間界だと、テストマーケティングとか、需要調査とか、お金を掛けてやるんだが、手帳大陸にはそんな考えあるのかな」

うん、サガワンの言うことはわかる。いちいち、理詰めで説明してくるからちょっとイラッとすることもあるが、これに関しては正しそうだ。何か方法がないかな。。。

サガワン「この間の天園みたいな、手帳を物々交換しているところは無いものなのかな。この間の天園にはなかったように思うけど」
こひなたん「この大陸では手帳は通常、物々交換しないものなの。その手帳を使うことによって何か成果を出す約束をして、供与されるものなのよ。成果は何でも良いの。個人的なものでも良いし、大陸に役立つことでもいい。大事なのはその成果が達成できる目処があるかどうかを手帳を供与する側が理解できるかどうかなの。理解できたとき、手帳は供与され、供与した錬金術師や店は国から褒賞を与えられるようになっているわけ」
サガワン「おもしろい仕組みだな。まあ、それは置いておいて、じゃあ、手帳を扱う店があるんだね。そこへ行こうよ」

確かに、店に行けば需要を聞き出せる可能性はある。そうだな、一番手っ取り早いのはここからさらに少しだけ北に行ったところにある「樂店」だな。あそこの店主ならいろいろ知っているはずだ。暇だとは聞くが(笑)。

樂店の店主との情報交換

こひなたん「ここからさらに少し北に行ったところにひとつ店があるわ。そこへ行ってみましょうよ」
サガワン「また、少しってさ、結構あるんでしょ。この間もちょっと先とか言っていたけど、天園にはかなりの距離があったよぉ」
こひなたん「今度は大丈夫。あなたの感覚がわかったから(笑)」

2人は北へ向かった。人間界で言う2時間ほど歩いたところにぽつんとその店はあった。まさに、大草原の小さな家である。ただ、この辺りは草原の都と言われていて、本当に広い草原が広がっているのである。だから、この小さな店もかなり遠くから見えるが、歩いても歩いてもなかなか近づいてこないということになる。客の多くは途中で諦めてしまい、帰ってしまうとも聞いている。その結果、店は暇なのである。

(カランコロン)
フジー(店の店主である)「いらっしゃい!あれ、見たことないお客さんだね。初めてかい?」
サガワン「ええ、この大陸に三日前に来たばっかりで(^_^;。しかし、どこから声がしているんだかわからないくらい毛むくじゃらですね」
フジー「おお、そうだったそうだった。顔を見せんとな」
といい、フジーは毛むくじゃらの手で真ん中から左右に髪をかき分けた。すると、そこから人なつっこい顔が見えた。かき分けた髪をピンのようなもので上に止めて、彼はニッと笑った。
フジー「で、ご用件は何じゃい。手帳をもらいに来たのかい?」
こひなたん「いえ、実は違うの。店主さんに聞きたいことがあって寄らせてもらったの。話ができるかしら」
フジー「おお、俺が話すことで何か役に立つのかい?そもそも、あんたたちどこの誰なんだい?」
サガワン「これは失礼しました。私たちは旅をしているのですが、その旅の目的がこのじゃばらんだという手帳を一緒に作ってくれる錬金術師をさがすことなんです。しかし、ある程度の需要が見込めないと錬金術師からの協力も得にくいだろうという助言を得たので、その調査にこのお店に来させてもらいました」
フジー「へえ、どんな手帳か見せてもらおうかね」
といって、フジーはじゃばらんだを手に取った。蛇腹状の紙を畳んだり、裏返してみたり、伸ばしてみたりしてから、一言「うーん、なるほど」と言った。
こひなたん「どうですか。便利そうな手帳でしょう?」
フジー「そうだな。難しいところはあるな。なにせこの形状だと、周の国にも月の国にも認められないだろう?」
こひなたん「さすが店主さん。実はこの手帳を企画したhoririumという錬金術師は両方の国のギルドから外されてしまっているのです。しかし、そういうギルドに縛られない形でこのじゃばらんだを広めたいとも思っているのです。需要はありそうでしょうか」
フジー「そうだな、ないこともないだろう。エルフは使っているんじゃないのか?」との問いにこひなたんは頷く。「そうだろう。週単位で彼らは動くからな。一方で全体感を把握する必要も彼らにはあるから、単なるバーチカルやレフト式では物足りないからな。エルフはごまんと居るんだから、そこで広げれば十分な量が出るだろう?」
サガワン「確かにそうなんですが、エルフ専用にはしたくないというのがhoririumの希望のようなのです。人間などには需要がありませんかね」

ここで、フジーは頭を振った。それはわからないという意味だと私とサガワンは理解した。それきり、フジーは頭の上に止めていた髪を下ろし、黙ってしまった。私たちは対応してくれた礼を言い、店を出た。

こひなたん「残念だったわね。でも他にも店はあるから他でも聞いてみましょう」と私は力なく言った。サガワンは南の空を見ていたが、何を思ったかふっと振り返り、「月の国へ行こう」と言った。

続き 第十三話 バサダー登場


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