見出し画像

第十三話 バサダー登場

第十三話は、語り部TTがお送りする。
エルフにはいろいろな魔法を使う者が居る。その中でもバサダーは治癒系の魔法を使う。

東へ

何を考えたのか、サガワンは「月の国へいこう」と言う。こひなたんは真意がわからないままだったが、従うことにした。月の国へ行くということは北に向けていた進路を東へ変えるわけである。
こひなたんは黙って森の中で空中移動を続けていたが、何かを察知したようで移動を止め、地上におりた。

「こひなたん、何かあったの?」
「魔物の気配がする。この間のSCISSORSとは違う気配だ」

(シャーーー)と金属が何かを削るような音がする。
「敵襲!」こひなたんが叫んだ。
右の茂みから突然、後ろ向きに何かが走ってくる。四つ足に見えるが、前足が長い。後ろ足は人間と同じような足で二足歩行ができそうだ。前足から伸びている部分は薄い金属でできていて、大地にそれを接地しながら両の前足で、時折、火花を出しながら大地に平行線を描いている。
サガワンは重くなった聖剣を背中に感じる。抜けという意味だ。が、この間のように勝手に前にはでてこない。ゆっくりと左手で剣を前に持ち、両手で構えた。

刺し傷

魔物が振り向いた。やはり、二足歩行ができるようだ。立った。前足と思っていたものは今や手となり、そこには鋭い刃物が付いている。顔は昆虫のように目がでかい。思わず、サガワンはつっこんだ「仮面ライダーかい!」
こひなたんが冷静に言う。「オラファーね。この刃物には気をつけないと、かなりの切れ味よ。絶対にじゃばらんだを渡してはだめよ。ザックザクにされてしまうわ」
「その前になんとかしないと、まず、我々も血まみれになるでしょ?」手には聖剣があり、落ち着いた感じでサガワンは言った。が、腰つきは頼りない。

オラファーからの最初の斬撃が水平な弧を描く!サガワンはかろうじて腰を引いて避けた。その瞬間、聖剣がオラファーの小手を打つ!
「また、勝手に動いた!」
(パキーン)という甲高い金属音とともにオラファーの片腕が折れる。が、短くなっただけでオラファーは動じない。オラファーは体をねじって、反対の腕で再び弧を描き、第二波を振る。今度はサガワンの首を狙っている。聖剣が垂直にオラファーの刃を受ける。その弾みでまた先端が折れる。折れた先端はくるくる回りながら宙に舞う。
(ガシャン!)という音がして気づくと、聖剣はオラファーの顔面を脳天から真っ二つに割っていた。
「ふう」とサガワンがため息をついた瞬間、左足の先端に痛みを感じる。先ほど、宙に舞ったオラファーの腕の先が左足の靴に突き刺さっている!
なぜだろう、人間はそれを認識すると痛みが台風の暴風のように襲ってくる。さっきまでは痛くなかったのに。刺さってから少し時間が経っていたのだろう。血が大地を染めている。

バサダーの治癒魔法

痛みを必死にこらえながら、
「これ、抜いたらさらに血が出るから抜かないんだよね?」と情けない声を出す、サガワン。
こひなたんは、自分のポケットから小さな笛を出すと思い切り吹いた。
(ヒュー!ヒュー)という風のような音がしたかと思ったら、さっき魔物が出てきた茂みの奥から手のひらサイズのエルフが複数飛んでくる。こひなたんとは違うタイプに見える。なぜなら、羽が生えているからである。数えてみると、10ほど居る。匹と数えるのか、人と数えるのか?
いずれにしても飛んできたエルフは、静かに大地に舞い降り、サガワンの傷に寄ってくる。円陣を作り、傷を囲むとまばゆい光が放たれた。ゆっくりと金属片は浮き上がり、近くにシャリン!という音とともに落ちた。そして、光が弱くなってくるとエルフは一人ずつ飛び立ち、最後の一人が飛び立つときには光と傷は消えていた。
「どういうこと?」と聞くサガワンにこひなたんは応えた。
「ヒーリング魔法よ。私の仲間でヒーリングするエルフはそこかしこに居るの。私のこの笛を吹けば、すぐに現れる。別名をバサダーと言うのよ。バサダーたちも小さなじゃばらんだを使っているわ」
大きな怪我は治すのが難しいが、先程のレベルの怪我なら治せるのが、バサダーたちである。実は、私もバサダーの世話に何度もなっている。ただし、バサダーは治す対象者を選ぶことで知られているから、サガワンはなんとかその対象に選ばれたということだ。この先の旅での小さな怪我は対応できることになったようだ。

続き 第十四話 情報屋


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?