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【フリーミアム事例集】有料化意向を高める15のモデル


制限された機能を無料で利用してもらうフリーミアム

総ユーザー数と有料化率がフリーミアムモデルのKPI

 デジタルプロダクトでは「5%の有料ユーザー、95%の無料ユーザーで十分成功しうる」という5%ルールが知られている。このルールのKPIは、無料プランを含むユーザー数と、有料化率の2つに分解できるが、フリーミアムのモデル設計では両方を伸ばせる無料機能・有料機能の差分が重要となる。

なお、月額料金は①競合のアンカリング、②顧客の価格受容性に加えて、③自社のコスト積み上げの観点で検討する必要があるが、コスト観点では、有料ユーザーが無料ユーザー分のコストを負担するモデルでコスト計算しておく必要がある。

そのため、無料ユーザーの機能に、高コストサービスが組み込まれている場合、有料化につなげるだけでなく、コスト観点でも回数や頻度などの制限を置く必要がある。


機能制限のフリーミアムか、期間限定のフリートライアルか?

 初期のユーザー獲得のためには、機能制限のフリーミアムか、期間限定のフリートライアルが主な選択肢となる。本当にフリーミアムが適しているかを確認するためには下記の視点が有効だ。

 フリートライアルは「ないと困る」サービスに有効で、何かしらの導入は前提だが他サービスと比較されるようなサービスに向いている。BIツールといった、BtoB大企業やニッチ顧客などで、購買決定者が意思決定すれば一気に契約に至るサービスなどに多い。

 逆にフリーミアムは「なくてもいいが一度使ったら当たり前」「仲間を集めて一緒に使う」のような、じわじわと気運が高まる必要があるサービスに有効といえる。

フリーミアムで制限する機能の勘所

 ポイントは「サービスのコア価値はしっかり体感できる、かつ、「足りない、もっと使いたい」と思える機能を制限すること。コア価値が全く使えなければ無料ユーザーにならないが、一方で周辺価値を制限しても無料ユーザーから脱してくれることはない。

フリーミアムの15の類型

ここまでの整理を受けて、下記に一般的なフリーミアムの類型を紹介する。

登録人数/チーム人数

同じグループ、チームに参加できる人数を制限/拡大する。ネットワーク効果が重要で、1度コミュニティが乗っかるとスイッチにコストがかかるサービスに向いている。
例)Business Suit系全般:バーチャルオフィスGatherの無料版は10名までだが、10名ではオフィス感は体感できるが、複数チーム・部署は入れない。

リモートワーク導入企業のためのバーチャルオフィス空間
無料版は10名まで

検索範囲・検索フィルター

検索可能な範囲、マッチング可能な範囲を制限/拡大する。検索系・マッチングがコアとなるサービスに向いている。
例)レシピ検索サイトcookpadでは無料版でもレシピ検索やレシピ閲覧といったコア機能は体感できるが、有料版ではニーズが高そうな「人気順検索」ができる。

履歴/記憶の長さ

記録を確認する(チャット系)、過去に遡って思い出す(写真・動画系)、推移をみる(ダイエット系)、手懐ける(AIやキャラクター系)サービスに向く
例)LIFE360(家族の位置情報見守りサービス)の行動履歴が2日から30日に伸びる。
例)SELF(メンタリングアプリ)のAI古瀬あいは、有料ユーザーでないと数日で記憶を失う。

位置情報アプリ「LIFE360」は無料版2日間、有料版30日間の行動履歴を閲覧
SELF無料版ではカウンセリングをしてくれるAIがユーザーとの記憶を忘れる

利用時間

1日あたり/1か月あたりの利用時間を制限/拡大する。ユーザーの行動に時間が関わる場合に向く。打ち合わせ、動画視聴など。
例)Zoom無料版40分まで。30分の会議で十分機能を体感できるが、60分の会議利用では使えないため有料版へ移行しやすい。

無料版でもコア機能は解放。もっとも重要な時間に対して制限。

回数

コア機能の利用回数を制限/拡大する。行為がコアのサービスに向いている。無料画像サイトの1日当たりの無料ダウンロード数、マッチングアプリのいいね数、生成AIの呼び出し回数など。

容量

保存できる情報の容量を制限/拡大する。保存できることがコアのサービスに向いている。
slackなど過去のメッセージ保存や、Google Drive、One Driveなどのストレージサービスが対象。

カスタマイズ設定数

アラートやフィルターなどの設定数、種類を制限/拡大する。
位置情報共有(家族の見守り)や、金融取引など、常時見張ることはできないが、アラートによってユーザーの行動を呼び起こすサービスに有効。

パーソナライズ

お気に入り登録や利用履歴からの呼び出し、レコメンドなどを制限/拡大する。ユーザーにあった情報(ニュース、業務上の通知)や機能・UI配置を有料版に開放する。利用頻度が高い、かつ、ユーザーそれぞれで多様な使われ方をする/操作の簡略化ニーズが高いサービスに向いている。

広告

広告を表示/非表示、もしくは程度(種類や頻度、長さ)を変更する。
Youtube広告など、誘因が強烈なコンテンツに対して有効。出稿主からも収益が入るが、顧客体験を損なう可能性があることに注意。広告収入ではサービスリリース時に収益が立たないため、ユーザー数が爆発的に見込めない場合は、基本的にはコア価値を制限して有料化につなげる方がよい。

待ち時間

コア機能のシステム処理・人的対応の優先度を付け、待ち時間に優劣をつける。カスタマーサポートやシステムの待ち時間で「有料化すれば順位が上がる」旨の表示も有効
例)ピッコマ:24時間まてば次話無料

カスタマーサポート

優先サポート、専任サポート、24/365サポート、電話/チャットなどサポ―ト手段を増やす。
無料プランではチャットボット対応にしておき、有料プランで有人対応にするなどの緩急はありうる。法人向けでは機能が複雑だったり、大人数で利用するサービス、消費者向けでは高価格帯サービスや高齢者向けサービスに対して有料化を促せる可能性がある。
例)Microsoft Teams有料版は24時間有人サポートあり。

高度な機能:

高度な機能を開放する。内容はサービスに依存する。
Google Meetでは録画と文字起こしを有料化。
顧客の中でも上位20%のコアユーザーが使いたいであろう機能を特定して有料化してあげることが有効。

Google Meetでは録画と文字起こしを有料化

API提供

API機能を開放し、ユーザーの利用に拡張性を持たせる。
生成AI、地図情報、ヘルスケアなど多岐にわたるAPI機能があるが、その呼び出しに課金する。API接続ユーザーの規模が相当数見込める場合や、広告などの他の収入源がないと、フリーミアムを外した有料化プランに含めるのではマネタイズが難しい。(フリーミアムというより追加的なマネタイズ手段として考えられる。)

XのAPI体系(無料版はPostできるがPullできない)

レポーティング

利用状況のレポートや、分析・洞察を提供し、より効果的な利用を促す。
個人向けでは健康管理やダイエット関連、法人向けでは管理会計や人事、SFAなど、行動の結果を把握する必要がある事項対象が広すぎて把握できない事項に向いている。

SmartHRではレポート機能を有料化

強固なセキュリティ・プライバシー

エンドツーエンドの暗号化、高度なプライバシー設定などを設定する。
翻訳サービスや生成AIでは機密情報や個人情報の入力がサードパーティのデータベースに残存することが憚られる。翻訳サービスのDeepLでは有料版に対し、暗号化やデータ即削除を提供している。

翻訳サービスDeepLでは、有料版に対し入力データの暗号化とテキスト削除を付与


機能を制限するか、機能を追加するか?

 なお、フリーミアムは主に「機能制限型」と「機能追加型」が主な考え方となる。「機能制限型」は有料プランがベースであり、無料プランはかなり機能が制限されたお試し的な要素が強い。「機能追加型」は、無料プランで一通りの機能を提供し、有料プランがよりリッチな機能を提供するタイプである。

 追加機能が、高度かつ多様に考えられ、バーニングニーズがある5%のユーザーが手を伸ばす可能性が見込めるなら機能追加型でよい。しかし基本的には、コア価値が広いユーザーに刺さるものであれば、機能制限型で「足りない」と思ってもらうのがよい。

ただし、重要なことは無料版でストレスを感じると、有料化には結びつかずに離脱するということだ。機能の制限はあくまで体験を損なわず、そのサービスが基準に置いている体験の快適さは提供する必要がある。

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